有償無償、色々親切1
寒さというのは子供にとって非常に厳しい。
寒さそのものにも弱いこともあるし乗り越えるための手段を子供だと用意ができない。
服もなければ燃料を買うお金もない。
知恵もなければただ寒さに耐えて過ごすしかない。
ジは運が良かった。
比較的しっかりした家があって多少寒さを凌ぐことができた。
それでも厳しくて死にそうになったこともあった。
普段なら乗り越えられる子供たちでもあったかくなってきた時には見ない、なんてことも悲しいながらある話だった。
「悲しみは少ない方がいい」
世の中全ての悲しみをなくすことなどできない。
そこまでジも傲慢なつもりはない。
両手で届く範囲、両手で抱えられるものを自分なりに助けていって少しでも悲しみが減ってくれればいい。
「ほ、本当にいいの?」
「ああ、基本的には一日中火を焚いてるからいつでも来てくれていい」
せめて。
せめて夜寝る間だけでも寒さに震えることのない環境があったのならと思った。
だから作った。
コッコハウスの向かいの家を少し改造した。
こちらの家も壁を取っ払い1つの大きな部屋として、パロモリ液を分厚く塗った木で部屋の真ん中を低く囲い、そこに焚き火を設置した。
床には試作品で作って商品化しなかったアラクネノネドコを適当に敷いてあったりもする。
壁にはパロモリ液を塗ってあるし断熱性能もそこそこなこちらの家はジたちが使うためのものではない。
「いいかい、いつでもここは使ってくれていい。
でもケンカしたり悪いことするならここは使わせないよ」
家に集められたのは貧民の子供たち。
ジが適当に声をかけてそれぞれ集まってもらったのである。
この家は子供たちのためのものだった。
寒さを乗り切れない子供たちのために温かい部屋を提供するつもりで家を用意したのである。
どうしても雑魚寝にはなってしまうが部屋の真ん中に焚き火を焚いてパロモリ液で熱を逃さないようにする。
肌にかけるようなものがなくても凍えてしまうことはない。
特別利益にはならない慈善事業。
でも凍えること、寒さに命が脅かされる恐怖を知っているジだからなんとかしてあげたいと思ったのだ。
こうしたことをしたいと相談した時に反対されることも考えていたのだけどみんな笑ってジの好きにしたらいいと言ってくれた。
ジの言葉に集められた子供たちが顔を見合わせる。
「でも……俺たちお礼できることも……」
「いらないよ。
俺たちは仲間だろ。
共に貧民街を生きる仲間だ。
もし恩にきてくれるならそのうち何かしてくれよ」
都合上雑魚寝になってしまうのは仕方ないが温かく寝られるだけで全く子供たちの生活も違うだろう。
ジが教会の支援もしていて貧民街への炊き出しにも協力していることを知っている子供も多い。
他の人がやったことなら怪しんだだろう。
どこかに連れて行かれるとか、何か労働をさせられるとか警戒しただろうが貧民街出身で未だに貧民街に住んでいるジならばとみんなが思う。
「いつでも?」
「ああ」
「本当に?」
「本当に」
もうすでに焚き火が燃えていて室内は温かい。
なぜ集められたのかと不安げにしていた子供たちの顔が明るくなっていく。
比較的薄手の服の子も多い。
こうした家の準備がもっと寒くなる前に出来てよかった。
年齢の低い子にはあまり火に近づないように言いつけて、年齢が高めな子には周りの子の監督などをお願いする。
火を使って食べ物を焼いたりすることは構わないが注意はするようにとかいくつか決まり事を話しておく。
ここにいていいのだと理解をして涙ぐんでいる兄妹もいる。
ひどく厳しい世の中でジは両手をいっぱいに広げて近くにいる人を救おうと努力していた。
たた大人は自分で頑張ってもらうしかない。
「ジ」
「ん、どうした、エ?」
喜ぶ子供たちはしばらく家で暖まっていくことだろう。
ジが家を出るとちょうどエが家から出てきてジのいる家の方に向かってきているところだった。
「手紙」
「手紙?
……ありがとう」
誰が自分宛に手紙なんか送るのだと思った。
名前や家紋はなく封筒だけじゃ誰からの手紙か分からない。
結局エと一緒に家まで帰って丁寧に開けてみる。
「えーと……モーメッマからだ」
「なにそのマミムメモみたいな人」
「モーメッマだよ……」
エはあってもないので知らないのはしょうがない。
ジも少しマ行が多いなとは思った。
内容は後回しにして最後の署名を見るとモーメッマからであった。
呪いの研究家でソコにかけられた呪いの魔道具が出てきた遺跡を調査するために南にあるモンタールシュという国に向かっていた。
どうやらモンタールシュに着いたようだ。
一応呪いの魔道具が出た遺跡の調査をしたいと申し出たそうであるが未発掘の遺跡をよそ者においそれと調査させるわけにもいかなくて時間がかかっているらしい。
発掘チームを編成してそこに加えてもらえるかもしれないということは書いてあるがどうなるかはまだ不明のようだ。
モーメッマもただ手をこまねいているだけではなくその国の歴史や呪いの情報などを調べていると書いてあった。
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