酷い男2
残しておいてくれと言ったって残しておいてくれなどしない。
「はぁ……」
あくびの次は大きなため息。
「しかしあいつ戻って来ねえな」
チラリと横を見る。
山砦の門前には見張りが本来2人いる。
なのでもう1人いるはずなのだけど今そこには誰もいない。
急にお腹を抱えて森の中に駆け込んで行ったきり戻ってきていない。
結構な時間経っているはずなのにと男は苛立ちも覚えていた。
何をしているのか。
サボるにしたってもっとやり方があるだろう。
戻ってきたらぶん殴ってやる。
そう思いながらまた大きくため息を1つ。
「ん?」
もう1人の見張りが戻ってきたのかと思ったらフードを被った男がフラフラと近づいているのが見えた。
「あぁ……クソ」
見張りの男は舌打ちして男の方に向かう。
またかと思った。
人質を返してほしいと村の連中が時々頼みにくる。
昨日の酒もそうしたお願いのためのもの。
捕らえた人質の関係者がまた返してほしいと言いにきたのだと男は思って不用心に近づく。
「人質は返さない!
何度も来るならお前も痛い目に……」
「返してもらわなくてもいい」
「あ?」
「こちらで取り戻すだけだからな」
「ぐ……な、なに……」
男は剣を抜いて見張りを一気に切り捨てた。
「お前らに返してもらおうなどと考えてはいない」
ためらいもなく深く切り付けられて見張りの男は崩れ落ちる。
フードを下ろして冷たく見張りの男の死体を見下ろしているのグルゼイであった。
「師匠!」
隠れていたジたちが出てくる。
「問題はない。
……あっちも大丈夫そうだな」
グルゼイの視線の先にはニノサン。
剣についた血を拭いながら顔をしかめてジたちの方に向かってくる。
「大丈夫か、ニノサン?」
「ええ、ケガなどはありませんが……ひどいものですね」
「……みんな顔に布巻いていこうか」
「賛成です。
きっとこれからひどいことになりますよ」
みんなで顔に布を巻く。
これは決して顔を隠すためではない。
「行こうか」
見張りは倒してしまった。
相手にバレて動き出される前にこちらから動く。
「開けろ!」
門を開けて山砦の中に飛び込む。
「うげ……」
リアーネがひどく顔をしかめた。
みんなも大なり小なり嫌そうな顔をしている。
山砦の中はひどい状況であった。
酒と、そして排泄物のニオイ。
「おい、早く出ろよ!
も、もう限界……うっ!」
トイレからだけではなくそこら中で漏らしている人がいた。
「我が主人ながら残酷ですね……」
「ここまでなるとは……思いもしなかったよ」
この凄惨な状況を生み出したのはジであった。
「とりあえず制圧!」
「なんだテメェら……ウギャア!」
腹を押さえて地面に倒れ込み浅い呼吸を繰り返す男の頭をニノサンが鞘で殴り飛ばす。
「クッ……」
気絶した男が便を漏らしてニノサンは眉間に深くシワを寄せた。
安全に勝つためにジが考え出したのは毒で相手を弱らせようという作戦であった。
フィオスは高級ポーションをごくごくしてポーションを生み出せるようになった。
同様に毒ならどうだろうと考えた。
けれど毒をフィオスに飲ませるのはリスクがある。
もし毒でフィオスが死んでしまったらという不安はどうしてもある。
そんな時にフィオスがクトゥワが実験に使おうとしていた毒を飲んでしまった。
毒といっても相手を死に追いやるようなものではなく、飲んでしまうとひどく腹を壊す弱い毒でうまく使えば薬にもなるものであったのだ。
しばらく様子を見てみたけれどフィオスには下す腹もない。
状態にも変化がなくて試しにもうちょっとその毒を飲ませてみた。
少しハーブ系の良い香りがする毒でフィオスからもハーブっぽい良い香りがするようになったがフィオスの体調そのものは悪くならなかった。
そしてポーションの時と同じようにその毒をフィオスは出せるようになったのだ。
そしてそのフィオスを山砦にある井戸に仕込んだ。
この辺りには川がないことはビガシュから聞いていた。
けれど宿には井戸があってそこから水を汲んでいた。
山砦の情報をさらに集めてみると山砦は元々村があったところに作られたらしく、水も村にあった井戸を使っているのだろうと情報を得ていたのである。
ソコに夜中山砦に忍び込んでもらって井戸にフィオスを入れてもらった。
そしてフィオスはじんわりと井戸の水に毒を混入させ、山砦の中は腹痛パニックになるという寸法であった。
予想外だったのは近くの村からお酒が献上されたこと。
これにより水の摂取量も上がり、お酒にも酔った山賊たちが作り出したのは地獄絵図であった。
最初にトイレに飛び込んだ人は未だ出て来ない。
他にもトイレに入りたい山賊たちが青い顔をして耐えていたけれどいまだに酔いが残っている人たちが腹痛にそんなに耐えられるものじゃない。
そこら中で脱糞。
出しても治らない腹痛。
ジたちが侵入してきてもそんなことに構うこともできないほどに皆弱りきっている。
ニノサンは思う。
手を汚すことなく相手を簡単に鎮圧できるようにした素晴らしい作戦である。
けれどある種の残酷な光景が広がることになった悪魔のような作戦でもあった、と。
極悪非道。
ジでない人がやっていたならばこう評価しただろう。
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