泥棒の正体2
「無茶だけはするな」
何もしないなんて口で言うやつほど信頼できないものである。
ジも他のことでは信頼できるのに問題なんて起こらないと言うのだけはなぜか信用ならないのだ。
でもオランゼに出来ることはない。
無事でも祈っておくことしかできないので苦笑いを浮かべた。
「はっはっ、無茶なんてしませんよぅ!」
のんびり平穏がジの信条だ。
無茶なことなんてしない。
しかしオランゼの中では緊急事態で何回休んでいると思っているんだと口に出さない思いがあった。
「それよりも」
「それよりもなんだ?」
「これはやめておいた方がいいですよ」
ジはテーブルの隅に置いてあったチケットに目をやった。
「なんだと?」
それは今回ジとは関係のないもの。
演劇のチケットだった。
けれどそれがなんのためのものなのかジは瞬時に理解していた。
「今回の演目は飛ばして、次の公演を待った方がいいです」
「……なぜだ?」
「ふふ、オランゼさん、芸術の評判にも気を配った方がいいですよ?」
ブルーチケット、ブルーな気持ち。
後に話題になる程ひどい公演だったと言われる演劇がある。
気合を入れてお洒落な青いチケットを作ったはいいけれどその内容は最悪なものだったと人々の間で噂が流れた。
過去のジはもちろん演劇なんかに興味なかったけれど演劇についての噂は聞いた。
過去1番ひどい見世物だったと。
オランゼはそのブルーチケットを持っていた。
「メドさんを誘うならその公演の次の公演がオススメです」
そのせいで劇団は潰れかける。
だが次の公演が起死回生の一手となる。
過去におけるジが年寄りになるまで名物演目となる公演が生まれるのだ。
だから最悪の公演は見送って、最高の公演の始まりに行くべきである。
「俺のおせっかい。
ちょっとした未来予知みたいなものです」
オランゼはメドを公演に誘うつもりだった。
非常に珍しいことで、美しさブルーのチケットが話題になっていたから購入してみたのだ。
「…………そうしよう」
「チケットは綺麗なので取っておいてもいいかもしれません」
もう買ってしまったチケットなのでどうするか迷った。
しかしジのこのような提案に従って間違いはなかった。
オランゼは後にジに感謝する。
最悪の公演の噂を耳にして、メドを誘わなくてよかったと思った。
そして次の公演にメドを誘ったのであった。
ーーーーー
「尻尾を掴んだって?」
「そうなんです!」
鼻息の荒いリンデランの目はちょっと怖い。
ジは次回のダンジョン攻略の日程を調整するためにリンデランを訪ねてきていた。
そこで窃盗団の足取りを掴み、確保に踏み切るつもりであることを聞かされた。
「もちろん私も行きます……!」
このことを話したヘレンゼールとしては窃盗団の確保についていくと言って聞かないリンデランを止めてほしいと思っていた。
しかし女性陣に強く出れないのはジもさほど変わらない。
ここでパージヴェルでもいればダメだと言ったのだろうけど決意に燃えるリンデランはジでも止められるものじゃなかった。
「本当に偶然、ジ君は良いタイミングで来ました!
バレて逃げられる前に捕まえるためにこれから行くんです。
ジ君もぜひ行きましょう!」
珍しい積極性を見せるリンデランにジも押される。
「……ならせめてお嬢様を守ってください」
これは止められなさそう。
ジに困った視線を送られてヘレンゼールはため息をついた。
付いていくことを止められないのだとしたらせめてジが側にいて守ってやくれないかと同行を許可することにした。
ーーーーー
「絶対に許せません……」
「こら、ちゃんとフードかぶってなきゃ」
リンデランは地味にクロークを着てフードをかぶっている。
顔を上げてズレたフードをジが深くかぶり直させる。
なぜそんな格好をしているのか。
それは窃盗団を捕まえるため。
平民街の片隅にあるミスヤ商会というところが窃盗団の母体になることをヘギウスの捜査担当は掴んでいた。
証拠を集め、監視をつけて窃盗団の存在を確認して今回確保に踏み切った。
つまり今ジたちがいるのは平民たちのど真ん中。
リンデランは美人であるがそのために周りの目を引いてしまう。
さらには特徴的な真白な容姿は目立つ。
普段からリンデランは姿勢も良く動きの端々から上品さが漂っている。
誰がどう見ても貴族なのだ。
こんなところに貴族がいては目立ちすぎる。
リンデランを見て窃盗団を確保にきたと繋げられる人はいないだろうけど相手に警戒されていいことなど何一つない。
だから地味めな格好をしてフードを深くかぶって目立たないようにしていた。
ジは割とジそのまんま。
良くも悪くもジは目立ちにくい。
フードを深くかぶって顔を隠した子供2人ではそれはそれで目立つ。
そして同様に確保に動く騎士のみんなも地味な格好をしている。
窃盗団の抵抗にあって戦う可能性はあるのだけど鎧を着た貴族の騎士がゾロゾロと平民街を歩くと噂はあっという間に平民街に駆け巡る。
平民街のやや外れにあるミスヤ商会に向かえばバレてしまう可能性が大きかったのでバレにくいように地味な格好をして少しずつ集まっていた。
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