モンタールシュの建国祭5

「私が招待した客人なのだ、私が責任を持つのは当然である。

 許していただけるだろうか?」


「も、もちろんです!

 モンタールシュ国王様におかれましては何の否もないことです」


「ふふ、賢く優しいな。

 クオンと呼んではくれないか?」


「そ、そのようなこと恐れ多いです!」


「よい。

 あなたは客人でありわが国の臣民ではない。


 一定の敬意は払うべきだろうが私を国王だとへりくだる必要まではないのだ」


 国王はその国の人にとって国王でありジとは何の関係もない。

 そうした理論も分からなくないがだからって他国の王様を相性でなど気軽に呼べるわけがない。


「ならばクオンシアラと呼んでほしい」


 それもどうかと思うけれどクオンなどと呼ぶよりはいいかもしれない。


「ではクオンシアラ国王と呼ばせていただきます」


「ふふふ、固いな。

 まあそれでもよい」


 なんとなく上手く誘導された感じが否めないでもないがあまり拒否し続けてもまた失礼になる。

 とりあえず国王と付けておけばそんなに失礼にもならないとジが出した折衷案にクオンシアラは目を細めて笑った。


「貴公の噂は聞いている。

 我が国の人間が大きな迷惑をかけてしまったな」


「そのようなことは……」


 そうだけどそうですとは答えられない。

 クオンシアラの噂に気性が荒いとは聞いていないがどのような人柄なのか把握しきれていない。


 怒らせてはいいことなどないので丁寧な態度で接する。


「罪人を確保してくれただけではなくその後の処理についても感謝している。

 引き渡し、財物の放棄など難しい話だったろうに」


「それも良い大人たちがやってくれたことです」


「ふふふ……本当に良い大人に囲まれているようだな」


 この年でこうした謙遜の言葉を口にできるものではない。

 良い人が周りにいるのだろうとクオンシアラは思った。


 国同士での話し合いの中でもジに関する扱いは丁寧だった。

 調べた中では大きな貴族の隠し子なんて話もあったがあながち間違った話でもないかもしれないとすら思える。


「さらには優秀な商人だとも聞いている。

 今はそちらの話の方が興味がある」


「事前にそのようにうかがっております」


「話が早くていいな。

 だが今は祭りを楽しむとしよう」


「そうですね」


 なんだかんだとまだ料理にすら手をつけていない。


「この後は演劇や歌劇などの催しもある。

 また後ほど人をつかわすからその時に話をしよう」


「はい」


「……これだけ見せておけば他の者も貴公に不要な手出しをしてくることはないだろう」


 少し声を抑えてクオンシアラがニヤリと笑った。

 簡単な挨拶だけで終わらせずに会話をしたのには理由があった。


 周りに対するアピールのため。

 クオンシアラが会話をすることで周りに対してクオンシアラの客であることを強く印象付けた。


 会話の内容が分からなくても王様の大事なお客であるならば粗相は働けない。

 ローランのような愚か者が出ないように行動で釘を刺しているのだ。


「それではまた後で」


 さすがスマートなやり方だとジは感心していた。

 最後にまた優しく微笑んでクオンシアラは離れていった。


「うちの主様は王族に好かれる才能でもあるのか?」


「なんだよその才能」


 いつでもジを守れるようにそれなりに近くにいたリアーネは料理をモグモグしながらジの側に寄ってきた。

 そのような才能あったところでどう活かしたらいいのだとジは笑う。


「まあでも女たらしではあるからな……」


「えっ、なに?」


「なんでもない」


 王族に限らずジは人たらしな側面がある。

 ニノサンやユディットなどの男にも効果を発揮しているがやたらとジの周りには可愛い子も多いとリアーネは思う。


 ジにも色々やることはある。

 別に独り占めしたいとかそんなことは思わないしジもしっかりとリアーネに気遣ってくれているのは知っているけど抑えようのない小さな嫉妬はどうしてもあってしまう。


 でも護衛として側にいて見守る時間も長いからこそ目についてしまうということもある。

 こんな気持ちについてリアーネは親友であるテミュンに相談したことがある。


 テミュンは微笑みながらリアーネがこんな気持ちを持つなんて喜ばしいことだと言っていた。

 その気持ちを抱くことは悪いことでもなんでもない。


 受け入れて自分がどうしたいかを考えることが大事なのだと。


「どうしたんだよ?」

 

「ん、なんでもなーい」


 リアーネに見つめられてジが不思議そうに首を傾げた。


 側にいられるだけでもいい。

 ジが必要としてくれている限りリアーネはジの騎士であり続けるのだ。


「これ、美味いぞ」


「じゃあ食べてみるかな」


 ステキな主人の側にいられる。

 それもまた幸せなのである。


「ただまあ……チャンスあればな」


 側にいるということはチャンスも多い。

 ジの周りにいる女の子は容姿のレベルは高いがまだまだお子様。


 大人のお姉さんタイプはいない。


「私がお姉さんっていうと違うかもしんないけど……」


 それでも周りとは違う魅力をアピール出来る。

 テミュンはありのままの方がいいですよなんて言ってたけど周りとの違いを押し出していくのがいい。


「ほら私が取ってやるよ」


「ああ、ありがとう」


 出来るお姉さん。

 これで十分戦えるとリアーネは謎の自信を見せていたのであった。


 テミュン曰く意外と抜けたところあるから出来る女アピールはやめといた方がいいのに、という意見は聞かなかったことにして。

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