泥棒の正体7
「私は知らなかったんです。
あの集めていた工芸品は実は鍵だったんです」
「工芸品が鍵……」
いまいち理解ができないジは不思議そうな顔をした。
「相手は違法に遺跡などで盗掘を行うグループでした。
とある遺跡で盗掘をしていた時にその鍵となる工芸品を見つけたそうです。
見つけた時には鍵だなんて思わず私のように売れそうなもの程度だったらしくて鍵を適当に売ってしまった。
しかし遺跡を進んでみると開かない扉があってそこに何かをはめ込むようなところがあった……」
イスコ自身も相手の話を盗み聞きして理解した事情。
襲撃してきた相手は盗掘団であった。
イスコが回っていた国にある古い遺跡で盗掘を行なっていた集団がいた。
金目のものはないかと盗掘をしている時に見つけたのがいかにも綺麗な工芸品に見える鍵であった。
最初それが鍵だと知らなかった盗掘団はあっさりと鍵を売り払ってお金に変えてしまった。
けれど盗掘をさらに進める中で工芸品の形に似ている何かをはめ込める場所を見つけたのだ。
ようやく盗掘団はこれまで見つけたものが鍵であったのだと気がついたのである。
時すでに遅しで手元にあった鍵はほとんど売り払ってしまった。
盗掘団はどこに売られていったか必死に探した先にいたのがイスコなのだった。
複数の鍵を集めていたイスコを盗掘団は追いかけて鍵を取り戻そうとした。
「それが鍵だった。
返せ。
そう言われてもこちらとしてももう売ってしまって残っていたのは1個だけだったんです」
たまたま家に来ていたソコを人質に取られて殴られたイスコは手元にあった鍵を差し出して許しを乞うた。
鍵を売った先も全て正直に話したのだけど盗掘団はそれで許してくれなかったのだ。
「取り戻してこい、そう言われて……」
盗掘団だってバカじゃない。
売り先は貴族でイスコのように暴力的な手段で鍵を取り戻すのは簡単じゃない。
イスコに売ってしまったお前が悪いのだから取り戻してこいと命じた。
「ですが売ったものをいきなり返してくれなどと言いにいっても返してくれるはずがない……」
特に今回売った先は収集癖が強く、少し性格としても癖の強い人も多かった。
「従わないとソコを殺すと言われて……でもどうしようもない、そう思っていた時でした。
ソコが……私の代わりに盗んでくると言い出したのです」
ひどく殴られてグッタリとする大好きなおじの危機にソコは居ても立っても居られなくなった。
あるいはソコの頭の中には父親からも聞かされた諦めぬことを知らず他人を助けようとする友人の姿もあったのかもしれない。
その場で一緒に話を聞かされていたソコは自分が取り戻すと言い始めた。
盗みは悪いことだって分かっているがこのままではイスコも自分も無事では済まない。
貴族の屋敷に忍び込んで少し物を盗んでくるぐらいなら出来ると思ったのだ。
「……私は情けない大人だ。
結局何もできずソコが盗みに入ることになってしまった。
私は逆に人質にされてしまって……」
堪えきれずイスコは涙を流し始めた。
情けなさや申し訳なさ、ソコを守れなかった自分への自責の念で押しつぶされそうになっている。
もちろんソコを止めようとはしたものの殴られてどうしようもなかった。
何もできないイスコなのに、そんな大人でもソコはとてもイスコのことを心配してくれていた。
イスコは人質にされ、ソコは売られた鍵を取り戻すために泥棒に入ることになった。
ソコが逃げ出さないようにイスコは監禁された。
「最初は時々食料とかも運んできてくれていたんですがそれもすぐに運んで来なくなりました」
「どうやって抜け出したんですか?」
「アイツら私を部屋に閉じ込めてろくに監視もしていませんでした。
自慢じゃありませんが私は昔から腕っ節も弱くてケンカもしたことがありません。
だから私が逃げ出すような勇気もない腰抜けだと笑っていました。
でも私だって……私だってやる時はやるんです」
イスコが監禁されていたのは2階の部屋だった。
鍵を外から閉められて出られなかったけれどその部屋には小さい窓があった。
食料もなく極限状態になってイスコは決心した。
大人しく待っていても死ぬだけで、逃げねばソコもきっと最後には無事にはいられない。
幸い窓は開けることができた。
イスコは勇気を出して窓から脱出した。
「その時に足をやってしまいましたが……何とかバレずに逃げ出すことができました」
着地に失敗して足を痛めた。
けれど痛みに耐え、イスコは助けを求めて離れていった。
今いる国や都市は分かっていた。
だが助けを求める相手もどうするべきなのかイスコは迷っていた。
然るべきところにいかねばならないのだけどそうするとソコも泥棒として捕まってしまう。
悩んだイスコはふとフィオス商会についての会話を耳にした。
そしてソコがフィオス商会の会長と友達になったと言っていたことを思い出したのだ。
「お願いします……ソコを助けてください。
私の全てを差し出してもいい!
結婚もせずにふらふらと商人を続けている私にとってあの子は光のような存在なんです」
もはや涙は止まらない。
他に頼れる相手もいない。
一緒に話を聞いていたエもイスコの涙に感化されて泣きそうになっている。
「俺は友達を見捨てません」
イスコが涙でにじむ視界の中でジの目の光を見た。
「ソコは友達です。
あいつが今助けを必要としているなら助けます」
卑怯なことをする盗掘団への怒り、ソコに対する心配、いきなり降って湧いてきた問題への困惑を少し見えた。
それでも強い意思を感じさせる。
「助けてあげます。
俺の全力を持って」
再び涙が溢れてジの顔すら見えなくなる。
「仮にソコが泥棒家業に目覚めてたらぶん殴って止めてやりますよ」
「ありがどうございまず……」
ソコは良い友人に出会った。
久々に会ったソコが1つ大きくなったように見えたのは決して勘違いなどではなかったのだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます