有償無償、色々親切3
「……なんだかほっぺた赤くないですか?」
「あっ、これはちょっとね……」
さっきまでつねっていたので頬が少し赤くなっている。
リンデランがそれに気づいて不思議そうに首を傾げた。
「俺はサーシャさんと話があるから3人先に行ってなよ」
「分かった。
ほら、行こう!」
ウルシュナがエの手を引っ張って連れて行く。
「じ、自分で歩けるよー!」
ウルシュナからしてみればエはアカデミーでの友達と違って自分を偽らずに接することのできる相手の1人だった。
実はもっと仲良くなりたいと考えていた。
「微笑ましいわね」
サーシャはそんな様子を見て笑っていた。
「それじゃあ私たちも……」
「ちょっと待ってください」
「あら?
なにかしら?」
続いて屋敷内に入ろうとするサーシャを呼び止める。
「すこーしばかり見てほしいものがありまして」
「あらぁー?」
子供らしくない商人の目。
勘のいいサーシャはすぐさまジがサーシャを呼び止めたのには何かがあると気がついた。
ジが手を上げるとユディットがサッと動く。
馬車の中から一枚のアラクネノネドコを取り出す。
「これは?」
「うちで開発したマットレスです」
「マットレス……へぇ」
サーシャはユディットが手に持つアラクネノネドコを指で触る。
程よい弾力があってフカフカとして感触は悪くない。
チラリとサーシャが馬車の中を見るともう何枚かアラクネノネドコが見える。
「こちらで寝れば快眠間違いなし!
フィオス商会の新商品を特別にご紹介しちゃいます!」
「ふふ、あなたも立派な商人ね」
「どこかお部屋などにこちら運びたいんですけどいいですか?」
「もちろんよ。
マットレスなら……ルシウスも呼んであげた方がいいわね」
サーシャが騎士を呼んでアラクネノネドコを運んでいく。
「会長!
遅いですよ!」
「悪い悪い。
アラクネノネドコについてまず話していてな」
案内された部屋にはノーヴィスたち職人とメリッサがいた。
パロモリ液を塗る加工のための職人とその他の交渉などのためにメリッサが来ていた。
遅れてはならないと先に来ていたみんなであるがジのように打ち解けられるはずもなく部屋の中で緊張して待っていた。
ジが来てようやくみんなもホッとする。
「打ち合わせは?」
「もう済んでいます。
いつでも作業に取り掛かれます」
「じゃあ早速始めてもらおうか」
「分かりました」
「作業の方はうちの執事長が付き添うわ。
何かあったらそちらに言ってちょうだい」
「は、はい。
分かりました」
打ち合わせが済んでいるというなら特にこれ以上時間をかける必要もない。
早速職人たちが道具を持って移動する。
「じゃあこれを試してみる番ね」
正直今はアラクネノネドコが気になって仕方がない。
ジが持ってくるものに今のところ外れはない。
そんなに物欲が強くないサーシャであるが思わずほしいと言わされてしまう。
「サーシャ、どうした?」
別の部屋に移動してベッドの上のものをどけているとルシウスが呼ばれて入ってきた。
「あなた、またジ君が面白そうなものを持ってきたのよ」
流石に貴族となれば床に寝転ぶわけにはいかない。
そんなにサーシャも気にはしないが今は屋敷にメリッサたち外部の人間がいるので見られてもいいような体面だけは保っておかねばならない。
ベッドの上にアラクネノネドコを乗せる。
「これは?」
「アラクネノネドコというマットレスだそうよ」
サーシャが早速座ってみると程よい弾力があってゆっくりと沈み込んで体重を受け止めてくれている。
驚きに目を大きくしたサーシャはそのままコロンと寝転がる。
「サ、サーシャ?」
寝転がったままサーシャは何も言わない。
「うん……あなた、ちょっと来て」
「い、いや……」
横になったサーシャはニヤリと笑うと自分の隣をポンポンと手で叩いておいでと誘う。
しかし今はジもいるのだ。
そんなことは出来ないとルシウスも困惑する。
「ふふ、冗談よ」
来るなら来るでもいいし、来ないなら来ないでもいい。
なかなか妖艶な女性だなとジは思う。
「ん……これは」
サーシャが立ち上がって代わりにルシウスが寝転がる。
より体重の重いルシウスの方が受け止めて包み込むような感覚が強い。
新感覚。
ルシウスが使っているマットレスも良いものなのだがそれとは全く異なっている。
心地が良いとルシウスも思わず唸った。
サーシャがぼんやりとした理由が分かる。
「どうですか?」
リアクションは悪くない。
制作にはユディットの魔獣であるジョーリオが大きく関わっている。
なのでユディットもいいリアクションに思わず口の端が緩んでしまう。
「良い。
非常に良い」
寝転がったままルシウスが答える。
「他にもあるようだけど……」
「これらは少しずつ硬さなどが違います。
試してみますか?」
「……もちろん」
これは売れそうだとジの勘が告げている。
「おかーさま呼びましたー?」
「ええ、あなたもぜひ……あら」
「み、見るなぁ……」
多分ウルシュナも欲しがるだろう。
そう思ったサーシャはウルシュナも呼んだ。
もちろんリンデランとエもついてきたのだけどエの姿は様変わりしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます