遺跡と悪夢1

 遺跡が多いこの国には遺跡研究所という機関がある。

 文字通り遺跡を研究する機関でありそこにモーメッマはいた。


「お久しぶりです」


「お久しぶりですね。

 なかなか呪いについてご進展がなくて申し訳ありません」


「いえ、こうして調査していただいているだけでもありがたいですよ」


 呪いの魔道具なんてものの後遺症が簡単には解決できるとはジも思っていない。

 わざわざ他の国にまで赴いて調査してくれているのだから感謝しかない。


「こちらはこの研究所の遺跡調査班の班長であるバジリトさんです」


「よろしくお願いします。

 お話は聞いています」


 ガッチリとした体型の色黒の男性であるバジリトとジは握手する。


「今回盗掘団が盗掘したとみられる遺跡の発掘調査を行ってくれている責任者です。

 私も今はバジリトさんのチームに同行させてもらっているんです」


 魔道具そのもの、あるいは呪いについて調査をすることも必要であるが持ち主がいない以上は調査にも限界がある。

 呪いの魔道具が出土した遺跡やそれに関する背景などを調べることで呪いについても何か分かるかもしれないと遺跡を調査していた。


「今回発見された遺跡ですがどうやら地下に広がっているもので偶然入り口を見つけた人から盗掘団が情報を買ったようです。

 そちらの国からもぜひ調査を言われてこちらも取り組んではいるのですが情報もなくて何をしていた遺跡なのかもわからないので調査もなかなか進んでいなくて。


 さらには閉ざされた扉まで発見されて……

 それについてモーメッマさんから事前にご連絡が言っていると」


「ええ、持ってきています」


 ジは袋をテーブルの上に置いた。

 モーメッマがそれを手に取ってひっくり返して中身を取り出す。


「ひい……ふう……みい……6つ。

 ありますね」


 袋の中身は以前鍵と言われた不思議な石の工芸品であった。

 モンタールシュに出発する直前に手紙を受け取り、この石の鍵を持ってきてほしいと言われていたのであった。


 遺跡を調査するのならばそのうち必要になるのではないかと思っていた。


「どうやらこちらはお話にあったように鍵で間違いないようです。

 遺跡を調査していたところこのような大きさの物をはめ込む場所があったのです」


 盗掘団の話は本当だった。

 遺跡を調べていたところどうやっても開かない扉があって、その横に何かをはめ込めるような場所があったのだ。


 モーメッマは石の鍵を見ていないが呪いの調査のため事件の聞き取りはしていたのでその存在は知っていた。

 これが聞いていたものかとすぐにピンときてジに手紙を送ったのだ。


 ジが了承してくれるなら送ってほしいという話だったのでまさか直接持ってくるとは思っていなかったけれども。


「実は遺跡の調査をしていてこちらでも1つ石の鍵を見つけたのです」


「そうなんですか。

 じゃあ……鍵は揃ってるんですか?」


「いえ、おそらく後1つあるはずなんです。

 はめ込めるくぼみの数は8つあったので」


 モーメッマはゆっくりと首を振った。

 多分石の鍵がはめ込められるだろうところのくぼみは8つあった。


 ジが持っていた石の鍵が6つ、調査で見つけた石の鍵が1つなので計7つ。

 まだ石の鍵がそこのにはめ込めるかも不明ではあるが遺跡で見つかったものであるし関係ないとも思えない。


 とりあえずはめ込めるところと石の鍵がセットだと仮定しておくと石の鍵はまだ後1つ足りないことになる。


「まだ遺跡も調査すべきところはあるのでどこかにあるのかもしれませんがもしかしたらどこかに売られてしまっている可能性もあります」


「盗掘団には?」


 盗掘団に見つけて売ったとかまだ見つけていないとか聞き出せないのかとジは思った。


「それがすでにもう刑が執行されてしまっていて……」


 盗掘団の処罰は速やかに行われた。

 他の国も関係することであるので体面という問題もある。


 盗掘、窃盗、密売と分かっている罪でも重たい。

 さらには他にも余罪が多くあったために盗掘団には非常に重たい刑が下された。


 もう盗掘団に話を聞くことは叶わない。


「ただ没収された財産の中にはこのような石はありませんでした。

 少なくとも彼らがもう1つ持っていたことはないでしょう。


 刑が執行される前にした聞き取りでもおそらく盗掘団は見つけていないはずなのですが先に入った人もいますので」


「先に入った人がいるんですか?」


「盗掘団に情報を売った人が先に少し入って適当なものを盗み出していたみたいなのです。

 その人物は追いかけられていないのですがまだ物が残っていると証明するために盗み出したようですね。


 もしかしたらその時に石の鍵を持ち出しているかもしれません」


「売られてしまった可能性も考えて市場の方も探しているが石の工芸品風であること以外正確な見た目も分からない。

 我々が探していると気づかれれば探し出して高値で売ろうとするやつも現れるかもしれないのであまり大っぴらに捜索もできていないのが現状です」


「なるほど……じゃあまだ時間はかかりそうですね」


「ソコさんの方はどうですか?

 悪夢に何か進展はありましたか?」


 モーメッマが同席しているソコに目を向ける。

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