ちょっと損な性格3

 性格的に近いが故にユディットとニノサンがぶつかることもある。

 今回はリアーネの作戦もニノサンは悪くないと思うが仮に誰かがケガをしたり、あるいはジがそれで負担に思うようなことにはなってはいけないという思いがあった。


「まあまあ2人とも。

 とりあえず正面から潰すのは最終手段にしよう。


 リアーネがケガしたら俺は悲しいからね」


「むっ……」


 ジにそんな風に言われてはリアーネも引き下がるしかない。


「少なくとも何人かは奇襲も出来るだろうしね」


 こちらは山賊のことを知っているが山賊はジたちのことは知らない。

 ついでに攻撃されることだって想定されているはずがない。


 作戦はなくともこちらから先手を取って襲撃することはできるだろうと考えていた。


「何かいい作戦があればいいんだけどね」


 多分奇襲するだけでも混乱する。

 けどそこにもう1つ確実な手段でもあれば安心なのにと思う。


 しかしそもそも山賊たちが居を構えている山砦もどのようなものか分かっていない。

 奇襲するといってもどのように奇襲していいかも考えてみると難しいところである。


 数日留まることは問題ないけれどあまり長く居座っても山賊にこちらの存在がバレてしまうかもしれない。

 早めに行動を決めておかねばリスクも高まってしまう。


 山は向こうの慣れた場所だし誘き寄せようにもきっと警戒して山を降りてまで追いかけてくる可能性は少ない。

 火をつけたりするのなんか言語道断。


 人質がいる以上あまり無理なことも出来ない。

 逃してしまって人質を盾にされても困る。


 山賊を倒すにしても逃さないようにしなきゃならない。


「何か良い方法ない?」


「難しいですね。

 下調べも足りません。


 こちらの人数も少ないので取れる作戦も限られてきます」


「そうだよなぁ」


 ニノサンは冷静に考えてみるが情報も人員も足りなさすぎる。


「ひとまずは山賊を倒す方向で大丈夫でしょうか?」


「そうですね」


「ではこちらもそのつもりで待機しておきます」


「とりあえず明日は1日待機ということで」


「分かりました。

 では私たちは店主に井戸でも借りて体を綺麗にしてくることにいたします。


 何かありましたらいつでもお申し付けください」


 外を馬で走っていれば大なり小なり体が砂っぽくなる。

 宿に泊まれない時は体を払うか、少し贅沢に持ち運んでいる水で布を濡らして拭くぐらいである。


 このように村や町などで水が使えるならちゃんと身を綺麗にしておく。

 今時水は冷たいが不衛生にしていると体調を崩したりするリスクが高まる。


 旅の途中で体調不良になるなんて全体にものすごい迷惑をかけてしまうので清潔さを保っておくことは大切なのだ。


「いい作戦かぁ……」


 ぼんやりとして手が止まっているのでフィオスが撫でろとジの手に向かって跳ねる。


「フィオス……」


「何か思いついたようだな」


 ジがニヤリと笑った。

 グルゼイはその表情を見てまた何か思いついたようだと勘づいた。


「ふふふーん、山賊を制圧するのに苦労もないかもしれない。

 ……もしかしたらもっと大変なことになる可能性もあるけれど」


「ふん、またなにをするつもりだ?」


「ふっふっふーん、こっちにはフィオスがいるからね!」


「……分からん」


「まあ見ててくださいよ」


 人質がいるとまで聞いてはほっとけない。

 合理的に行動するなら誰かに任せて遠回りするのがいい。


 ビガシュが手紙を出すのに任せても、あるいはジが一言添えるだけでも王様の耳に話が届く可能性もある。

 でも無視ができない。


 お人好しとか言われるかもしれない。

 でもそれで良いんだ。


 きっとここで困っている人を無視していったら旅行を楽しむことができない。

 ちょっとだけ損してるなぁと思ったりもするけれどこれが自分らしいのだとジは思う。


「頼んだぞ、フィオス」

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