目星をつけよう2

 オランゼからもらった情報もなかなか面白い。

 奴隷が欲しいなんて日頃から口にしている人から奴隷がいるとポロッと口に出してしまった人もいる。


 さらには言いはしないが疑わしい人もいる。

 例えば使用人が絶対に入れない部屋があるとか普段使わないのにこっそりと離れの館を使う家主がいるとか行動として怪しさがある人もちゃんと拾い上げている。


 当然理由があったり使用人との浮気をしていたりなんてこともあるのでそうした人は除いてある。


「イグノックス男爵……」


 かなり怪しいとされている名前が一つ。

 奥さんと子供は自分の持つ領地において首都で単身働いているイグノックスという貴族である。


 状況的に自由な立場にあるイグノックスは屋敷の一部に普段は使用人が立ち入れない部屋があるらしい。

 そのくせに時々その部屋の掃除をさせたり食事を用意させたりと明らかに何かがいるのだという。


 不倫相手という可能性もある。

 けれどそれにしては屋敷への出入りがない。


 さらにイグノックスは容姿的にもそれほど優れた人ではないようで性格的にも悪く、浮気する相手として選ぶ要素が少ない。

 それなのに服飾屋に寄ったりするなど謎の行動も取ることがある。

 

 なので家中の使用人の間ではイグノックスが奴隷を買って欲望を発散しているのではないかと言われている。

 ただしそれでは怪しいだけ。


 なぜジがイグノックスに目をつけたのか。

 イグノックスが犯罪組織と取引のある貴族として情報ギルドからもらった情報の方にも記載があったからなのである。


 直接獣人について言及したことはないが特殊な相手を求めるような発言はあったようだ。

 最近イグノックスのところを犯罪組織が訪ねていったという報告も書いてあり、妙にジの目につくのである。


 他にも何人か多少の繋がりがありそうな人はいるけれどどうしてもイグノックスが気になる。


「ジ」


「はい師匠」


「こうした時は大体最初の勘ってやつがあってるものだ」


 いくら付き合わせても確定的なことはない。

 思い悩むような表情をしているジにグルゼイが声をかけた。


 経験則ではあるが妙な引っ掛かりを覚える時はその感覚を忘れてはいけないのである。


「……そうですね」


 どの道他に判断材料はない。

 イグノックスについては証拠もないので踏み込めないだろうが犯罪組織の方は違う。


 少し無理矢理でも理由をつけて犯罪組織に手を出すことはできるかもしれない。


「人をさらうような組織……タとケも危険だからな。この際お前が潰してくれると助かる」


 間違っていたら問題になるかもしれない。

 けれど相手が犯罪組織な以上は救われる人はいる。


「ソコ」


「この組織だな。任せておけ!」


 ジと一緒に情報を眺めていたソコはジが何を言いたいのか理解していた。

 大事な人がさらわれる痛みはソコにも分かっている。


 トースのためにとすぐさまソコは家を飛び出していった。


「ユディット」


「はい」


「ヘギウス家に向かうぞ」


 今ならまだ助け出せるかもしれない。

 ジは防寒具を羽織ってヘギウスに向かった。

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