泥棒の正体4
どうであれ騎士たちも優秀で剣を振り回す窃盗団を殺すことなく捕まえることができた。
ひとまずこちら側にケガ人も出なくて安心である。
ジは何もしていないけどリンデランも無事に事を終えられたのならそれでいい。
「答えなさい!
盗んだものはどこにやったのですか!」
リンデランの魔法の下敷きになった窃盗団のリーダーであったが生きていた。
治療を受けて目を覚ましたリーダーにリンデランが詰め寄る。
いつもは柔らかい雰囲気のあるリンデランだけど今は厳しい表情を浮かべている。
けれどただ威圧的なのでもない。
怒りを見せているその姿にも上品さがある。
ただの怒りではなくリンデランという人から滲み出る有無を言わさないような威圧感があった。
ヘレンゼールによって首元に剣を突きつけられていては恐怖しか感じないと思うけれど。
「ぬ、盗んだものは商会の倉庫にある!
あとは……もう売ってしまった」
「ヘギウスで盗んだものは!」
「へ、ヘギウスだと?
それは俺たちじゃない!
ヘギウスになんて入れるはずがないだろう!」
それに大貴族に手を出しては罪はかなり重くなる。
リーダーが顔を青くして否定の言葉を口にする。
「本当のことを言いなさい!」
「ウソじゃねえ!
倉庫を見てくれれば分かる。
ヘギウスからぬすんだものなんてねえよ!」
ジにはどうにもウソをついているように見えなかった。
こんなにお粗末な連中がいかに秘密の隠し場所を持っていたとしても長くは隠し通せない。
バレるのは時間の問題で、仮にここで誤魔化しきってもこれから一生牢屋人生のようなもので隠しておく意味がない。
こんな状況で保身に走るならとっとと盗んだものについて口にした方がいいのは明白。
返すから罪を軽くしてくれとでも交渉し始めた方が遥かに良い。
なのにリーダーは何を聞かれても知らないと言う。
間抜けじゃない限りは本当のことなんだろう。
「知らないんだって……」
何度も同じ質問を繰り返されて辟易したようにリーダーは答える。
「じゃあ……誰が……」
リンデランもバカじゃない。
ヘレンゼールが首から血がにじむほどに剣を押し当てても知らないと答えることから本当に知らないのだと気づいている。
途端にリンデランの目が潤み出す。
「リン……デラン」
どうしたらいいのか分からなかったけれどヘレンゼールに視線を向けられて何とかしようとリンデランの方に触れた。
リンデランはパッとジの胸に頭を押し当てた。
こんな時に女性を振り払うほどジも無粋な男ではない。
一応ヘレンゼールの顔色をうかがいつつもジはそっとリンデランの頭を撫でてあげる。
「行きますよ。
あなた如きが見ていい光景ではありません」
「いっ!
もう少し丁寧に……いてぇ!」
ヘレンゼールが荒っぽくリーダーを連れていく。
「大丈夫……きっと見つかるさ」
「ごめんなさい……思い出の品なのに」
リンデランがどうしてそこまでセッカランマンを追いかけるのか。
それは高価な魔道具であるからというだけではない。
ジと一緒に攻略したドールハウスのご褒美で、大切な思い出の品だからである。
大変で、共に乗り越えた苦労の末に手に入れたもの。
たとえ棒切れであったとしてもリンデランは必死になって探していたことだろう。
消え入りそうなリンデランの謝罪を聞いてジは困ったように複雑な表情を浮かべた。
そこまで大切に思ってくれているなら嬉しいがそのせいでリンデランが今苦しんでいるのは困りものである。
「見つけよう。
大切なものだから」
「ジ君……」
「それでも見つからなかったら……そうだな、何かプレゼントするよ」
「プレゼント、ですか?」
ようやくリンデランが顔を上げた。
泣いてしまって目が少し赤くなっている。
「魔道具には敵わないかもしれないけど何か思い出になりそうなものでも探して、君に贈るよ」
盗まれたものを取り戻せるのが1番いいけれど取り戻せないことだってあり得る。
そうなったらまた新しく思い出の品を作ればいい。
盗まれた記念、なんていつか笑い合えるようなものを。
「ありがとうございます」
こうした優しさが嬉しい。
大人たちはみんな返ってくるよとしか言わないけどジは返ってくると言いながらも返ってこない時のことも考えてくれている。
ほんのちょっとの現実を感じさせながらもその現実にも希望を持たせてくれる。
「もう少しだけ……頭を撫でてくれますか?」
その優しさに甘える。
少し微笑んで、またリンデランはジの胸に顔を押し付けた。
「はい、お嬢様」
リンデランが満足するならとジは頭を撫でてやる。
その様子を騎士たちがニヤニヤと見ているが止めようとするものは誰一人としていなかった。
ーーーーー
窃盗団にはこれからさらなる調査や尋問が行われてしっかりと罪に問われる。
だがどうにもヘギウス家で起きた泥棒事件と窃盗団は関係がないようだった。
ならば犯人ば誰なのだろうか。
泥棒は複数いる。
オランゼの調査がかなり現実味を帯びてきた形になった。
「主人!」
「どうした?」
リンデランを家まで送り届けて帰ってきたジは少しのんびりとしていた。
結局ダンジョン攻略について話し合えなかったからまた行かなきゃいけないなと考えていたら今日の店番のニノサンが慌てたように家に入ってきた。
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