お次はカエル1
ダンジョンは見つかったけれどすぐに攻略ともいかない。
準備もあるし誰が行くのかも決めねばならない。
誰も入ったことがないということは中は未知の世界でありそれだけ危険が伴うのである。
だけどジだってダンジョンにばかりかまけていられるほど暇でもない。
「ピムミア、本当にいいのか?」
「う、うん。
お父さんもフィオス商会なら安心だろうって」
ジが特許契約した技術は3つある。
1つはクモが出す糸を束ねることによって生まれるクッション性を活かしたクモノイタ。
もう1つはファイヤーリザードの腹部から採れる体液が持つ耐火性、断熱性を活かしたパロモリ液。
そのどちらも生活をちょっと便利にしてくれる。
そして最後の技術も生活を便利にしてくれるものであった。
先日行った魔獣契約で目立っちゃったのはパムパムだけどスカウトした子が他にもいた。
それがピムミアという子であった。
平民の子なのであるが貧しめで魔獣契約は先送りにしていた。
国が実施した魔獣契約の時は大工である父親に忘れていったお弁当を届けに行っていて来られなかったという微妙なタイミングの悪さもある少年だった。
今回はジが集めた中にピムミアもちゃんと参加できた。
「魔獣を呼んでくれ」
「わ、分かった」
やや気弱な感じだけど優しい子だ。
ジがスカウトすると家族と相談して一回面談まですることになった。
色々悩んだらしいけどジのフィオス商会が真っ当な商会だと納得してもらい、最終的にはフィオス商会の一員として迎えることになった。
なんだか子供ばっかりで子供商会感が増すけどしょうがない。
この時期に活躍していた商人的な人も知らないのでスカウトのしようもない。
変に有名になってしまったので下手な相手も雇うことができないのだ。
そもそも良い商人に会ったのもオランゼぐらいで思い出せるような良い人も結構後になって出会った人だった。
孤児院の子供とか将来的に役立ってくれそうな子はいるので焦らず人を見つけていかねばとは思っている。
「お、おいで、トイナ」
ピムミアが呼び出したのは1匹のカエルだった。
人の子供ぐらいの大きさがあって大きさで愛らしい顔をしている。
「健康状態は良さそう」
「ふむ、この種のものとしてはやや小柄な方かもしれませんね」
「……どうした?」
この場にはキーケックとクトゥワもいて、トイナを見て早速何かを書き込んでいたりしている。
呼び出されていきなり視線を浴びたトイナは両手でそっと目を覆った。
「は、恥ずかしいんだと思います……」
ピムミアとトイナは非常に気が合った。
すごく似たような性格をしていて控えめである。
まだ感情まで分からないけれど何となく何を考えているのかは分かった。
頭を抱えて隠れているような姿は可愛らしさもある。
「こちらの魔獣の背中、でしたか?」
「ええ、そうです」
「背中から出てくる分泌物を採取したいのですがよろしいですか?」
「トイナ、大丈夫?」
ちらっと手を動かして木のヘラを持つクトゥワを見た後トイナはのそのそと背中を向けてくれた。
大丈夫だということだ。
クトゥワがヘラで優しくトイナの背中をこすり取るとヘラの先に液体が集まる。
やや粘度のあるトロリとした透明な液体をすくい上げてガラスの容器に移す。
それを何度か繰り返してトイナの体液を集める。
「無臭」
キーケックはそれなりに容器に溜まったトイナの体液を嗅いでみる。
特に何かの臭いがするものじゃない。
容器を傾けてみると少し遅れて液体が動く。
この液体が第3の特許を使った商品になるのである。
キーケックとクトゥワを呼んだのは他でもなくこの体液を研究してもらうためだ。
すでに用途は伝えてあるけれど細かなことはジも分かっていないので色々試してもらう必要がある。
「これで本当に防水の効果が?」
ジが作ろうとしているのは防水布であった。
過去では派手に売れたものではないが細かな用途で色々なところに必要とされたものである。
特に冒険者や行商人には人気で常に一定の需要があった商品だった。
「そう、これを染み込ませてよーく天日で乾燥させると水を弾いて濡れない布になるんだ」
外で活動する上で濡れることは意外と面倒だ。
水分を含むと濡れて気持ち悪いというだけでなく体温を奪われたり濡れた分重くなったりと不都合が多い。
そのため防水布は外で活動する人の必需品にもなったのだ。
小さいサイズの布であっても地面に敷いてお尻が濡れないだけ違ったりする。
大きい布ならテントにしたり、雨の時自分で頭から被ったり荷物を守ったりといざという時使えるのだ。
実はこの技術早い段階でオランゼは使っていた。
たまたまカエルの契約者が見つかったので生物を捨てても汁が漏れないゴミ袋として貴族や飲食店向けに販売している。
「ジ、すごい!
何でも知ってる!」
「何でもじゃないさ」
キーケックが両手を上げてジを絶賛する。
魔物について詳しいつもりだったけど魔物の特徴を活かして人に便利なアイテムにするなんてこと思いつかなかった。
ジから飛び出してくるアイディアはキーケックにとっても強い刺激であり、尊敬に値するのである。
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