遺跡に向かい2

「うん……大丈夫なんだけど……なんだか変な気分」


 ここ数日の奇妙な気分が遺跡に近づくにつれて増していく。

 ソコはこれまで味わったことのない感情に困惑を隠せなかった。


 きっとこの感情も何かに直面した時に感じるのだろうがソコの人生の中で感じたことがないのでなんの感情なのかも説明できないでいた。

 言葉にして吐き出せもしないので1人悶々としたまま抱えるしかない。


「きっと何か見つかるさ」


 安い励ましの言葉だけどジとしてもそうして声をかけるぐらいしか出来ない。


「うん……」


「早めに寝とくといい。

 明日も早い」


「そうするよ」


 早めに野営して早めに起きて移動する。

 起きていてもすることがないのなら寝てしまった方がいい。


「う……うぅ……」


 テントに入って横になったソコはすぐに寝てしまった。

 元々どこでも寝られるので旅の中でも全く寝付くことには問題がなかった。


『この子は従わない……強制的にやらせるしかないか』


『やめて……お願い……私は戦いたくない……』


『アレを持ってこい。

 くそっ……適応性は高いのに面倒だ』


『なんでこんなことをするの?

 どうして……殺さなきゃいけないの?』


『やるんだ。

 この国の未来のために』


 頭の中に声がこだまする。

 少し掠れたような男の声。


 そしてそんな男に届かない女の子の声。

 もしかしたら口にすら出していない心の中の苦悩の声かもしれない。


 相変わらずほとんど何も見えないがその中で声だけがはっきりと聞こえた。

 最初は体も動く感じだったのにやがて自由が利かなくなっていく。


 何かを強制されて、意思とは関係なくそれをやらされる。

 何をやらされているのか、そこははっきりとしない。


『戦え。それがお前の価値だ』


「……ソコ!」


「……あ、はっ!」


 強く揺すられてソコは目を覚ました。

 ジが寝ようとしてテントに行くとソコはまたうめいていた。


 ひどく汗をかいて苦しそうに声を上げていたので起こした。

 ぼんやりとして焦点の合わない目をしているソコ。


「大丈夫か?」


「あ、ああ……」


「また悪夢見たのか?」


「見た……というか聞こえたというか……」


 はっきり覚えている声もあればなんだかよく分からない会話もあった気がする。

 女の子の声がやたらと聞こえていたことは覚えていて、その次に感情もわからない男の声。


 後は雑多に色々な声がしていたがその内容は思い出せなかった。


「汗拭けよ」


 ソコは汗でビチャビチャになっている。

 ジが汗を拭くように布を渡してやる。


「ありがとう……」


「今水でも持ってくるから。

 動けるなら着替えた方がいいな」


 服も汗で濡れている。

 このままだと冷えて風邪をひいてしまう。


「……大丈夫でしたか?」


 テントを出るとモーメッマがいた。


「大丈夫そうです。

 しばらくなんともなかったんですけどね」


 モーメッマも心配そうな顔をしていた。

 子供にとっては過酷すぎる呪いの後遺症。


 出来ることなら早く解放してあげたいと思っている。

 呪いの研究をしているのに何もしてあげられない無力な自分が恨めしいとすら感じてしまう。


「こちらよければお使いください」


「これは?」


「火をつけて軽く燃やしてください。

 そうすると良いにおいがするので。


 心が落ち着く効果があるので少しばかり役立つかもしれません」


 悪夢そのものを取り除くのは無理だが少しぐらい楽にさせてあげたいと思った。

 建国祭のお祭り期間には色々なものも集まるのでモーメッマはお香のようなものを作った。


 多少気持ちでも落ち着けば変わるかもしれないと考えていた。


「ありがとうございます」


「また悪夢を見るということは原因に近づいているということだと思われます。

 もしかしだら遺跡周辺の村や集落にソコさんがかけられたのと同じ呪いにかけられた人がいるのかもしれませんね」


 よもや封じられた遺跡の中に人はいないはず。

 けれどこうしてソコの反応が大きくなったことを見るにその原因には近づいているはずなのだ。


 調査隊が入る側からは封じられているが向こう側にはどこか外に通じる場所があって誰か出入りしているのかもしれないなどモーメッマも色々と考えていた。


「どの道遺跡の調査が先ですね」


「何かヒントになりそうなものでもあればいいのですが……」


 遺跡の鍵だって実際使用してみるまで鍵として使えるのかも分からない。


「とりあえず俺はソコに水持っていってあげないといけないので」


「ええ、引き留めてしまい申し訳ありません」


「これありがとうございます。

 ちょっと使ってみます」


「少しでも良い夢を見られるといいですね」


 モーメッマは優しく笑って自分のテントに戻っていく。

 ジも近くの川で汲んできておいた川の水をコップに入れてソコのところに持っていった。

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