泥棒の正体3

「どうですか?」


「問題ありません。

 我々のことはバレていません。


 人数も2人ほど少ないですがそちらの方にも人を付けてあります」


 ヘレンゼールにヘギウスの騎士が報告に来る。

 ダンジョンに挑んだりするのとはまた違った緊張感が漂っている。


 リンデランはやる気に満ち溢れているがジは初めての経験に少し緊張気味であった。


「そうですか。

 では気づかれる前に行きましょう」


 窃盗団と思わしき連中はミスヤ商会の建物に集まっていた。

 ヘギウスの騎士たちが剣を抜いて一斉にミスヤ商会に向かう。


「な、なんですか、あなたたち!」


「我々はヘギウスのものだ!

 今巷を騒がせている泥棒がここにいるだろう!」


 商会である以上扉は開かれている。

 ワッと急に剣を抜いた人がなだれ込んできてミスヤ商会の人が大慌てになる。


 入ってきた騎士を見てミスヤ商会の商会員の男の1人が奥に走っていく。

 それを見逃すヘレンゼールではない。


 素早く指示が飛んで騎士たちが他の商会員の制止も聞かずに追いかける。


「おい!

 ヘギウスだ!


 俺たちを捕まえにきた!」


 男が飛び込んだのは2階にある会議室のような広い部屋。

 そこには複数の男たちがいた。


「ヘギウス?

 なんだって貴族様が俺たちを捕まえに……」


「いいから早く逃げ……」


 全てを言い切る前に男はヘギウスの騎士によって床に組み伏せられる。


「な……!

 くそっ、お前たち早く逃げるぞ!」


 けれどここは2階。

 どこに逃げればいいのだ。


 逃げられないと思った男の何人かが剣を抜く。

 ただで捕まってやるつもりもないようだった。


「チッ……まあいい!」


 抵抗したところでどうしようもないのにと舌打ちをする窃盗団のリーダーだがリーダーとてただで捕まるつもりはない。

 自分が座っていた椅子を持ち上げると窓に投げつける。


 馬鹿みたいに騎士に抵抗して時間を稼いでくれている間に自分だけでも逃げてやると思った。

 剣を振り回して騎士に抵抗する仲間たちを横目に窓から飛び降りてリーダーは逃げ出す。


 着地で足が痺れるがこれぐらい捕まることに比べたらなんてことはない。


「ん?」


 なんでヘギウスになんて狙われるのか知らないが調子に乗りすぎたのかもしれない。

 仲間もこれまで稼いだ金も惜しいが捕まれば一生牢屋、下手すれば死刑だってあり得る。


 命と自由があってこそなので自分はさっさと逃げてしまおう。

 どこかでまたやり直すことだって出来る。


 そう思っていた。


「自分だけ逃げようとするなんて卑怯者です」


 突如として影が落ちてリーダーは上を見上げた。

 巨大な氷塊が落ちてきていた。


「う、うわああああっ!」


 容赦なく落ちてくる氷塊にリーダーが潰される。


「……殺してないよな?」


「治癒魔法が使える者もいるので問題はないでしょう。

 仮に死んでも1人2人なら誤差ですよ」


 もちろんジたちもバカじゃない。

 踏み入れば逃げようとする連中が出ることぐらい想定済みである。


 ジやリンデランは子供で危険なので外で待機していた。

 裏側から逃げてくるような人がいるかもしれないと建物の裏で待ち構えていた。


 確保劇に参加してもらいながらもリンデランの安全に非常に配慮したためである。

 けれどまさか窓を破って飛び降りてくるとはジも驚いた。


 それに対してためらいもなく魔法を使って制圧したリンデランにも驚いた。

 怒らせると怖いものである。


 リーダーに続いて何人か窓から男たちが飛び降りてくる。

 しかしそうして逃げたところで剣を構えたヘギウスの騎士と怒り心頭の怖いお嬢様がいる。


「仕事が楽でいいです」


「いいんですか?」


「……治癒魔法を使える物がいるので問題はないでしょう」


 氷漬けにされた男たち。

 死んではいなさそうだと思うけれど中々に壮絶な光景である。


 治癒魔法だって死人は生き返らせられないのだから万能でもない。

 絶対に大丈夫じゃない人もいるはずなのだけどリンデランを止められない以上はヘレンゼールにだってどうしようもないのだ。


 大人しく状況を受け入れて確保が簡単になったのだと頭を切り替えた。

 手が滑って氷を砕いたりしたら大変だなぐらいにもう考えている。


「落ち着いたか?」


「落ち着きました」


 ウソつけとジは遠い目をする。

 次にまた窓から飛び出してきたらすぐに魔法が使えるようにリンデランは魔力を高めて準備している。


 けれどもう誰も窓からは飛び出してこなかった。

 窃盗団は自分たちが襲撃されることになんの備えもしていなかった。


 尻尾を掴まれているなんて思っていなかったみたいであるが備えもしないのはお粗末な物である。

 ジたちにとってはそれは運の良いことで、騎士たちに損害が出ることもなくミスヤ商会にいた全員を捕まえることができた。


 ヘギウスに手を出した泥棒かはまだ不明であるが他のところで泥棒したことは掴んでいる。

 後は誰が先に口を割り、誰に責任を押し付けるかの話になってくるだろう。


 もしミスヤ商会がヘギウスに忍び込んだ窃盗団で、リンデランの探しているものを返してくれたのならきっと罪は軽くもなりうるだろう。

 けれどこのお粗末さを見るに厳重な警戒を敷いているヘギウス家に忍び込んで誰にもバレないように盗みを働けるとはとても思えなかった。

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