犯罪組織を叩き潰せ4
「何でそんなこと教えてやらなきゃいけない? ママのところに帰りな」
捕まっているというのに余裕の態度を崩さないディアゴ。
手下が捕まっているのを見て逃げたから運悪く見つかったとでも思っているのだろうか。
「あんたこそ覚悟しといた方がいいよ」
「なんだと?」
今ごろヘギウスと国の騎士たちで犯罪組織は完全に制圧されている頃である。
証拠を隠したり燃やしたりするような暇もないはずで、こうしている間にもディアゴの罪はどんどんと重くなっていっている。
「あんた……人を売ってきたね?」
「……何を言っている」
口では強がっているけれど表情がこわばったのをジは見逃さなかった。
カマをかけてみたのだけど間違いではなかったようだ。
「獣人の女の子を売ったな」
「…………お前何者だ」
少しずつカードを切ってディアゴを追い詰めるいく。
当たっていてほしくなかったがタイミング悪くエスクワトルタは売られてしまったようだ。
獣人の女の子まで言い当てられてディアゴの顔色は完全に変わる。
「なぜそれを知ってる! 内部な裏切り者でも……」
「イグノックスか?」
「……!」
最後に核心を突かれてディアゴが渋い顔をする。
いつもならこんなストレートな揺さぶりに引っかかるようなディアゴでもないが状況も悪く、少しずつ打ち崩したことが功を奏した。
「ジ! 大丈夫か!」
一足遅かった。
ジが何を知っているのか分からなくてもう口を閉ざした方がいいとディアゴが睨みつけるがもうディアゴのことなど見ていない。
そうしているとソコからもらった資料を渡してきたリアーネが戻ってきた。
「リアーネ、ユディット、行くぞ」
売り渡されてしまったのならもう時間はない。
「う、わ、分かった!」
「分かりました」
行ってきたばかりだぞと文句を言いたくなる気持ちもあるが真剣なジの顔を見れば何も言えない。
ユディットもグイッとポーションを飲み干してジについていく。
「そいつ頼みましたよ!」
ジの目的は犯罪組織ではない。
ディアゴはそのまま騎士に任せてジは走る。
「パージヴェルさんかセードナーさんは?」
「2人とも建物の中だ」
「あっ、パージヴェルさん!」
正面が派手に破壊された犯罪組織の本部。
ジが着いたタイミングでちょうど中からパージヴェルが出てきた。
「む、ジか。もらった資料の通りに地下を見つけた。何人か人はいたが例の子は……」
「イグノックスです!」
「何?」
「エスクワトルタはイグノックスのところです!」
「本当なのか?」
「先ほど犯罪組織のボスであるディアゴを捕まえたんです。あいつエスクワトルタを売りに行ってたんです!」
「セードナーが中にいるはずだ。急いで呼んでこい」
「はっ!」
女の子が男に売られていったのなら何をされるのか想像もしたくない。
焦りを見せるジの様子にパージヴェルもすぐに動く。
部下に指示を出してセードナーを呼びに行かせる。
「イグノックスなる貴族がどこに住んでいるのかは分かるか?」
「えっと、それは……」
そういえばイグノックスの場所は知らない。
前にソコからもらった資料には書いてあったはずであるが細かな住所まで記憶はしていなかった。
ディアゴにも聞かなかったしイグノックスのことを言うとも思えない。
貴族なので貴族街に住居はあるだろうけれどそれ以上は分からない。
「ううむ……分からなければ助けようもないぞ。いや、今から調べさせよう……」
「分かるよ」
「ぬおっ!?」
スッとパージヴェルの横にソコが現れた。
「……なんでタンコブ作ってんだ?」
現れたのはいいけれどソコの頭はプクッと腫れていた。
さっきまでは普通だったのにこの短い間に何があったのか。
「師匠に殴られた」
「えっ?」
「ちょっと調子に乗ってたらバレそうになっちゃって……思い切りブン殴られた……」
不満そうにソコが口を尖らせる。
ソコは見えていないだけでその場にはいる。
触ろうと思えば触れるし見えていないが故に人はソコのことを避けて通ってはくれないのである。
人が多い場所で集中を切らすと他人にぶつかったりしてバレてしまうなんてことが起こりうるのだ。
「というかガ……師匠もここにいるのか?」
ガルガトの名前を出そうとして思いとどまる。
気軽にガルガトの前を出してはいけない。
聞いていそうなら特にである。
「もちろん」
「もちろん……なのか。まあいいや、とりあえず今はイグノックスの方が優先だ。場所分かるのか?」
「うん、怪しいって言ってたからちゃんと覚えてたよ」
「よし、ナイスだ!」
「どうかなさいましたか?」
騎士に呼ばれてセードナーもやってきた。
「もう売られてしまった子がいるんです」
「なんですと?」
「買った貴族の名前と居場所も分かってます」
「……しかし」
緊迫した雰囲気であるが今のところ売られたというのもジの証言一つしかない。
犯罪組織に踏み込むならともかく貴族にそれで踏み込むのは危険が大きいとセードナーはやや渋る。
「そちらが動かないというのなら私が動く。囚われた子がどのような心の傷を受けるのかは知っているからな」
「うーん……」
「ふん、ならばよい。ジ、行くぞ。責任はこの私が取ろう」
悲劇は起こさせない。
たとえ間違えならば謝罪をして慰謝料も払う。
だが間違いではなかったとしたら動かねばならない。
どこまでも真っ直ぐな人柄はジがパージヴェルの中でも最も評価しているところだった。
「はぁ……お待ちください。こちらの騎士も何人か付けましょう」
「いいんですか?」
「こうしたことの責任は国が取るべきです。ヘギウスご当主にひっかぶせて終わりとはまいりません」
セードナーもただ役人として優秀だからその地位にいるのではない。
昔は燃えるような正義感の持ち主で今だって正しくない行いには怒りを覚える。
立場なんてものがなければイグノックスのところにも自ら乗り込んで行きたいぐらいの気持ちはある。
「違ったら私が辞めればいいんです」
「セードナーさん……」
「そうなったらフィオス商会にでも雇ってもらいますがね」
冗談なのか本気なのかいまいち分からない。
少し苦笑するように笑ってセードナーは犯罪組織の建物の中に戻っていった。
「行こう。時は急を要する」
「はい、ありがとうございます!」
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