商品開発会議1

 気温が下がって寒くなってきた。

 そうなってくると消費が増えるものがある。


 木材である。

 暖をとるために木を燃やして火を焚くのであるが寒ければ寒いほどより大きく火を焚かねばならないのは当然のこと。


 過去を含めて長い間の経験があるジも空気が冷えていくのが早く、これからの寒さが厳しそうになる予感を感じていた。

 通常であったなら慌てて寒さを乗り切る蓄えをしているだろうけれど今回はそんなに焦っていない。


 理由はいくつかある。

 1つ目に上げられるのはダンジョンの存在。


 パムパムのお願いで攻略したダンジョンであるが長持ちする優秀な棒がたくさん取れるダンジョンであった。

 油の絞れる種も油を含むためかある程度の大きさに切って燃やすと意外といい燃料にもなった。


 無理のない範囲で攻略を繰り返して棒や種を集めておいた。

 どの道パムパムたちが安心できるような環境を作るまではダンジョンは秘密にしておくのでちょうどよかった。


 2つ目にパロモリ液がある。

 暖かい時には氷などが溶けないように、あるいは食料品などの輸送にもお役立ちだったアイテムであるがもちろん暖かさの維持にも利用できる。


 隙間風がどこからか吹き込むようなボロ屋では効果もめざましいとはいかないがマトモな家ならかなり燃料の消費も抑えられることだろう。

 あとはなんならファイヤーリザードがいたりフェニックスまでいる。


 暖をとるだけならおそらく困ることはない。


「ということで始めようか、第一回商品開発会議!」


 ジは今ノーヴィスの工房に来ていた。

 工房には人が集まっていてノーヴィスを始めとした工房の人やキーケック・クトゥワ親子、メリッサとニックス、ジの護衛3人組、それに加えてイスコとソコもいた。


 何をしているのかというと商売に関する諸々を話し合うために集まったのであった。

 なんとなく商品開発会議などと名前をつけたのだけどそこまで堅苦しくもない。


 なぜ工房なのか。

 それは木材不足のためだった。


 馬車を作るのには木材がいる。

 しかし燃料分を確保するために馬車に回される木材の供給が大幅に制限されてしまった。


 ジも凍える危険があるのに無理に木材を確保するつもりはなく、そのために工房及び商会をひとまず休業としたのである。


「まずはパロモリ液の方はどうなってる?」


「はい、パロモリ液ですが会長がおっしゃったところにうかがったところすぐにでもと返事がありました。

 パロモリ液の余裕を見つつ施工を行い、次にお声がけするところを検討しようと思っています」


 ジの問いかけにメリッサが答える。

 馬車作りは一旦休止であるがだからといって商会をそれで閉めっぱなしにもできない。


 ただあぐらをかいて木材がくるのを待つだけではなく何ができることでもやっていかねばならない。

 何かないかと考えて思いついたのがパロモリ液による部屋の断熱工事であった。


 日々少しずつパロモリ液も量産を続けている。

 パロモリ液は密閉して空気に触れないようにしておけばあまり劣化をしないで長期間の保存も可能だったのでジャンジャンとストックを増やした。


 ジの家や周りのみんなの家は当然パロモリ液を塗って暖かくしているが一般のご家庭どころか貴族の家だってパロモリ液はないので結構寒い。

 基本的にそんなに冷え込むことも少ない気候なので家の作りも寒さに対して強くないのである。


 そこでジはいくつかの家にお部屋が寒くなくなる加工をしませんかとお手紙を出した。

 すでに馬車の製作の他にパロモリ液での中の気温を保つ加工を始めてもいたのでみんなすぐにやってほしいと返事が来た。


 いくつかの家と言ってもいつもの家。

 つまりはヘギウスやゼレンティガムなんかのお得意様のことである。


 王様にも販促の手紙を出そうか迷ったけどやめた。

 そもそもチェックの厳しい王族に手紙なんか気軽に出せないし一介の商会が軽くどうですかなんて聞けない。


 その上やるとなったら王城の王様などの部屋をやることになる。

 とてもじゃないが引き受けられない気がした。


「担当はノーヴィスさんたち工房の職人さん方が引き受けてくださいます」


 この断熱工事はノーヴィスたちの仕事にするつもりだ。

 なんなら仕事もしていないから金は受け取れないなんてノーヴィスが言いそうだったので先に手を打っておいた形になる。


「均一に塗るだけならそう難しい話でもない。

 若いのの手先の練習にもなる」


「ありがとうございます」


「いいさ、むしろ仕事を回してくれて感謝している」


 職人の分野は分からないと必要な時以外にジが工房に立ち寄ることは少ない。

 けれどそれだけ全幅の信頼を置いてくれていることは分かっているし何か欲しいものや必要なことがあるとジは言う前に手配してくれていたりもする。


 決してないがしろにしているのでも放っておいているのでもない。

 職人の領域に踏み込まないように配慮してそれでも気にかけてくれているのだ。


 工房に何かと小うるさく口を出してくるオーナーもいるのだけどジは全く違っていた。

 職人が腕で実力を語るようにジも適切な態度をとって信頼を感じさせてくれる。

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