大乱戦4

 ためらいもなく胸を突いた。

 勝負はついた。


 誰もがそう思った瞬間だった。


「あぶっ!」


 確かに胸を突き刺した。

 みんなが見ていた。


 なのに人に近い魔物は振り返りながら裏拳でジを殴りつけた。

 フィオス盾で拳を防いだけど衝撃が腕にまで伝わってくる力にジは大きく後退させられる。


「なんだよ、アイツ不死身かよ!」


 人に近い魔物はジにかかっていこうとしたがバルダーが間に割り込んで引き受ける。

 いつの間にか切り落とされた右腕も再び生えてきている。


「むっ!」


 なんとバルダーの戦斧を片手で受け止めて反撃をしている人に近い魔物には胸を突かれたダメージなどなさそうだ。


「考えろ……」


 グルゼイとバルダーの2人がかりで相手をしている。

 倒せないなんてことはないはずだ。


「弱点……あいつらは魔物でも、人でも、悪魔でも……悪魔…………そうか!」


 ハッと気がついた。


「頭です!


 そいつは悪魔みたいに頭をやらなきゃ倒せません!」


 この魔物たちは人と魔獣と悪魔が合わさったものである。

 魚に近い魔物は魔獣的な性質が強く知能が低いが人に近い魔物は戦い方もやや理性的で能力も高い。


 つまりはその性質も悪魔に近いものを持っているのではないかとジは考えた。

 昔の苦い思い出がよみがえる。


 悪魔の胸を突き刺して嘲笑われて、頭でなければ悪魔は倒せないと言われたことを思い出した。


「頭……なるほどな」


 知っている悪魔の容姿とかけ離れているし、悪魔が混ざっていることはケッサといたジたちしか知らない。

 ジの言葉にグルゼイとバルダーは相手の正体を察する。


 グルゼイとバルダーの攻撃が首や頭を中心に狙うものに変わる。

 さすが昔一緒に戦ってきただけあって2人の連携は取れていた。


 やはり頭を狙われるのは避けたいのか嫌がるような動きを見せている。

 能力的に高くてもグルゼイとバルダーも歴戦の戦士で決して負けていない。


 人に近い魔物も素早く力は強いが戦い方が比較的単純なために2人に動きがとらえられ始めている。

 不利を悟った。


 グルゼイに比べて動きの鈍いバルダーを狙った。

 振り下ろされた戦斧を腕で受けて無理矢理バルダーの胸を殴りつける。


 そしてそのままグルゼイとバルダーから離れるように走り出す。


「ウィリア!」


 人に近い魔物が向かう先にはウィリアがいた。


「お見通しだ」


「ジ君!」


 ウィリアに向かって伸ばされた手を横からジが切り落とした。

 不利になると考えることは皆同じ。


 逃げられるなら逃げる。

 逃走してしまえるならそのまま逃げて、一度引いて有利な状況を作るなり出来るならそうする。


 ただこの状況下で逃げられるはずがない。

 ならこの状況を打開する策を考える。


 囲まれた状況で相手に痛打を与えるなら狙うのは相手の仲間で弱いものを狙うことだ。

 状況を変える一打になり得る。


 フォローをしようと相手が乱れる。

 弱い相手でも仲間が倒れれば動揺が走る。


 この場で弱いのはウィリア。

 人に近い魔物の状況判断は非常に高い。


 だが、ジはそれを読み切っていた。

 グルゼイとバルダーの戦いに簡単には入り込めなかったけど警戒を高く保ち、相手の動きを観察していた。


 戦いが不利になると動きがあるのではないかと予想して自分が狙われることも視野に入れて動いていた。


「フィオス!」


 盾になっていたフィオスが剣の形になる。

 形としてはジが持っている魔剣のレーヴィンとほとんど同じ。


 そこはジが強制しているのでもないけどなぜかレーヴィンの形をまねるのである。

 体をねじるようにして剣を振って人に近い魔物の首を狙う。


「浅い……!」


 フィオスは喉を切り裂いた。

 けれどジの狙いとしてはそのまま首を全て切るつもりだった。


 人に近い魔物が咄嗟に頭を引いたために喉までしかフィオスが届かなかった。


「お任せください!」


 ジの動きにいち早く反応したのはニノサン。

 高速で人に近い魔物の後ろに回り込んだニノサンが剣を横に振る。


 ジが与えた喉の傷と合わせて人に近い魔物の首が切り飛ばされた。


「ユディット、後は任せた!」


「言われなくとも!」


 最後はユディット。

 両手で剣を持ち、高く振り上げる。


 ユディットが魔力を込めたことでユディットの魔剣から青い魔力が強く放たれる。


「はあああっ!」


 切り落とされた頭に向かってユディットが剣を振り下ろした。

 カッと人に近い魔物の目が見開かれた。


 ユディットの剣は頭を真っ二つに切り裂いた。


「どうだ!」


 頭は完全に破壊した。

 けれどそれですぐさま喜んで油断はしない。


 頭を潰せば残された体も止まるか確実ではない。

 一度ビクリと体が震えてみんなもビクリと警戒する。


 ゆっくりと体が倒れていく。


「お前らまだ終わりじゃないぞ!」


 終わった。

 ユディットとニノサンが視線を合わせてニヤリと笑ったけれどグルゼイから叱責が飛ぶ。


 もう強敵はいない。


「ジ君ありがとうございます」


「無事でよかったです」


 またしてもジに守られた。

 ジは笑顔でウィリアに応えるとそのまま戦いに戻っていく。


「大丈夫だったか、ウィリア?」


「はい、ジ君が守ってくれましたから」


「……ジには感謝せねばな」

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