呪いの後遺症2

 ウダラックの残した呪い研究の書物にも似たようなことが書かれていた。

 特に魔道具による呪いでこうしたことが起こりうる。


 強い呪いほど解くことが難しくて以前に解いた呪いが解けないままに新しく呪いをかけるということも発生する。

 呪いをかける魔道具と呪いはちゃんと解呪されるまで繋がっていることがある。


 そのために次に呪いをかけられた人とその前に呪いをかけられた人が呪いを介して繋がることが発生してしまうことがある。

 ジもモーメッマの言葉を聞いてそんなことが書いてあったのを思い出した。


「じゃあつまり以前に呪いをかけられた人がいて、ソコはその人と何かで繋がっているということですか?」


「ふむ、呪いそのものは完全に解けているのでかなり特別なケースだがそうだろう」


「どうしたらいいでしょうか?」


 そうしたことがあるのは知っていてもその対策までは書かれていなかった。


「ふぅぅぅぅむぅぅ……」


「何か問題でも?」


 深く悩むモーメッマにジもソコも不安を隠せない。


「いや、解決法としては単純でソコ君の以前に呪いにかけられた人を探し出して解呪をすればいい」


「……なかなか単純ではなさそうですね」


 呪いに関わる副作用なのだから呪いを解けばいい。

 そこだけ聞いたならとても単純である。


 しかしその解決のためには問題が多い。


「そうですね。

 まずは呪いにかけられた相手を見つけねばならない」


 解呪しなきゃいけないが解呪するためにはその相手が必要となる。

 ただその相手とは誰なのだろうか。


「で、でもあいつらも初めて使ったって……」


 これが追いかけようのある状況だったのなら少しは軽く考えられるのだけど呪いをかけられた相手というものが皆目見当がつかない。

 ソコの言う通り盗掘団は呪いの魔道具を初めてソコに対して使った。


 以前ソコ以外に使ったことを隠す理由はない。

 そうするとソコに初めて使ったことは事実であると考えるのが自然である。


 では誰がソコより前に魔道具によって呪いをかけられたのか。


「考えられる可能性は色々とありすぎるので難しいですね」


 盗掘団の誰かが誰かにこっそりと使ったなんていう可能性もある。

 けれど今のところ盗掘団がソコ以外に誰かを操っている様子もなかった。


 ならば問題は複雑化して盗掘団が魔道具を手に入れる以前に誰かが使ったことになる。


「でも魔道具だって盗掘されたものだって話だろ?

 おかしいだろ……」


 しかし魔道具は盗掘されて見つかったものなのである。

 となると魔道具は長いこと遺跡の中に眠っていたはずのものなのだ。


 どこの誰が遺跡の中にあった魔道具を使って呪いをかけて、また魔道具を遺跡の中に戻したというのだ。

 しかもジが聞いた話では遺跡とやらも盗掘団がたまたま入り口を見つけた未発掘の遺跡だった。


「未調査の遺跡から発掘された魔道具が使われた相手……想像もできない」


 モーメッマもお手上げのご様子である。


「ともかく私はその呪いの魔道具が出た遺跡の調査に向かおうと思っている。

 そこで何か分かれば君たちにも報告しよう」


「ありがとうございます」


「悪夢については耐えるしか……

 あまり進めたくはないが悪夢でどんなものを見るのか少しでも良いから覚えておくといい。


 臭い、音、光景、そうしたものは繋がっている相手が感じているものだ。

 場所やその相手のヒントになる可能性がある。


 ただし、あまり深く悪夢について考えすぎると悪夢に囚われてしまうかもしれない。

 それだけは気をつけるように」


「分かりました」


「あまりにもひどいようなら……夢を食らう魔物というものもいる。

 そうしたものと契約している人を探すのも手だろう」


 結局は何も分からないようなものであるが悪夢が呪いの後遺症のようなものであることは確かだった。


「なんて言うだろうね。

 悪夢を見るから辛いって言うより……悪夢を見ていると悲しい感じがして……それが辛いんだ」


「あながちそう遠くないかもな」


「えっ?」


「悲しい感じってやつだよ。

 繋がってる相手ってのは多分ソコと同じく呪いにかけられたやつだってことだろ?


 そうなるとソコみたいに自由を奪われて望まないことでもさせられているのかもしれない」


 人の精神を支配する呪いの魔道具なのでソコの以前に魔道具を使われた相手も同様の状況にあると考えられる。

 ソコは無理矢理盗みをさせられてとても辛かった記憶がある。


 悲しみを感じるのはその相手も望まぬことをさせられているが故の感情で、ソコはそれを感じ取っているのかもしれない。

 

「そうするともしかしたら奴隷のように扱われている相手……かもしれないな」


「誰でも良いんだけど俺みたいに苦しんでいる人がいるなら……助けてあげたいな」


「とりあえずモーメッマ博士の調査を待とう」


「うん……ありがとうね、ジ」


「いつか恩でも返してくれ」


「分かった!

 いつかでっかく返してやるから!」


 少し空元気。

 でもこうやってニコニコしていた方がソコらしい。


 この時まだジたちは後に何が待ち受けているのか知らないのであった。

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