泥棒の正体1
「泥棒が複数いる?」
「そうだ」
ボルヴィーの毒で死ぬ心配はなさそうであるが体への影響の心配もあったので大神殿に行って治療を受けて数日様子を見ることになった。
ジとしても大好きだと連呼してしまい、またみんなと顔を合わせるのも勇気がいるので時間を置きたかった。
とりあえず入院などすることはなく日常生活を送れている。
いつものように朝のごみ処理の仕事を終えてオランゼのところに報告をしに行くとオランゼの方もジに報告があった。
それはもちろんお願いしていた泥棒についてのことだった。
情報をまとめたものと紅茶をジの前に置いてオランゼはジの正面に座った。
報告書に書いてある内容をかいつまんでわかりやすくまとめてオランゼは報告した。
その内容は泥棒が複数いる可能性があるということであった。
「おそらくこのようなことになる発端の泥棒は1人、あるいは1組いるのだろう。
しかし今調べてみると2人、あるいは2組。
下手すると3組ほどの泥棒がいると見られている」
ジが報告書を眺めると街中で起きた大小様々か窃盗事件が書いてある。
そこから犯人が捕まったものや一回限りだろうと推測できるもの、規模の小さい窃盗を抜いて規模の大きな窃盗事件をピックアップしている。
貴族や商人などを狙った泥棒の犯行と見られる窃盗がここ最近頻発していた。
窃盗の手口や盗まれたものなどの違いからオランゼは犯人を大きく2つ、あるいは3つに分けた。
「1つはおそらく集団だろう。
お金を持っている貴族や商人を狙って金品を盗み出している。
素早く、手口は鮮やかだけど何度か見つかって暴力沙汰にもなっている。
こちらが狙っているのはとにかくお金を持っている相手で良い貴族相手にも盗みを働いているようだ。
ただ話を聞く限りでは1組だけじゃないかもしれない。
この窃盗団とはまた違う窃盗団が後から出てきている可能性がある」
なかなか情報を分析してそこから予想されるものを導き出すのも難しいとオランゼは思った。
けれどこうして頭を使うのは嫌いではなく意外と楽しくもあった。
「だからこの時点で2組がいる可能性がある。
けれどこの2組は巷で騒がれる泥棒の走りじゃない」
「どういうことですか?」
「今平民の間でも話題になっている泥棒は悪い貴族や商人しか狙わないというものだ。
噂を追ってみると2組の窃盗団よりも前からその泥棒は活動していたみたいでな。
規模は窃盗団よりも小さく、狙いは前述の通り。
そして何より手口も分からず相手の人数も全く不明だ。
それどころか盗みに気付くのが数日遅れるほどに盗みは巧妙に行われている」
明らかに窃盗団とは手口が違うとオランゼは考えていた。
これまで悪人だけをターゲットにして一切バレないようにやっていた窃盗団が変に大規模化したよりも別の泥棒だろうと思ったのだ。
「それにヘギウス家に入った後も全く正体の掴めない泥棒はまた現れている。
同一犯なのか……ヘギウスだけ別物なのかは分からないが今現在では複数の捕まっていない泥棒がいるようだ。
俺も戸締りはしっかりとしないといけないな」
短い間によくこれだけ調べてまとめたものだとジは驚いていた。
「すごいですね……」
想像よりもオランゼが抱える情報収集能力は高かった。
「こちらとしてもいい経験になった。
……ただ泥棒を追うなら気をつけろよ。
窃盗団の方は手荒な真似も辞さないからあまり近づくと危険が伴う。
最初の泥棒の方もヘギウス以降は悪人というルールに囚われなくなっている。
バレた時にどんな手段を使ってくるのかも分からない相手だからどの道そちらも警戒が必要だろう」
「ありがとうございます」
「引き続きこちらでも情報を探ってはみるがあまり危険なことを従業員にさせるわけにはいかないからな。
他に詳しいことは報告書に書いてある」
流石に犯人の正体にまで迫るのは無理がある。
泥棒が複数いそうなことだけでも大収穫と言っていい。
深く頭を下げたジにオランゼは少しだけ不安そうな顔を向けた。
軽い気持ちで引き受けたけれど窃盗団の方の連中はかなり荒そうなことも平気で行う。
悪徳商人だったがこうした泥棒に対して非常に強く警戒して警護を雇っていた人がいた。
警護に雇っていた人もそれなりに仕事をして窃盗団に気付いたのだけどそのまま帰らぬ人となってしまった。
窃盗団と戦ったのか、あるいは先に口封じされたのかその真相も謎ではある。
盗みなんてする連中がまともなはずはない。
分かったしまった以上はジに報告はするけれどまた厄介なことに首を突っ込もうとしているとオランゼも心配していた。
「まあ俺が直接逮捕なんてしませんよ」
近くの店で盗みを働く泥棒ならともかく貴族や商人を狙う窃盗団や泥棒を自分で捕まえるのはリスクが大きい。
リンデランのために泥棒について調べてはみるがもし分かったのなら然るべきところやヘギウス家にでも情報を渡して捕まえてもらうのが安全で確実な話である。
軽く笑ってみせるジであったが口でいかほど言おうと巻き込まれるときは巻き込まれるし、ジは巻き込まれやすい体質だ。
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