泥棒の正体6
スープを飲み干した男は少し顔色が良くなった。
早速話を聞きたいところだったがまだやることがある。
ニックスには大きなタライを買ってきてもらった。
店の裏にタライを置いて、お湯を沸かして溜めておいた。
男にはそのお湯で体を洗ってもらう。
いささか臭いがキツいからである。
スープが体に馴染む時間も必要。
入浴できるようなサイズのタライではないが湯量は全身を洗うのに十分用意した。
男は体を洗い、古い服は捨てる。
「こんなことまで……」
そしてニノサンに呼んできてもらったエに男の足を治してもらう。
見たところ足のケガはそんなに前のものではないように見えた。
ケガも時間が経つほどに治すのが面倒になるのでお節介のようなものである。
男はまさかそんなことまでしてもらえるとはと感動していた。
「それじゃあ話を聞かせてください」
メリッサとニックスはもうお休みとしてニノサンとエは残る。
男の顔色はかなり良くなった。
「まずは感謝を。
何もかもありがとうございます」
朦朧としていた話し方もだいぶはっきりとしてきた。
「私はイスコと申します。
各地を旅しながら行商人をしている者です」
「商人の方ですか」
「ええ、このような身なりでは信じてもらえないかもしれませんが普段は骨董品や珍しい品を扱っているのです」
「それでイスコさんはソコとはどういったご関係ですか?」
気になっていることは多くある。
焦らず順番に聞いていく。
「ソコは私の甥っ子なのです」
そういえばとジは思った。
ソコには商人をしている叔父がいるなんてことを聞いた覚えがあった。
「ソコを助けてくれってどういうことですか?」
これが1番気になる。
イスコの様子は明らかに異常だった。
商人なので盗賊に襲われて荷物を失うこともある。
こんな町中で食べ物もなく身なりもボロボロになるまで過ごしていることはまずない。
何かのマズイ状況にあったことが予想できる。
そんなイスコがソコを助けてくれと言うのだからきっとソコもマズイ状況にあるのではないかとジは心配していた。
「……全部、私が悪いのです」
泣き出してしまいそうになるのを堪えてイスコが何が起きたのかを話し始めた。
「先ほどもお話しいたしましたが私は骨董品などを扱っています。
ある南にある国に行ったのですがそこでとある品を見つけたのです。
その時はなんなのか分からなくて、珍しい綺麗な工芸品だと思ったんです。
ですがまた行商を続ける中でその工芸品に似たものをたまたま見つけまして。
同一作者のシリーズ物の作品か何かだと推測しました」
イスコは工芸品や芸術品、骨董品などを探しては集めて、それを他に売る行商を行っていた。
儲かるような仕事でもないが色々な珍しい品物を見れるのが楽しくて続けている。
たまたま南にある国に訪れたイスコは綺麗な工芸品のようなものを見つけた。
手のひらに収まるぐらいの大きさのもので石を削り出して表面に複雑な模様が刻んであった。
高く売れそうな物ではないが中々見ていて面白いと思ったイスコは露店でそれを購入した。
しばらく経ったある時別の場所に寄って商品を仕入れている時にまた同じような工芸品を見つけた。
一目見て直感した。
同じ人が作った物だと。
「それから少し気をつけてその品がないか探してみたり、情報を集めてみたんです。
するといくつか見つかりまして」
イスコはその工芸品が何種類かあるシリーズもの、あるいは同時期に複数作られたセット物ではないかと予想していた。
セット物なら全て集めてまとめて売れば高値になるだろうと考えたのだ。
このようなバラバラになってしまったものを探してみるのも醍醐味だった。
「私の手元には5つほど最終的に集まりました。
まだあるんじゃないかと思っていたんですけどとある貴族の令嬢の方がそのうちの1つを気に入ってしまったんです。
考えていたよりも高い金額を提示されて、こちらも商売ですお売りいたしたんです。
その後もこのことがキッカケのように工芸品はポンポンと売れていったんです」
気に入っていたので手元に残しておいてもよかったかもしれない。
そんなことを考えながらも工芸品が売れたおかげでまとまったお金が手に入ったイスコ。
「お金に余裕もできましたしちょっとした短剣が手に入りまして、甥っ子のソコにあげようと思ってボージェナルに帰ったんです」
ソコが持っていたクロークもこのようなイスコのお土産だった。
「……そこで問題が起きました」
「問題?」
今の話のどこに問題が起きる要素があったのかジには分からなくて首を傾げた。
「先ほどから話に出ている工芸品。
これが問題だったんです」
「工芸品が?
まさかどこからか盗まれたものだとか?」
「遠からず、といったところです。
お土産を渡そうとソコに家にきてもらっていたのですがそこにいきなり男たちが乗り込んできて……」
渡すものが短剣だったので親にバレないようにとイスコは配慮した。
こんなことになるなら家に行って堂々渡してやればよかったと後悔している。
「殴りつけられて、『鍵はどこだ!』と」
「鍵?」
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