モンタールシュの建国祭6

「ねえねえジ君!

 あちらで何かやるようですよ!」


 クオンシアラからも解放されて食事を楽しんでいた。

 周りにクオンシアラのお客だとアピールしたおかげか話しかけてくる人もいない。


 というかむしろ避けられているぐらいだった。

 それなりにお腹も満ちてきたな思っていたらグイッと腕を引っ張られた。


 ニコリと笑うリンデランに引っ張られて行ってみると大道芸人が芸を披露していた。

 抜き身の短剣を空中に放り投げてジャグリングする。


 ヒヤヒヤとする光景であるが大道芸人は上手く剣をキャッチしては投げるを繰り返す。

 こうしてみると会場には意外と子供もいる。


 ジだってお仲間を連れて来れるのだから子供がいる人は子供も連れてくることができるのだろう。


「すごいな」


 ウルシュナも料理を食べながら大道芸を見ている。


「あまりあのようなもの見たことないので楽しいですね」


 リンデランとウルシュナはジを挟んで会話する。

 流石だなと思うのは貴族の子供たちが大道芸を見ながらもチラチラとリンデランたちのことも見ている。


 特にリンデラン。

 地黒な人が多いモンタールシュの中で雪のように真っ白なリンデランはよく目立つ。


 見たことがないタイプの美少女に顔を赤くして顔をチラ見しているのだ。

 ただそんな美少女が腕を絡ませている相手がいる。


 ジだ。

 話しかけてくる人はいないが嫉妬混じりの視線を感じるようになったなとジは思った。


 もう1人大道芸人が出てきて今度は2人でジャグリングしたりする。

 こうした一芸があれば過去でも多少稼ぐことは出来たのかなと少し考えたりしながら大道芸を楽しむ。


「すごかったですね!」


 色々と大道芸を見て興奮したようにリンデランも拍手を大道芸人に送っていた。

 こうしたものを純粋に楽しむリンデランも純粋だなと微笑ましい。


「中庭の方に特設ステージを設けまして、そこでこれから演劇が始まります!

 中庭では魔獣もお出しいただいて構いませんのでぜひご覧ください」


 続け様に招待客をもてなすイベントが開催される。

 今度はステージが用意されていてそこで劇を見せてくれるみたいだった。


「ジ兄ちゃん!」


「劇観たい!」


 まだもう少し料理でも食べるか迷っているとクイクイと服を引っ張られた。

 振り返るとタとケがいた。


 ミュコに出会ってからというものタとケは演劇や歌劇などに興味を持っていた。

 教えてもらった踊りも練習しているようだし無料で劇が見られるとあって目を輝かせている。


 しかしタとケの後ろには俺に言えばいいのにという表情を浮かべたグルゼイがいた。

 一応ちゃんと双子ちゃんの面倒はグルゼイが見ていてくれているのだ。


 ちなみにニノサンは独身貴族女性に絡まれていた。


「んじゃ中庭の方に行ってみようか」


「やったー!」


「いこー!」


 今度はタとケに手を引かれて中庭の方に向かう。

 ちゃっかりリンデランとウルシュナもついてきてみんなでゾロゾロと移動する。


 中庭では魔獣を出していることもできる。

 魔獣も言いつけておけば他の魔獣や人を襲うこともないので中庭は魔獣や人が入り混じっていた。


 ジもフィオスを呼び出す。

 いつもは一緒にいるのだけどこうした正式な場では流石にフィオスを出しっぱなしにはしていられなかった。


 呼び出されたフィオスはジの肩に乗る。

 寂しかったのかジの頬に体を寄せてスリスリとしている。


 短い間だったのにジもフィオスが側にいないことに違和感のようなものを感じていた。

 体を寄せてくるフィオスに妙な愛おしさがある。

 

 タとケも自分の魔獣である妖精を出して自由にさせてあげる。

 フィオスにも自由にしていいぞと言ったのだけどフィオスはジの側から離れるつもりはないようだ。


「この感じ……久々。

 ちょい気まずい」


 慣れた魔物ばかりなので忘れていた。

 何体かの魔物がジ、もといフィオスを見て頭を下げるような素振りを示した。


 魔獣の契約者が魔獣が急に頭を下げるのを見て不思議そうな顔をしていた。

 何者なんだフィオスと思うがフィオスに聞いても言葉は返ってこないので偉いスライムなのかもしれないと思っておく。


 何者でもフィオスはフィオスであるのだし。

 ここにきても王様効果が発揮された。


 もうステージ前の座席には人が集まっていたのだけどジがキョロキョロと空いてるところはないかと探していると席を譲ってくれる人がいた。

 話しかけるような勇気もないけど多少の恩を売っておいてもいいだろうという考えなのである。


 おかげで最前列に座ることができた。

 タとケでジをサンドイッチして座る。


 程なくして演劇が始まる。

 祝いの席にふさわしく演劇の題材は明るく英雄譚のようなものだった。


 分かりやすく面白い。

 タとケの期待したものではないが観やすい演劇で楽しんでくれているようだった。


 途中ヒロイン役を演じていた女性が歌を披露する。

 演劇の内容に沿った英雄の活躍を歌にしたもので聴き惚れてしまいそうなほどであった。


 最後は英雄が悪魔に取り憑かれた悪を打ち果たしてヒロインと結婚するというラブロマンスで終幕した。

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