大乱戦3
「ということでバルダーさんはウィリアさんを守ってあげてください!」
「ぬぅ!?
本人を前にして会話してそれか!?」
「こんな状況でウィリアさんも弱っていますからバルダーさんにしか守れませんよ!」
来させないでくれという会話をモロに本人に聞かれた上でバレバレの引き止め作戦だけどウィリアを盾にされたらバルダーも弱い。
「事情は分からないがウィリアの側にいてやるわ!」
空気を読んでウィリアもウルウルとバルダーを見つめる。
ここはウィリアの方が大事だから素直にウィリアを守ることにする。
戦う状況も違う。
船の上では防衛戦で不意の襲撃だったが今度は立場が逆でこちらが襲いかかる側である。
さらには襲撃されて死傷者も出たので恨み晴らすべくと士気も高い。
「ついてこれるか、弟子よ?」
こんな時でもスパルタだなと思うけど仮に行けないと言っても無理矢理引っ張っていくのだろう。
でも置いていったり見捨てたりすることはない。
「はい、師匠についていきます!」
「行くぞ。
敵を殲滅する」
「分かりました!」
ジはグルゼイと共に前に出る。
大混乱の戦場だけど人同士の戦いでないので敵味方は分かりやすい。
ユディットとニノサンもジに続く。
特にユディットは船の上と違って船酔い状態じゃなく戦えるのでやる気を見せている。
ただ洞窟の中ということで破壊力のある魔法が使えないのでそうしたところでも接近戦で乱戦になっている。
「あっ、それに触れちゃダメだ!」
まだいくつか壊されていないガラスの容器がある。
その中にまだ1体だけ人に近い魔物がいた。
魚の魔物がガラスに叩きつけられて大きくヒビが走る。
アレを起こしてはならないとジは止めようとしたが距離があって声を出すのが精一杯だった。
けれど混戦の戦いの中でジの声が届くことはない。
ガラスの容器のヒビから中の液体が漏れ出す。
「師匠……マズイです」
「アレがマズイのか?」
「はい、マズイです」
「バルダー!
アレを切ってくれ!」
マズイのならマズくなる前に止めてしまえばいい。
グルゼイが道を切り開きバルダーが魔物を跳ね飛ばすようにしながら突き進む。
すでにガラスの中の液体は顔まで減っている。
「ふううん!」
バルダーの戦斧がガラスを砕きながら人に近い魔物に迫る。
「切って……いない?」
ガラス以外の手応えがない。
当たっていれば真っ二つになったはずの魔物の姿もない。
「右だ、バルダー!」
「右だと?」
振り切った斧の先端、刃の上に人に近い魔物が立っていた。
次の瞬間バルダーの顔面に人に近い魔物の蹴りが直撃した。
「お父さん!」
体格も良く重たい攻撃でもフラつくことが少ないバルダーが後ろに転がる。
「確かにアレはマズそうだな」
明らかに他の魚の魔物とは違う雰囲気をまとっている。
「お前ら、全員でアレを倒すぞ!」
グルゼイも人に近い魔物を危険で倒すべき相手であると判断した。
「ユディット、ニノサン、左右から挟み込め!」
「はい!」
「分かりました!」
グルゼイが剣を振る。
薄暗い洞窟だとほんの一瞬だけ煌めくように残る魔力の斬撃がよくわかる。
しかし人に近い魔物はグルゼイの剣を難なく回避してみせる。
そして人に近い魔物は指をまっすぐに伸ばしてグルゼイ手を突き出した。
グルゼイは後ろに下がる。
入れ替わりでジが前に出てグルゼイを攻撃しようとした腕を切りつける。
少し遅れてユディットとニノサンが左右から人に近い魔物を挟撃する。
「ぐっ!」
「なにっ!
ウッ!」
腕の切りつけは浅かった。
人に近い魔物は一瞬でユディットとニノサンを確認すると速度が速くて距離より近いニノサンの方を向いた。
腕でニノサンの剣を防ぎながら逆の拳でニノサンを殴りつける。
ニノサンの剣は人に近い魔物の腕に生えたウロコに弾かれて刃が通らない。
なんとか体を捻って直撃を避けようとしたが肩を殴られてしまう。
その間にユディットの剣も人に近い魔物の背中に届いたのだが切りつけられても怯むこともなく、体を半回転させるようにしながら後ろ蹴りをユディットの腹部に叩き込む。
「2人とも良くやった」
重たい攻撃ではありそうだが一撃で命を奪うほどではない。
心配するよりこの魔物を仕留める。
グルゼイは2人を攻撃して出来たわずか隙に剣を叩き込む。
人に近い魔物の右腕がグルゼイによって切り飛ばされる。
「師匠!」
しかし人に近い魔物は攻撃されたことの反応を一切しないでノータイムで反撃を繰り出した。
グルゼイの脇腹に蹴りがヒットする。
「まさにバケモノだな!」
グルゼイの心配をする暇もなく、すぐさま人に近い魔物はジに襲いかかってきた。
残る左手と足による攻撃をジは必死に防ぐ。
「忘れてもらっては困るぞ!」
立ち直ったバルダーが後ろから戦斧を振り下ろす。
人に近い魔物はまるで見えているように体を回転させながら戦斧をかわしてバルダーの顔を蹴り上げる。
けれどバルダーも反撃されることは折り込み済み。
のけぞっただけで踏ん張って堪えて飛んでいったりしない。
「さすがはグルゼイの弟子だな」
体で相手を受け止めるなんてとんでもない荒技だが効果はある。
足を振り抜けずに動きが止まってしまった人に近い魔物の胸からジの剣が飛び出してきた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます