こそこそ泥棒2

 確かに価値がある良いものならみんな欲しがるだろうけど限度ってものがある。

 価値が高ければ高いほど値段も高くなり買える人は限定的になっていってしまう。


 さらにはそれが盗品であるなら余計に買う人は少ない。

 結果的に価値がありすぎるためになかなか売れないという事態になるのだ。


 価値がわからないような泥棒だったら分からないけれど魔道具であることは簡単に分かるはずなので安売りもしないはずだ。

 しかもヘギウスに泥棒が入ったと騒ぎになって販売ルートにも目を光らせている今は焦って売るようなこともないはずだとジは踏んでいる。


「今すぐ誰かに売るのはリスクも高い。


 きっとしばらくは寝かせておくはずだと思う」


 より換金しやすい宝飾品なども盗まれているので高値が着きそうなものはじっくりと相手を探して売るだろう。

 売られる前に泥棒を見つけられれば取り返すチャンスは大いにあるのだ。


「泥棒は許せません!」


 リンデランが怒りに燃える目をしている。

 一通り泣いたら今度は怒りが湧いてきたのだ。


 なんだってヘギウスが、そしてリンデランが泥棒に狙われなきゃならないのか。

 泣いているだけでは何も変わらない。


 今こうしている間にも泥棒は逃げているのだしどこかでリンデランから盗んだものを売ろうとしているかもしれない。

 捕まえてやる。


「絶対に逃しません!」


 すっかり泣き止んだリンデランは泥棒を捕まえてやると意気込んでいる。


「まあ俺も出来るだけ協力するよ」


 ーーーーー


 過去の記憶を使って解決できないものかと考えた。

 しかしそれは難しそうだ。


 過去とはだいぶ流れ変わった世界になっている。

 当然に起こる出来事も変わっている。


 さらに泥棒ってやつはいつの時代にもいる。

 時期が前後してしまった過去にいた泥棒なのか、それとも新しい泥棒なのかも分からない。


 世間を騒がせるような泥棒だって意外と一定間隔で出てきて話題に上ったりする。

 つまり過去にいたような泥棒でも特定は難しく、新たに現れた泥棒なら記憶では太刀打ちできないのである。


 ただリンデランを泣かせてくれたのだしやれるだけはやってみようと思う。

 今ヘギウスでは情報提供を呼びかけている。


 逮捕に繋がる有力な情報には報奨金を支払うことにし、泥棒そのものにも懸賞金をかけた。

 こうなると泥棒は活動しにくくなって盗んだものの売り捌きも難しくなる。


 ジはジで周りの人に話を聞いて回ることにした。

 これが大人の身だったら安い酒場にでも通って雑多な話の中から必要そうなものを聞き分けるのだけど今はそんなことしない。


「泥棒かい?


 あれだろ、オオディアムのクソ野郎のところに入ったっていう泥棒だろ?


 ざまあみろってもんだよ」


「もっとやれって思う。


 スカッとするぜ」


「よくは知らないけどペゾン商会に入ったやつだろ?


 あそこ評判悪いもんな」


 色んな人に聞いてみたら色々と話を聞くことができた。

 噂によると結構広く泥棒に入って被害を受けている人が多そうだった。


 けれどもその泥棒の評判は悪くない。

 なぜなら盗みに入るのは平民のところではなく貴族、しかも評判の悪いお金持ちの貴族のところで盗みを働くからである。


 貴族の物が盗まれてもほとんどの人は関心を示さない。

 しかし悪い貴族の物が盗まれれば気分を良くする人もいるのだ。


 悪い貴族が起こって騒げば騒ぐほど愉快なものだと思われてしまう。

 これまで名前が出てきたいくつかの貴族はどうやら平民たちに嫌われるような素行の者たちが多かった。


 全ての犯行を同一の泥棒によるものだと断定も出来ないのだけどどの窃盗も夜の間に誰にも気づかれることもなく物を盗み出している点で一致していた。


「うーん……」


 記憶を探ってみる。

 こうした悪い貴族を狙う泥棒がいたかどうか。


 どうしてもお金を持っている都合上貴族というのも泥棒のターゲットにはなりやすい。

 悪い貴族を狙うというのも珍しい話ではない。


 悪いことをしている貴族は大体お金や高いものを溜め込んでいる。

 だから過去でも悪い貴族を狙う泥棒はいることはあった。


 捕まってしまった者や、あるいはそのまま捕まらずに消えてしまって情報のない泥棒もいる。

 

「だけどこの時期に悪い貴族を狙う優秀な泥棒なんていたかなぁ?」


 正直過去のジはこの時期にまだまだ活動的でなかった。

 そのために過去のこの時期に何が起きていたのかの情報は少ない。


 なのでそもそも知らない可能性も大きいが悪い貴族を狙って有名になった泥棒の記憶はなかった。


「あとは……気になるのは変化だな」


 ジは自分の部屋でフィオスを掴んだ。

 何か深く考え込む時には無意識にフィオスを触ってしまっていたりする。


 プニプニとつついてみたり、ツルツルと撫でてみたり、ポヨンポヨンと軽く押してみたり、ブニブニと潰してみたり、ギュッと抱きしめてみたり。

 今は両側から挟み込むようにしてリズミカルに揺らしてみる。


 波打つフィオスの体を眺めながら思考にふける。

 泥棒の行動が変化しているかもしれない。


 そうジは話を聞いて周りながら思ったのだ。

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