帰りを待ってくれている人
敵の数が減ってきたのでバルダーにその場を任せてケッサが走っていった方に向かった。
奇しくもそれはニグモが逃げていった方と同じである。
明らかに人にやられたのではない魔物の死体を辿っていって進む。
「ヘーデンスさん!」
「ジ君、無事なようでよかった」
一足先に精鋭を連れてケッサを追ったヘーデンスがいた。
「ケッサさんは……」
「もういなかった。
どこにいったんだか……」
辿り着いた先は行き止まりであった。
そこにケッサの姿はない。
あるのは手足を引きちぎられ、頭を潰された人に近い魔物の死体が1つあるだけ。
もう1体いるはずの人に近い魔物もケッサもいない。
「まあ悪魔には固定した場所を繋ぐ転移魔法があるからもしかしたらそうした魔法で移動をしたのかもしれない」
ジも悪魔に遠隔地に誘拐された覚えがある。
倉庫の中身も持っていくには無理な量であったのでそうした魔法の存在があると考えれば納得もできた。
もう少し悪魔について聞いてみたかったと思うけどいなかったらいなかったで安心した。
異端審問官だらけのこの場所で例えジの恩人、恩悪魔だとしても周りを止めるのは難しかったかもしれないから。
多くの死傷者を出しながらも洞窟にいた魔物たちは異端審問官と冒険者の手によって倒された。
戦いは混乱を極めていたので実験場は荒れに荒れてしまってどんな実験を行なっていたのか調査するのも難しいぐらいだった。
「……ここはどこなんですか?」
残された魔物がいないか異端審問官たちが調査することになり、ジたちは先に洞窟から出ることになった。
先を歩くグルゼイについていく。
グルゼイたちが来てくれて助かったけど未だにここがどこであるのか分かっていない。
「スティーカーをお前に預けてそこから居場所を特定した」
「それは分かっています」
「不思議なことにスティーカーの場所を辿るとボージェナルの方にいることが感じられた」
「ボージェナルの?
じゃあここは町の下?」
「そう焦るな。
俺たちは戦いの後急いでボージェナルまで戻った。
ウィリアを助けにいくと言って暴れるバルダーを止めるのは大変だった」
平坦だった道がいつの間にか上りの道になっている。
「そしていざボージェナルに着いてみるとスティーカーの居場所はボージェナルからは少しズレていた」
ある程度近ければ魔獣の居場所も正確に分かるのだけど離れれば離れるほど大体の方角ぐらいしか分からなくなる。
ボージェナルの町から外れるとそこには何もない。
人を閉じ込めておけるような場所も大量の魔物が隠れていられそうな場所も見つけられない。
しかし方角的にはそちらにあるのにとグルゼイも疑問に思った。
「そこで調べてみるとボージェナルの町の外れに地下に広がる洞窟があることが分かった」
「じゃあ……」
「そう、その洞窟がここだ」
道の先に光が見えた。
松明があっても薄暗い洞窟から出ると目が光に慣れなくてくらむ。
「今では知る人も少ない隠された洞窟がお前たちが攫われた場所だ」
足元は砂浜。
そして遠くにボージェナルの町が見える。
ここはボージェナルの町の砂浜ではなくそこから離れたところにある小さい砂浜であった。
危険なために立ち入りが禁止されている洞窟がボージェナルの近くに存在していた。
直接海に繋がっているところもあるもので引退した老漁師がその洞窟の存在を知っていた。
「まさか……こんな町の近くに…………」
町から見える距離で研究が行われ、魔物が住み着いていたなんて信じられない。
「ついでにこの入り口も魔法で隠されていたからな。
知らなきゃ見つけられなかったかもしれない」
そうなったらバルダーが大地を叩き割って洞窟を見つけ出していたかもしれない。
「んー……」
日は高く温かい。
頬を撫でる風が気持ちよくて狭い洞窟から出られた解放感に晴れやかな気分になる。
さらに話を聞くとあの洞窟は町のはずれにある恋人岬の下にまで伸びているらしい。
リアイの話をふと思い出した。
聞こえてくるうめき声の話。
洞窟に風が吹き込んだりして音が鳴っていたのかもしれない。
いや、もしかしたら実験による何者かの声が……なんてことも一瞬考えた。
「お父さん!」
「ソコ!」
のんびりと歩いて町まで帰る。
すると先に報告を受けて待ち受けている人たちがいた。
ジたちを見て駆け出した1人の少年はソコであった。
行方不明になっていた父親の無事を祈り続けていた。
運良くソコの父親であるドコは生きていた。
「どこ行ってたんだよ!」
胸に飛び込んできたソコを受け止める。
美しい親子の再会。
「……悪かったな」
どうしようもない事件であったが心細かっただろうソコの気持ちも分からないものでもない。
ドコは強くソコを抱きしめる。
キラリと目元に涙がにじんでいる。
「ジ兄!」
「ジ兄ちゃん!」
ただそんな空気も関係なくジにも弾丸が2つ飛んできた。
タとケの2人である。
ジに向かって飛び込んできてジはそれを受け止めようとする。
ユディットがそれを察してジをそっと支えてくれなきゃ押し倒されていた。
「心配した!」
「何してたの!」
「ケホッ、ごめんごめん……色々あったんだよ」
胸を貫く衝撃にちょっとむせながらタとケの頭を撫でてやる。
「ジ君!」
「ジ!」
「リンデランとウルシュナも……ごめんって」
タとケがいるということはもちろんリンデランとウルシュナもいる。
2人とも怒った顔をしていて、ジはどう答えたらいいものか困り顔になる。
「いでっ!」
「心配したんだぞ!」
「何をしていたんですか!」
ウルシュナに肩を殴られる。
リンデランも頬を膨らませて本気で怒っている目をしていた。
ちょっと数日軽く出かけるぐらいで居なくなって攫われたと聞いたのだから怒るのも当然だった。
しかもそれを説明してくれる人もいないでただ攫われたということしか聞かされなかったので心配も大きかった。
好きで攫われたわけじゃないのだからどうしようもない。
でも心配する気持ちは理解できるから申し訳ない気持ちでいっぱいになる。
「……なるほど、確かにおモテになられるようですね」
「他のことでは頼もしいのにこうしたことになるとどうしても弱いみたいです」
「くだらない奴の中には良い気になるような男もいます。
そんな男であるぐらいなら多少尻に敷かれているぐらいがちょうどいいかもしれません」
「みんなの尻に敷かれたら会長潰れちゃいそうですけどね……」
「それぐらいの甲斐性があるぐらいが仕えがいもあるというものです」
ひたすら4人の女の子に謝り倒すジを見ながら自分も帰りを待っていてくれる人が欲しいとユディットもちょっと思ったのであった。
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