コッコ、デカコッコ、ボスコッコ2

「少しの間コケコケ言うのも我慢してくれ」


 多少うるさかったからと言ってもわざわざ馬車を止めるような人はいない。

 けれど万が一がありうるのでキックコッコたちにも静かにしてもらう。


 窓も閉めて鳥のニオイが充満する中で町を進む。

 少しばかり緊張感はあったけれど無事貧民街に辿り着くことができた。


「着きました」


「分かった」


 ニノサンが馬車の扉を開けるとキックコッコたちも静かに降りていく。


「……羽だらけですよ」


「そんなもんあとでいいよ」


 キックコッコに囲まれたジは至る所に羽がついていた。

 ニノサンがそれを取ってくれるが今はまずキックコッコたちが優先である。


「ここが新しい家だ」


 ジがドアを開けてやるとキックコッコたちがなだれ込む。

 想定よりも数は多いが家の一階部分の広さならば全く問題ない。


 寝床や卵を産む場所としてワラが敷いてあったり床板を外して日の当たる土のスペースがあったり食べるものを入れておく箱も用意した。

 キックコッコたちが喜びに声を上げる。


 普通魔物というやつは契約された魔獣じゃない限り人間を嫌っているものだけどパムパムの庇護下にあるキックコッコたちは人間を嫌っていない。

 おそらくパムパムのおかげでジ以外の人間が近づいてくると逃げるだろうがジの保護をキックコッコは素直に受け入れた。


「どうだ、パムパム?」


 上等な家、とはいかないかもしれないけど家がある分貧民街に住む人よりも良い暮らししているとは言えるかもしれない。


「コケェ……コケ」


「お、おう……喜んでもらえたならこっちも嬉しいよ……」


 これは抱擁と呼ぶのだろうか。

 雨風凌げるステキなコッコハウス。


 魔物の心配もしなくてよければハウスに入ってみるとほんのりと温かくてそれが染み入るようだった。

 パムパムは感動した。


 翼を広げてギュッとジを抱きしめた。

 いきなりのことにびっくりとしたジであったがパムパムなりの感謝なのだろうと素直に受け取っておく。


 意外とパムパムの翼の中は温かい。


「ほら、行ってやれよ」


 結構長いこと抱きしめられていた。

 キックコッコたちは部屋の中を一通り見学し終えてワラの上に落ち着いている。


 チラチラとパムパムの様子をうかがっていたことは気がついていた。

 ジがそう言うとパムパムは体を離してジの目を優しく見つめた。


「ほーら」


 ジがポンとパムパムの肩に手を乗せてキックコッコの方を見る。

 期待したようにパムパムのことを見ているキックコッコたち。


「コケ……」


 パムパムはキックコッコの方に向かうとその中心に座った。

 ワッとキックコッコたちがパムパムの周りに集まる。


 なんだかんだとパムパムはキックコッコたちに愛されているのだなとジは思った。

 安心できる環境だと思ってくれたのかもう卵を産んでいるキックコッコまでいる。


 なぜなのかフィオスの上にも卵が1つ。

 どうやって産んだんだそれ。


「とりあえず不満とかはなさそうかな」


 不便なことがあればその都度解消していくつもりではあったが今のところ快適そうだ。

 別に隠しているわけではないが大っぴらにキックコッコを飼い始めたことを吹聴してもいない。


 しかしコケコケ鳴く声が聞こえるもので大きな窓もあるものだから人々は自然とジがキックコッコを支配下に置いたことを知った。

 パムパムの契約者であるヒを始めとしてみんなでお世話をする。


 といっても品質が悪くて売り物にならない野菜や麦なんかを安く購入してエサ箱に入れておく程度のお世話しかしていない。

 基本的にはパムパムが統制を取ってくれていて、時にはジやみんなの監視の下で家の前で軽く走ったりしてストレスも少なく生活している。


 契約者はヒなのであるが何かあればジは直接パムパムにお願いしたりしていた。

 そうしてまた誰かが言い出した。


 ボスコッコと。

 誰のことかと思ったらそれはジのことだった。


 単なる冗談のつもりだったのかもしれない。

 しかしキックコッコをパムパムが、パムパムをジが支配しているような関係性が外から見えているのでコッコ、デカコッコ、ボスコッコなどと面白半分で口にする人がいた。


「卵ゲットだぜ!」


 貧民街の人々の間でボスコッコなんて呼ばれることになる。

 そんなことはつゆ知らずジは喜んでいたのであった。

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