姉は強し

「おねえぇぇぇちゃーん!」


 ピンクのフリフリの格好を見たやつ全員の目玉をくり抜く。

 なんて暴れるエスクワトルタをなんとかなだめてトースから頼まれたのだと説明した。


 多少顔面のど真ん中を引っかかれる被害はあったものの最終的にはトースの友達だと信じてもらうことができた。

 イグノックス邸にあった中でエスクワトルタの納得するまともな服に着替えてもらってジの家で待つトースのところまで連れていった。


 やはり不安だったのだろう。

 トースはエスクワトルタを見た瞬間に泣き出して抱きついた。


 みんなのことを信頼していないのでずっと険しい顔をしていたエスクワトルタもトースに会えてようやく柔らかい笑顔を浮かべた。

 トースは赤みがかった髪色をしているがエスクワトルタは黒っぽいシルバーの髪色。


 髪色こそかなり違っていてあまり似ていないなと一瞬思うけれど顔を並べて見てみるとどことなく似ている。

 胸で泣きじゃくるトースの頭をエスクワトルタは優しく撫でてあげる。


 自分だってさらわれて危ない目にあったというのにエスクワトルタはとても落ち着いていた。


「ありがとう……ごめんなさい」


 ひとしきり泣いてトースが落ち着いたところでエスクワトルタはジに向かって頭を下げた。


「ありがとうは分かるけど……謝ることなんて……」


「その……顔、やっちゃったから」


「うん、まあそれはね」


 助けてくれてありがとう。

 それと顔を引っかいてしまってごめんなさい。


 帰ったらエがいるだろうと思ったけどエが教会にお仕事に行ってしまっていたので治せないままになっていた。

 ちょっとどころではなくガッツリ引っ掻き傷が顔面にあるのだけどジはもちろん怒ってはいない。


 エスクワトルタの気も動転していた。

 目玉もくり抜かれなかったのだしこれぐらいの被害で済んだのなら軽いものである。


 それにエがいなくても治す手段は考えてある。


「とりあえず助け出せてよかったよ」


「本当にありがとうございます!」


「ともかく……ひどいことはされなかったんだね?」


「変な服を着させられました」


「いや……それは……ひどいことかもしれないけど、なんというか体触られたりとかはしなかった?」


 よほどフリフリの服が気に入らなかったようであるがジが言いたいひどいことはそんなことではない。

 タとケもいるので直接口に出さないようにしているけれどもっと暗い行為をされていないかということなのである。


 ただエスクワトルタの態度を見る限りそうした目にはあっていなさそうである。


「あのおじさんですか? 私には指一本触れませんでしたよ。あの服だって着れば逃してやるっていうから……」


 死ぬほどフリフリの服を着ることは嫌であったがエスクワトルタにはそんなことよりも弟のトースのことの方が心配だった。

 いくつか服を着てイグノックスが満足したら逃してやるというので泣く泣く服を着ていたのであった。


 けれどその過程でイグノックスがエスクワトルタに手を出すことはなかった。

 服を着ることを嫌がったり服を着たりしている様を見て気持ち悪くニタニタとしていただけ。


「それならよかった……」


「よくありません」


「いいじゃないか、よく似合ってたよ」


「……また引っ掻きますよ」


 エスクワトルタは嫌だったらしいけれどエスクワトルタも可愛い顔はしている。

 フリフリの服も似合っていないなんてことはなくてちゃんと似合っていた。


 別にそんなことをするつもりはないが可愛い女の子に可愛らしい服装をさせたいという気持ちがほんの一瞬理解できたような気がしないでもないジだった。

 今度タとケに何か服でも買ってあげようかという気分にはなる。


 ジにストレートに褒められてエスクワトルタは顔を赤くする。


「ともかく疲れただろう? 余ってる部屋もあるからゆっくり休んだらいいよ」


「何もかもありがとうございます。すぐにでもお礼したいところですが先に休ませてもらいます」


 エスクワトルタは力なく笑った。

 犯罪組織でのエスクワトルタの扱いは丁寧とは言えなかった。


 イグノックスが服を着せて楽しむのだから綺麗な状態を所望したので暴力などは振るわれなかった。

 けれどもかなり反抗的な態度を取っていたので口輪をはめられて食事もなく部屋に放置されていたのである。


「後で美味しいもの用意しとくから」


「……はい」


「あと……気になるんだけどお尻のところなんでモゾモゾしてるの?」


 これはトースの方でも気になっていたことで時々お尻のところがモゾモゾと動いていることがあるのだ。

 聞いていいことなのか分からなくてスルーしていたけどこの際だし聞いてみた。


「ああ、これは」


「な、お姉ちゃん!」


 エスクワトルタはトースのズボンに手をかけてお尻の方をずり下ろした。

 なぜか下着ごとずり下ろされてお尻が丸出しになる。


「シッポ?」


「無いような同族もいるのですが私たちには尻尾があるんです。普段は服の中に隠しているのですが感情が高まったりすると……勝手に動いちゃったり」


「は、恥ずかしいよ!」


 お尻を出されてトースが顔を真っ赤にしている。


「シッポだー!」


「フワフワ〜」


「み、見ないでよ!」


 タとケも揺れ動くトースのシッポを興味津々で見ているけれどトースは恥ずかしそうに手でお尻を隠していた。

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