犯罪組織を叩き潰せ3
ジはマルゴの腕を切り飛ばした。
悪いと思うけれど悪人に対する情けはない。
「うがあああっ! う、腕がぁ!」
「悪いな、こっちも命懸けなんだ」
腕を切られて戦闘不能になったと思うけれど確実に動きを封じておきたい。
ジは盾でマルゴのアゴを全力で殴り飛ばした。
金属化してガッチガチのフィオス。
いつものプニプニフィオスならばノーダメージだろうが金属化したフィオスが子供の力とはいえかなりの力でアゴにぶつかれば成人男性だろうと無事では済まない。
ジにアゴを殴られてマルゴの瞳がぐわんと揺れる。
白目をむいて膝が折れて地面に倒れる。
「くそっ、ガキ相手に何やってやがんだ!」
「うっ!」
細かい切り傷がユディットに増えていた。
ディアゴのフェイントに騙されたユディットが頬を殴り飛ばされる。
「てめえもしつけえんだよ!」
明らかに押されているユディットであったがその戦い方は悪くなかった。
実力の差はあるものの致命傷は避けて必要な防御は出来ている。
本人としては悔しい戦いとなっているがしっかり持ち堪えてくれているのは大きい。
殴られてもユディットは倒れずに剣を構えてディアゴを睨みつける。
邪魔になりそうだから先に倒してしまおうと思ったのに予想外にユディットが粘るのでディアゴも焦っていた。
マルゴは倒され、投げナイフで助け出してやった男たちもまた騎士たちに制圧されている。
「ケムラニオード!」
無理にユディットを倒す必要はない。
ひとまずこの場から離れなければいけない。
そう思ったディアゴは魔獣を呼び出した。
黒い煙の塊に仮面のような顔がついた魔物がディアゴの魔獣であった。
「ジョーリオ!」
魔獣を出すなら魔獣で対抗する。
ユディットも一度戻していたジョーリオを再び呼び出す。
「命拾いしたと思え!」
「なんだと!?」
ディアゴの魔獣ケムラニオードが画面の口部分から煙を吐き出した。
ケムラニオードそのものと同じ真っ黒な煙が辺りに立ち込めて、ユディットは防御体勢を取って警戒する。
「来ない? ……まさか!」
てっきり攻撃のための目眩しだと思っていた。
しかしいくら待っても攻撃は来ない。
この煙は攻撃のためではないとユディットはすぐに気がついた。
逃げるための煙幕なのだと煙の意味を理解したけれどその時にはすでにユディットはまるで暗闇のような煙に完全に包まれていた。
「くそっ……逃げるな!」
ユディットの声は届かない。
もう反応もなくユディットは右も左も分からないでいた。
「俺があんなガキから逃げることになるとはな……しかしこの世界生き残ったものが勝ち。いつかあのガキどもにも復讐を……」
煙を抜けて逃げ出そうとしていたディアゴ。
たとえどんなであれ生き残って命さえあれば再起することはできる。
状況もいまだに把握しきれていない。
ここは一度逃げて立て直すのがいいと考えて逃げ出そうとした。
ディアゴの魔獣は直接の戦闘能力は弱いけれどこうした使い道がある。
不利な状況でも逃げてしまえばいい。
負けなきゃ負けないのである。
確実に負けない限りは負けじゃないとディアゴは自分なりの理論を持っていた。
「それにしても何が……」
「フィオス……」
「ぐあっ!」
しかし今回は相手が悪い。
「う、ぐ……足が」
足を何かに貫かれてディアゴは前のめりに倒れた。
「どこからそんなものを……それにどうやって」
煙の中から飛び出してきて足を貫いたのは槍。
続けてジが出てくる。
片手には剣を、そしてもう片方の手にはいつの間にか槍を持っていた。
槍はフィオスだった。
剣と盾だけではない。
色々練習してフィオスはさまざまな武器になれるようになっている。
多少伸縮自在の不思議な槍になることだってフィオスには朝飯前である。
そしてジには魔力感知能力がある。
煙も魔力で生み出されたものでノイズがかったようには感じられたがディアゴの存在を感知することは出来た。
煙の中を素早く追いかけたがちょっと追いつけそうになかったのでリーチのある槍でディアゴの足を刺して機動力を奪った。
普通の人ならば真っ黒の煙の中で動くこともできないだろうがジは目でなくとも感知して視ることができるのだ。
「動くな!」
煙が晴れて騎士たちもジのところに駆けつける。
ディアゴに向けて剣を突きつけて退路を塞ぐ。
「クソッ……」
足も深く刺されている。
こうなったらもう逃げられない。
未だに諦めたような目はしていないが抵抗しても痛い目を見るだけだとディアゴは大人しく剣を投げ捨てる。
「おい、あんたどこに行ってたんだ?」
「あ?」
手を縄で縛られるディアゴにジが疑問をぶつける。
なぜなら普段からディアゴが馬車で移動しているとはとても思えなかったからである。
平民街に拠点があるならともかく貧民街に拠点があって一々馬車で移動するのは目立ちすぎる。
自ら目立ちたいというのなら分からなくもないけれど犯罪組織という隠れたい存在のボスがわざわざそんな安い手で目立とうとするはずがない。
小綺麗な馬車で移動する何かの理由があったのだとジは考えたのである。
少し嫌な予感がした。
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