モンタールシュの建国祭4

 こうした人を見るたびに思う。

 普通の人とは異なった雰囲気をまとっている。


 王たるものであるからだろうか、威圧感とはまた違う相手が大きく見えるような威厳がある。

 クオンシアラが登場する少し前から給仕の人たちが慌ただしく会場のお客に飲み物を配り始めていた。

 

 飲み物を受け取ったジはタとケに優しくまだ飲んじゃダメだぞと教えてあげる。

 クオンシアラが片手を上げるとざわついていた会場が一瞬で静かになる。


「私は昔から父上の話が苦手だった……」


 凛とした声がジの耳にもしっかりと届いてくる。


「だってそうだろう?

 いつも父上の話は長かったから」


「クオン……!」


 おどけたようにクオンシアラが笑顔を浮かべてブラーダも笑いながらも困った感じを出している。

 会場からもクスクスと笑いが起こる。


「だから私は王になった時にこうしようと決めたのだ。

 話は短めにとな。


 今日は我らが国がこの地に根付いた偉大なる日である。

 だが難しいことはない。


 モンタールシュを打ち立てた我らの先人への感謝を胸に今日という日を過ごしてくれればいい。

 みんな、建国祭を楽しんでくれ!


 乾杯!」


「人心を掴むのがうまそうな王様だな」


 大抵偉い人っていうのは話が長い。

 それに大体つまらない。


 クオンシアラは少し笑いも入れてながらも話を簡潔にまとめた。

 みんなが一度グラスを持ち上げ口をつける。


「あ、おいしー」


「ね!」


 子供であるジたちにはお酒ではなくちゃんとジュースを用意してくれた。

 少しトロッとしたジュースで飲んでみると強い甘味が口の中に広がった。


 これだけでデザートのようである。

 クオンシアラの音頭で建国祭のパーティーが本格的に始まった。


 音楽が鳴り始めて会場に再び喧騒が戻ってくる。

 本格的に人々の交流が始まるけれどジには特に交流すべき人もいない。


 だからやるべきことはクオンシアラの言う通りに楽しむこと。

 王城に勤める料理人が作ってくれる料理を食べる機会なんてそうそうない。


 タとケを引き連れてテーブルに並べられた料理を取りに行く。


「はじめまして」


「ああ、はじめまして……」


 何がいいかなと吟味していると先ほどブラーダと話している時に割り込もうとして怒られた貴族の男性がジに話しかけてきた。


「私、ローランと申します。

 どうしてこのような光栄な場にあなたのような人がいらっしゃるのか気になりまして」


 お、なんだコイツとジは思った。

 短い言葉なのにもうジを見下したような、気に入らないような意図が透けて見えているのはなぜだろう。


「建国祭に呼ばれるのは国に貢献をしたものや私のように地位のある貴族でなければいけないのです。

 それなのにどうして、このような場に?」


 なら考えりゃ分かるだろうと薄い笑顔を貼り付けながらジは思った。

 貴族に見えないのなら国に貢献した人だろうが。


 ブラーダに怒られたからだろうか、やっすい逆恨みで絡まれてはジもたまらない。

 

「光栄なことにご招待いただきましたのでそれに応じただけです」


 だけど何をしたと言われても盗掘団を逮捕しただけなのでそんなに大声で誇れることでもない。

 貴族でもないし、この国の人でもないジがどうやってコイツをいなしたらいいのか分からないでいるとローランはネチネチと小言のようにジに言葉をぶつける。


「招待状をお金ででも買ったのですか?

 ブラディラクア様と少し話したからとご調子に乗られない方が……」


「調子に乗っているのはどちらだ?」


 表現が直接的にバカにするようになってきてジも苛立ってきた。

 するとローランの肩を強く掴む人がいた。


「お……王様……?」


「そちらの者は私が直接招待状を送った者だ」


 みるみるローランの顔が青くなる。

 肩に指が食い込む痛みと自分の失言にようやく気がついた。


 ジが全く反論もしないので文字通り調子に乗ってしまっていたのだ。

 ローランの肩を掴んだのはクオンシアラであった。


 離れてみていると分からなかったが近くで見ると身長も高かった。

 先ほど挨拶していた時の朗らかな表情とは違って冷たい目をローランに向けている。


 周りの人も止める気配はない。

 意外とこのローランという男は疎まれているのかもしれないなとジはのんびり考えていた。


「私が送った招待状を金で買っただと?」


「も、申し訳……」


「ギャダビ」


「はっ!」


「この者を連れていけ」


「承知いたしました」


「お、おうさ……ゴフッ!」


 騎士に取り押さえられるローラン。

 弁明をしようとしたが騎士に無理やり口を閉じられた。


「次にくだらぬ言葉発してみよ。

 その時は二度と口が開かぬようになる」


 ローランが引きずられるように連れていかれる。

 多少嫌味を言うぐらいなら目をつけられることもなかったのにいつまでもグチグチと絡んでくるからこういうことになるのだ。


「申し訳ないな。

 まさかあのようなものが出るとは想像していなかったこちらの落ち度だ」


 冷たい表情を消してまた柔らかな笑顔を浮かべてクオンシアラはジに振り向いた。


「い、いえ、こちらこそありがとうございました」


 黙って耐えていれば誰かが助け舟を出してくれるだろうとは思っていたけど王様が助けてくれるだなんて思ってもみなかった。

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