犯罪組織を叩き潰せ2

 リアーネが走っていく。


「俺も現場見てくるよ」


「大丈夫か?」


「もちろん」


 ソコも一応情報を集めるという仕事もある。

 スーッとソコの姿が薄くなっていき、人混みに紛れて消えていく。


 ああなるとジでも探すのは難しいかもしれない。


「…………ん?」


「どうかしましたか?」


 怪しい逃げる奴はいない。

 流れていく人の流れを見ていてジの視界に馬車が入ってきた。


 広い通りなので馬車も通れる。

 しかしここは貧民街であり馬車などあまり通らない。


 普段なら気にしないだろう。

 あまり通らないだけで完全に通らないものでもないから。


 しかし何となくジはその馬車が気になった。

 貧民街を通っている馬車にしては小綺麗。


 向かう方向は騒ぎから離れようとしている人たちとは反対。

 つまりは犯罪組織の方向になる。


 しかしなぜか騎士と男たちが争うのを見て馬車止まった。

 そして中の人がその様子を見て御者に何かの指示を出している。


「……ユディット、あの馬車だ!」


「えっ、はい!」


 怪しい。

 馬車が急に引き返し始めてジは走り出した。


 騒ぎが起きているから引き返すというのは理解できない話でもない。

 けれどジには怪しい馬車が騒ぎそのものよりも騎士に制圧される男たちを見て引き返したように見えたのだ。


 ユディットも慌てて走るジを追いかける。


「待て!」


 勘違いならそれでも良い。

 止めて話でも聞こうと思ったら馬車はむしろ馬の足を早めようとした。


「ジョーリオ!」


 逃げられてしまうと思ったユディットは魔獣であるジョーリオを呼び出した。

 大きなクモであるジョーリオはお尻から糸を馬車に向けて飛ばした。


「フィオス!」


 流石のジョーリオでもこのまま馬車と力比べしていては負けてしまう。

 ジはフィオスを呼び出して馬車に向かって投げた。


「フィオス、車輪だ!」


 馬車を追いかけながらジはフィオスに指示を出す。

 馬車にへばりついたフィオスはうにょうにょと移動する。


「そうだ!」


 もし間違いでも馬車ぐらいなら弁償してやるつもりはジにはある。

 後輪左側の車軸にまとわりついたフィオスは車軸を溶かす。


 車軸が溶けて車輪が外れて転がる。

 ガクンと斜めになって地面にぶつかる馬車の中からフードを被った男が飛び出してきた。


 ここに至ってようやく騎士の方も男たちを制圧してジたちが怪しい馬車を追っていたことに気がついた。


「クソガキ!」


 飛び出してきた男は右目に眼帯を付けていた。


「……ディアゴだな!」


 ジはソコからもらった犯罪組織の資料を思い出した。

 犯罪組織のボスの男には大きな特徴がある。


 それが右目の眼帯なのであった。


「ぶっ殺してやる!」


 何が起きているのかディアゴは把握しきれていないが状況は良くなさそう。

 ともかく馬車を壊されたことにディアゴは一瞬で怒りを覚えてジとユディットのことを睨みつけている。


 逃げるのに邪魔になりそうならサッサと処理する。


「お前ら何してやがる! 暴れろ!」


 ディアゴが懐からナイフを取り出して投げた。

 ナイフが投げられた先はジたちの方じゃない。


 騎士に拘束された男たちの方。

 手を縛っていた縄をナイフがかすめていき、男たちが再び自由になる。


 距離もあるのに上手く縄を切り裂いた。

 かなりナイフ投げの技量が高い。


 男たちが再び暴れ始め、騎士たちは男たちの対処に追われる。

 その隙にディアゴが剣を抜いてユディットに切りかかった。


「マルゴ、お前はそのガキをやれ!」


 御者の男も剣を抜いて馬車を捨てる。


「フィオス!」


 ジは再びフィオスを呼び寄せて盾にして剣を抜く。

 マルゴの力任せの一撃をフィオス盾で受け流しながらジは剣を突き出す。


「くっ! このガキ!」


 脇腹を浅く切られてマルゴが痛みと怒りで顔をゆがめる。

 一撃で終わらせるつもりが浅かった。


「死ね!」


 子供だからと手加減するつもりはないようで力任せに剣を振り回す。

 ただあまり強くはない。


 素人ではないがどこかでまともに習った剣術でもない。


「うっ!」


「ユディット!」


 力で押してくるので少し面倒。

 ジが隙をうかがっているとユディットの苦しそうな声が聞こえてきた。


 ジが見るとディアゴの剣がユディットの肩をかすめていた。

 ディアゴもお飾りのボスではない。


 荒くれ者が所属する犯罪組織を見事にまとめ上げていた。

 単なる政務的な能力だけでなくそうした者たちが従うだけの能力、ひいては強さもあるのだ。


 隻眼だからと油断できる相手なんかではない。

 ユディットもそれなりに強くなってきた。


 けれど実戦的な経験を積んできたディアゴの変則的な剣に対応しきれていない。


「よそ見してていいのか!」


「おっと!」


 ユディットの方を見ているジにマルゴが容赦なく剣を振り下ろす。

 魔力感知を広げていたジは攻撃を容易くかわした。

 

 けれど早くマルゴを倒さなきゃと少し焦りを覚える。


「その剣、俺に寄越せよ!」


 ニタリと笑いながらマルゴはさらに攻勢を強める。


「悪いな!」


「なっ……!」


 ジが魔力を込めて剣を強化してマルゴの剣を切り裂く。


「この剣は人にやれないし、余裕がないんだ」


 本来なら生かして捕らえるべきであるが生かしたまま捕らえるというのは圧倒的な力の差があって成し得ることである。

 変な手加減は己の命を危険に晒す。

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