酷い男3

 でもジだってここまで酷くなるとは予想してなかった。

 全部タイミングが噛み合いすぎたのが悪い。


「お、おい!

 侵入者だ!


 誰……ぐおおおおぉぉぉぉ!」


 大きな声を出そうと腹に力を入れるともうダメだった。

 戦争でもこんな酷い光景見たことがないとジも思う。


 ジたちはとりあえずすでに死屍累々となっている山賊たちを殴り飛ばして気絶させていく。


「ヤバい……吐きそう」


「……よし、リアーネと俺は人質探しにいく!」


「あ、主人……」


「ニノサン、頼んだぞ!」


 もう限界だった。

 泣きそうなリアーネを連れて人質を探す。


「誰かいますかー?」


 山賊たちがあまり近付いていない方の建物に向かう。


「だ、誰だ……」


 ジが声をかけてみると弱々しく返事が返ってきた。

 山賊とは明らかに違う子供の声に困惑しているようだ。


「助けに来ました」


「ほ、本当か!?

 こっちだ!」


 声のする建物の方に向かう。


「リアーネ」


「任せとけ」


「扉の近くにいたら下がってください!」


 扉に丈夫そうな鍵が付けられている。

 リアーネが剣を抜く。


 そして扉を斜めに切り裂く。

 鍵なんて関係ない、切り裂いてしまえばそれでいい。


「た、助かっ……う!

 なんだこのニオイは……」


 建物中には10数名ほどの人が押し込められていた。

 

「みなさんご無事ですか?」


「あ、ああ……大丈夫だがこのニオイはなんでしょうか……」


 みんな鼻を摘んで顔を歪ませている。

 山賊たちがいるところからちょっと離れているがニオイの強さはほとんど変わりがない。


「臭え……お前ら何をやっている!」


 一際大きな建物のドアが突然内側から吹き飛んだ。

 中から大柄の男が出てきて激臭に顔をしかめた。


 周りを見てみると山賊たちが漏らして下半身をひどい状態にしながら倒れている。

 さらにそんな山賊たちを殴って気絶させていっている知らない連中がいる。


 現れたのは山賊たちの頭領であった。

 大酒飲みの山賊の頭領は水も飲まずにただ酒だけを飲んでいたので腹を下すことがなかった。


「やめろ!」

 

 手に持っていた斧を山賊を殴りつけていたニノサンに投げ飛ばした。


「ふっ!」


 大きな斧をニノサンは上手く受け流して弾き飛ばした。


「貴様らここがどこか分かっているのか!」


 剣を抜いた山賊の頭領がニノサンに切り掛かる。

 山賊の頭領が剣を振り、ニノサンは上手くそれを受け流して防ぐ。


 力は強くても速さはニノサンが速い。

 山賊の頭領の剣は掠ることすらない。


 強い怒りがこもった目で睨みつけている山賊の頭領を騎士たちが素早く囲む。


「お前こそ状況が分かっていないようだな」


 部下たちは使い物にならない。

 多くがお腹を下しているか酔っ払っている。


 ほとんど動けないものばかりで動けそうなものから気絶させてきたのでもはや戦える山賊はいない。

 怒りに任せて無鉄砲に突っ込んできたものの周りが見えていなかった。


「お前ら何者だ!」


「通りすがりの正義の味方さ」


 このような状況を生み出しているがやっていることは立派な行いである。

 ニノサンは少なくとも今自分は胸を張れることをしているとニヤリと笑った。


「ふざけるな!」


 もう逃げられそうにはない。

 なら1人でもぶっ殺してやると山賊の頭領は再びニノサンに切りかかる。


「ふざけてなんかいないさ」


 山賊の頭領が剣を振り下ろした瞬間ニノサンが消えた。

 後ろから声がしたと振り向いた。


 けれど振り向いた山賊の体に腕が付いてこなかった。


「我が主人がお前らを倒し、村人を救うことを望まれた。

 ふざけてなどいない。


 それが我が主人なのだ」


「うわああああっ!」


 ボトリと腕がその場に落ちて血が噴き出した。

 離れて見ていたのに見えなかったとビガシュは肝を冷やした。


 一瞬ですれ違いながら腕を切り落としたニノサンの速さは近くから見ていたらまるで相手が消えたように見えたことだろうと思う。


「我が主人はたとえお前のようなものの命でも奪うことはお望みになられない」


 膝をついて切れた腕を押さえる山賊の頭領をニノサンが冷たく見下ろす。


「大人しくしていろ。

 お前らはもう終わりだ」


 拳を振りかぶり山賊の頭領の顔面を思い切り殴り飛ばした。

 大きな山賊の頭領の体が転がって他の山賊たちの便に塗れながら転がる。


 あんな不衛生な状態で大怪我もしていたらトドメを刺さなくても死ぬかもしれない。

 けれどそんなことはニノサンにとって知ったことではない。


「ニノサン、大丈夫か?」


「もちろんです!」


 ジの声に応じて振り向いたニノサンはニコリと笑顔を浮かべている。

 ピクピクと痙攣して気絶している山賊の頭領を見つめる冷たい表情はどこにもなかった。

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