こそこそ泥棒1
連行されました。
「大丈夫か、リンデラン?」
「ぐすん……ジ君にも申し訳ないですぅー!」
珍しくリンデランが泣いている。
「ちっとは噂になってたけどまさかヘギウスにまで入るとはな」
ウルシュナがリンデランを優しく抱きしめてヨシヨシと頭を撫でてやる。
ジは突如としてヘギウス家に連れてこられた。
ヘレンゼールが商会を訪ねてきたからなんだろうと思ったらヘギウスの騎士に両腕を持たれて問答無用で馬車に乗せられた。
一応客人扱いなのか乗せられたのはフィオス商会特製の馬車だった。
何事ですかと尋ねると協力が必要だと言われた。
ヘレンゼールの細い目の奥の真面目な眼差しにジは緊急事態を覚悟した。
詳しく話を聞いてみようとすると非常に困ったことになっているから多少強引にジに来てもらった、事情は着いたら分かるとだけ説明された。
それでいざ緊張してヘギウス家に着いてみると泣いてるリンデランがいたのである。
そしてそのリンデランを慰めるウルシュナもいた。
ある意味で緊張の現場であるがなんですかこれ?とヘレンゼールに視線を送った時にはすでにヘレンゼールはいなかった。
「俺も少しだけ聞いたことがあるな。
なんでも金持ち専門に狙う泥棒……だっけか?」
「まあ犯人の正体の目星もついてないから同じ犯人かも分からないけど手際の良さや狙いを見るにそうだろうって話だな」
リンデランは意気消沈しているし話を聞けるのはウルシュナしかいなかった。
ウルシュナに話を聞いたところヘギウス家に泥棒が入ったのである。
それは最近巷を騒がせている泥棒であり、貴族のお金持ちだけを狙って屋敷に忍び込んでは物を盗んでいくらしい。
ジも先日タとケとお買い物に出た時にチラリとそんな話を聞いた覚えがあるなと思った。
貴族には不評の泥棒だろうけど平民や貧民の間ではそんなに悪くは思われていない。
なぜなら先の食糧危機の時にお金のある貴族は食料を先に買い集めたりお金の力で買えたりした。
そのために平民や貧民の間では貴族のやり方に不満を抱いている人も多く、元々あった溝が深くなってしまったのだ。
だから貴族が泥棒に入られていると聞いても当然の報いだなんて言う人もいたりした。
どこぞの知らない悪徳貴族が泥棒に入られるならともかくまさか大貴族であるヘギウスにまで泥棒が手を伸ばすとは思いもしなくてジは驚いた。
「うぅ〜盗むならおじい様のへそくりにすればいいのに!」
その泥棒に色々盗まれた。
主な物は宝飾品などの簡単に持っていけるような物だったのだけど盗まれた物の中にリンデランのものもあった。
セッカランマンである。
ジと共にアカデミー地下にあるドールハウスダンジョンをクリアしてエスタルに貰った戦利品の魔道具であった。
リンデランはセッカランマンを基本的には身につけているのだけど例えばお風呂に入る時や寝る時なんかは外していた。
今回は寝ている間に外していたのだけどその時に盗まれてしまったのだ。
価値も計り知れない、その上ジと一緒に頑張った思い入れもある魔道具なだけにリンデランのショックは大きかった。
さすがのリンデランも感情を抑えきれずに泣き出してしまった。
たまたまその日はウルシュナも遊びに来る予定で慰めてくれていたのだけどそれでもなかなか収まらないリンデランにリンディアから指示が飛んだ。
ジを連れてこいと。
他にも絶対に色々方法はあるし人もいるだろと思わざるを得ないが呼ばれた理由は理解した。
「ごめんなさい、ジ君……大切な物を盗まれてしまいました」
涙を流して少し腫れた目でリンデランはジを見る。
このままウルシュナに任せて時間が解決してくれるのを待った方がいいんじゃないかと思った。
しかし連れてこられた以上役割はこなさねばならない。
いつまでもリンデランに泣かれていても心苦しい。
「でもリンデランは無事だったんだろ?」
リンデランの手を取る。
慰められるか分からないけどやるだけやってみよう。
「リンデランの方にケガがなくてよかったよ」
大切なのは物でなく人だ。
大切にしていた魔道具を盗まれて意気消沈する気持ちは分かるけれどその泥棒に鉢合わせてケガをしたなんて話なんかよりもよっぽどマシである。
「リンデランが無事でよかった」
「……ジ君」
少しリンデランが頬を赤くする。
無くなったものの確認もしなきゃならないけど今あるものだって確認して大事にしなきゃならない。
「それにまだセッカランマンについては希望があると思う」
「本当ですか?」
「ああ、あれは売り捌くには高価すぎる」
ジに手を握ってもらい、ウルシュナに頭を撫でてもらってリンデランも少し落ち着いてきた。
いつまでもジの前で泣いているわけにもいかないと頭の冷静な部分が考え始めていた。
「どーいうこと?
高いならすぐ売られちゃうじゃん?」
「ハンパに高いならな。
だけどセッカランマンは効果もすごいから価値が分かる人ならすごい高値で取引されるだろう」
ウルシュナが首を傾げた。
単純に考えた時に高く売れそうならさっさと売るだろうし、買う人もいると考えたからである。
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