酷い男1
「ジ!」
「お帰り、ソコ」
優しく照らしてくれる月明かりの下でソコが魔獣の能力を解いて姿を現した。
「どうだ?」
「うん、ちゃんとやってきたよ。
もちろん見つかってもないしね」
ソコはジの質問にニカっと笑って答える。
「んじゃ明日の朝だな」
ジたちは今山賊たちがいる山の中にいた。
メンバーはジを始めとしてグルゼイ、リアーネ、ニノサン、そしてビガシュたち騎士4人とソコ。
タとケは危ないので宿でお留守番。
当然イスコは戦えないし双子の面倒を見る保護者として残ってもらった。
山の中で火を焚いてしまうと山賊にバレる恐れがある。
なので周りに気配がバレないようにしながらこっそり暗闇の中で寒さに耐える。
ジたちが泊まっている村からだと山賊のいる山まで距離があるので仕方なくこうするしかない。
しかしジたちには秘密兵器がある。
「これは……すごいですね」
ビガシュが驚きの声を漏らす。
「そうでしょ?」
ただただ寒空の下にいるのは辛い。
けれど火は焚けない。
でも大丈夫。
荷物は極力減らしてきたのだけどこれだけは必須だと持ってきたものがある。
それはテントだった。
見た目上はなんの変哲もないテントであると中に入ってみるとその違いがよく分かる。
夜になると肌が痛くなるように寒くなってくるのに中はほわっと暖かい。
これはパロモリ液を内側に塗ったテントである。
外の冷気を遮断してくれて中にいる人の体温でほんのりと暖かくなる。
山に来るまでの間もこうした夜はあった。
交代でテントの中で休もうよというジの誘いを断らなきゃよかったとビガシュは後悔した。
「気に入ったら仲間とかに上手く宣伝しておいてくださいよ。
もしかしたら販売するかもしれないので」
夜はどうしても冷える。
寒くなる時期でなくても夜が冷たいことは多く、地面と接触するだけで体温が奪われてしまうこともある。
けれどこのテントなら地面も冷たく感じない。
優れた商人だと聞いていたけれどこのようなものを開発しているとは驚きであった。
「これを販売してくれるなら私の所属する部隊は買うでしょうね。
外での活動もありますのでこうしたものは非常に重宝するはずです。
私個人でも欲しいぐらいですよ」
感心したように他の騎士もうなずく。
流石に全員がテントには入れないので外の警戒役と山砦監視に何人か出ていて騎士も1人しかいない。
「作戦もそうですがジさんがすごい人だということがよく分かりますよ」
一商人の護衛をやれと言われた時には多少の不満もあった。
さらにらその相手が子供だと知って騎士たちの中でも誰がやるのだと押し付け合いにまでなっていた。
ビガシュも貧乏くじを引いたのだと思っていたけれど近くで凄さを見るとそんな考え恥ずべきものだったと思い直した。
短い間しか護衛していないがなぜ国が保護しようとしているのか分かるほどに才気溢れている。
むしろ今はこうして縁を繋げたことも運が良かったかもしれないとすら思う。
「お褒めいただきありがとうございます」
パロモリ液関連商品もまだまだ色々売れそうだとジは思う。
「主人」
「どうした?」
ニノサンがテントの中に入ってきた。
山砦の方の監視に行っていたはずのニノサンが来たということは何かがあったのかとジは身構える。
「お耳に入れておきたいことが」
「動きがあったのか?」
不測の事態はどんな時でも起こりうる。
大切なのはどう対処するか。
「やつら、酒盛りを始めました」
「酒盛り?」
「はい、近くの村の連中が機嫌を取ろうとお酒を持ってきたようで宴会を始めています」
「ふーん、そりゃ呑気なもんだね」
「計画に変更はないでしょうがもしかしたらより楽に制圧できるかもしれません」
おそらく大事に変化ないとはいえ山賊に行動があったのでニノサンは報告に来た。
むしろ山賊の行動はこちらの計画を早めることになるかもしれないとも考えていた。
「そうだね。
これなら朝日が昇る前に動き始めちゃってもいいかもしれない」
「それではまた戻ります」
「お待ちください。
そろそろ良い時間ですので交代しますよ」
テントから出ようとしたニノサンをビガシュが呼び止めた。
「夜は長いので少しでも休んでおいてください」
「それじゃあお願いします」
「はい」
外は冷える。
あまり長時間任せないで細かに交代する。
ソコはともかくジもやると言ったのだけどジもまだ子供だと反対された。
グルゼイだけは本人がやると言っているのだからやらせればいいじゃないかと言っていたが外されることになった。
「それでは行ってまいります」
ビガシュともう1人の騎士が出ていく。
こうして夜はふけていく。
山賊は自分たちがどうなるのかまだ知らない。
せいぜい最後の酒盛りを楽しむといいとジは思った。
ーーーーー
うっすらと空が明るくなってきた。
空気が冷えたせいか薄く霧がかかり視界が悪い。
けれどそれはジたちにとって都合がいいぐらいである。
霧に紛れてジたちは動き出す。
「ふわっ……くそ、見張りじゃなかったらな」
山砦の入り口横に見張りとして立っている男が大きくあくびをした。
昨夜はみんな酒を楽しんでいたが男は見張りだったために酒を飲めなかった。
こんなところに来るやつなんていないから酒ぐらい飲ませてくれたっていいのにと不満が顔に出ていた。
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