目星をつけよう1
「お耳、本物?」
「触ってもいい?」
「本物だよ。うーん……優しくなら、いいよ」
タとケがトースの揺れるミミを見つめている。
蛮族、あるいは獣人に対して偏見を持つ人は多くいるけれど貧民街においては特に嫌っている人は多くもない。
直接的に蛮族の被害を受ける人も少なく、そうした意味では蛮族について聞かれても北にいる民族ぐらいの認識である。
実際に目の前にすると造形的な違いから警戒心を出すことはある。
しかしタとケは見た目的な違いから相手を警戒することはなく、むしろ興味津々であった。
偏見などではなく純粋な興味だとトースもタとケの目を見て分かったので怖がることもなく接していた。
タとケはそーっと手を伸ばしてトースのミミを触る。
「ふわふわ」
「気持ちいい」
「そうか?」
「すまないな、タとケの相手してもらって」
「ん、いいよ。この2人は心が綺麗だ。だから僕も好きだよ」
「触らせてくれてありがとう」
「ありがとうございます!」
「うん、どういたしまして」
トースはタとケの頭を撫でる。
やはりこの双子は人の内側に入るのが上手い。
ジ以外の人を警戒していたトースが柔らかな笑みを浮かべている。
ずっと張り詰めた表情をしていたのでタとケのこうした能力はありがたい。
「ソコはまだ戻ってきてないか?」
「うん」
「まだ」
「そうか……じゃあ早めに飯にでもするか」
何かあった時にすぐに動けるように常に体の調子を整えておく必要がある。
早めにご飯を食べておこうと思ってタとケと台所に向かう。
ジもそれなりに料理はできる。
過去長い人生を1人と1スライムで生きてきたので料理ぐらいはやってきた。
貧乏料理なのでタとケには及ばないけれど下ごしらえの手伝いなんかは出来るのだ。
暖炉から火を持ってきて火を使って料理をする。
こんな時でも、あるいはこんな時だからこそ温かい料理を食べて体も心も健やかに保つのである。
「ジ兄、あれ取ってー」
「あいよ」
「ジお兄ちゃんこれ切って」
「任せとけ」
タとケの指示の下でジもテキパキと動いていく。
モンタールシュに行ってスパイスも買い込んできたタとケはスパイスを使った料理も模索していた。
使いすぎると刺激が強すぎたりもするのでなかなか難しいようである。
目標はリアーネも美味しく食べられる料理らしい。
「ジ、待たせたな!」
家の中に料理のいい匂いが漂い始めた頃、バーンとドアが開いてソコが家の中に入ってきた。
「……飯時でも狙ってるのか?」
「たまたまだよ!」
「まあいいや。少し座っててくれ。もう少しで飯できるから」
「うい!」
悪夢から解き放たれ、自分に出来ることがあると自覚したソコはかなり明るくなった。
むしろこうした人柄がソコ本来のものなのだろうとジは思う。
「子供たちの方、終わりました……あれ、ソコさんじゃないですか」
料理が出来始めてジがお皿をテーブルに並べていたら外からユディットが帰ってきた。
ユディットは子供たちがいる家に燃料となる木を運び込んで様子を見てきてくれていた。
「おつかれユディット。ちょうどご飯出来たところだよ」
「あっ、手伝います」
真っ昼間にこんなふうに料理して誰かと食事を取ることなど過去ではあり得ないことである。
多少裏に抱える問題は重たいが食事にそんな雰囲気は持ち込まないようにしてみんなで食べる。
「キレイキレイ〜」
「フィオスお願いね〜」
食べ終わったお皿はフィオスが綺麗にしてくれる。
皿に残ったソースも美味いのかフィオスは喜んでお皿を綺麗にしている。
「それで、情報集めてきてくれたのか?」
お腹も満たされたところでソコがやってきた目的を聞く。
大体分かっているけどもしかしたら違う可能性もある。
「分かってたみたいにまとめてあったよ。ジからの要望を聞いてさらに詳細にしてくれたらしいよ」
予想通りであった。
ジはソコから情報を受け取る。
調べてもらった犯罪組織のそれぞれの情報が紐でつづられた冊子にまとめられている。
こうなると犯罪組織も形なしだなとジは思う。
どちらの組織もかなり悪質なものだった。
一つはかなり前から存在しているもので、もう一つはモンスターパニック後の混乱期に生まれた比較的新しい組織であった。
新しい組織の方はかなり早い速度で組織を成長させている。
その分だけ汚いことや暴力的なことも厭わない組織であるようだった。
ただこうした情報も新しく調べたものではなく元々調べてあったものである。
いかに情報ギルドであっても1日2日で犯罪組織を調べられはしない。
人身売買についても獣人の情報は記載がない。
「これとこれを合わせて……」
この情報だけでは結局エスクワトルタがどこにいるのか確定できない。
なのでオランゼのところで得た情報と付き合わせてみる。
ジは考えた。
表に情報が出てこない。
売るつもりであるならばそうした商品があると多少の宣伝はしてもいいはずなのに全くそうした動きがないのである。
ならばきっと売る先が決まっているのではないかと推測した。
お得意様のような相手、そうした趣味や希望を持っている相手がいて声をかけて売ろうとしている可能性がある。
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