協力を得よう1

 ヘギウス家に行ってみると困り顔の執事が対応してくれた。

 困っているのはジに対してではない。


 パージヴェルに来客があって話が少し激しくなっているようで困っているのであった。


「このままでは日が暮れてしまいます。止めていただけませんか?」


「俺がですか?」


「はい。ジ様にもご関係のない話ではございませんので」


 パージヴェルの来客がどうしてジに関係あるのか。

 不思議に思いながらもただ仲裁のためだけにジを投入することはないだろうからとりあえず執事についていく。


「だから犯罪組織など全て潰して捕まえてしまえばいい!」


「だからはこっちのセリフです! そんな単純な話ではないんですよ!」


 ドアが閉じていても中の声が聞こえてくる。

 片方はパージヴェルの声で、もう片方は聞き馴染みのない男性の声。


 何があったんですか?という視線を執事に送る。


「今来客なされているのは国の治安維持部門の行政官のトップの方です」


 どうやら問題は想像よりも根が深そうだ。

 オセドーから報告を受けてそう思ったパージヴェルはさらに国の方に報告を上げて協力を要請することにした。


 安全のために犯罪組織を注視しているのは国も同じことでヘギウス単体が持つ情報よりも色々と知っている。

 犯罪組織を潰すためならば協力も得られるだろうと思ったのだ。


 ヘギウスからの要請、さらにはどうにもジが関わっているらしいことも掴んでいたために国の方も素早く動いた。

 治安維持部門のトップがヘギウスを訪れていたのだが話し合いは平行線を辿っていた。


「何が問題だというのだ! 犯罪組織など無くなって当然だろう!」


「そうではありますが微妙なバランスなどもあります。全てを潰せばいいという問題ではないのですよ!」


 話し合いの内容としてはパージヴェルはかなり過激で犯罪組織を片っ端から潰してしまえばいいと主張していた。

 リンデランの件以来パージヴェルのそうしたものに対する印象は最悪で無くすべきであるという考えを持っていた。


 今回エスクワトルタがさらわれた事件があった。

 どこがさらったのか分からない。


 悠長に調べている時間もなく事は急を要する。

 ならこの機会だし人さらいをするような疑わしい犯罪組織は全て潰してしまえばいい。


 相当激しい主張であるが理解できないものでもない。

 ジとしても犯罪組織など無くなってしまえばいいと思う。


 だが犯罪組織の話はそう簡単なものではない。

 国としても犯罪組織など無い方がいいのは言うまでもない。


 全部の犯罪組織を潰してそれで終わりならばいいのだけど決してそれだけで終わらないのが実情である。

 犯罪組織からの抵抗もあるだろう。


 確実な証拠もなければ結局拘束し続けることはできずに解放するしかなくなる。

 犯罪組織を潰していけば空いた所を狙って新たな犯罪組織が生まれたり既存の犯罪組織の争いも激化する。


 そうした騒動の割を食うのは一般的な国民たちなのである。

 結局は全ての犯罪組織を潰すことも難しいのだ。


「失礼します。ジ様がお越しになられております」


 どちらの言い分も分かる。

 どう止めたものかと考えていると執事がドアをノックして声をかけてしまった。


「どうぞ、お願いいたします」


 どうぞじゃないが、と思うけれどドアも開けられて黙って立っているだけなわけにもいかないので仕方なく中に入る。

 中に入ってみるとパージヴェルと治安維持部門のトップの他にオセドーと治安維持部隊の隊長もいた。


「む? おお、ジ、どうした?」


「例の件でお話ししたいことがあってきたんですがどうやらご白熱のようですね」


「何か進展があったのか?」


「その前に……ご紹介いただけますか?」


 さらりとジと会話をしているがもちろん部屋には治安維持部門の人たちがいる。


「そうだな。こちらは国の治安維持部門の行政官のセードナー・ホッケンバームと治安維持を担当する騎士団の団長ポンガ・マツェイド」


「セードナーです、よろしくお願いいたします」


「ポンガです、どうぞお見知り置きを」


「ジです。ご丁寧にありがとうございます」


 セードナーとポンガが立ち上がってジに一礼する。

 ジも頭を下げて挨拶に応じる。


 どこに座ればいいのだろうと思っていたら執事が椅子を持ってきた。

 それはいいのだけどパージヴェルとセードナーの間になるようなところに椅子を置く。


 この執事、ジのことを何だと思っているのか。

 ポジション的にまるで議長のようなところに小さくため息をついて座る。


「まあ話は軽くうかがいました。パージヴェルさんの言うことも分かります」


「そうだろう? 犯罪組織など潰してしまえば……」


「ですがセードナーさんの言うことももちろん分かります」


「ぬぅ?」


 犯罪組織が良いものだと全面的に肯定は出来ないのであるが犯罪組織があるから保たれているものもある。

 大きな犯罪や犯罪組織間の争いなどは犯罪組織が目をつけられることを嫌がるために、しっかりと存在していると起きにくい。


 犯罪組織が細々とした犯罪組織の抑制になっている部分があるのは否めないのである。

 あとは情報ギルドというのも人の情報を調べるというところではグレーゾーンな部分がある。


 だが色々な人が情報ギルドを利用する。

 犯罪になるところがあるからと情報ギルドを取り締まっては困ることも起こるだろう。

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