大乱戦2
一気に状況が混乱してしまった。
何を追い、何を優先すべきがジも咄嗟に判断ができない。
その間にもガラスの容器に閉じ込められていた魔物たちは次々と目を覚ましていく。
「だ、大丈夫ですか!」
ジの横の壁にケッサが飛んできた。
人に近い見た目をした魔物がケッサのことを蹴り飛ばしたのだ。
「問題はありません」
結構でこぼこした洞窟の壁に叩きつけられたのにケッサは何事もなかったかのように埃を払う。
本当にダメージを受けていなさそうである。
「ただこの状況は問題ですね」
ニグモが解放した魔物だけではない洞窟の奥からワラワラと魔物が駆けつけ始めていた。
ケッサを殴り飛ばした人に近い魔物もガラスの容器からさらに1体解放されてしまった。
逃げ出そうにももう来たところを戻るぐらいしかない。
しかし戻ったところで向こうに他に脱出できる道もない。
「戦うしかない!」
「どの道こいつらは全て殺さねばなりません」
「はははっ、やれるものやってみろ!
俺はもう上級の悪魔すら凌駕する力を手に入れたんだ!」
人に近い魔物が笑う。
なんとなくジたちよりもケッサの方を敵視している。
「あちらの方は私がやりますので他の雑魚は頼みます」
「雑魚ったってこの数……」
船を襲った魚の魔物だって単純に雑魚とは言いがたい能力を持っている。
薄暗い洞窟の中で未だにゾクゾクと湧くように集まってくる魔物はもっと弱くたって戦うのは辛そう。
「ふふ、何から何まで守るなんてことはしませんよ。
ご自分の身はご自分でお守りください」
「確かにその通りですね……」
ケッサが暴れたからこんな状態になっているのだけど遅かれ早かれこうなっていた可能性は大きい。
結局はどこかで戦うのだ。
「みんな無理はしないように!」
ただしケッサには期待する。
戦いは防衛中心にしてケッサが人に近い魔物を倒して加勢してくれることに期待する。
全部倒さねばならないと言っている以上最終的には戦ってくれるはずだ。
「ふふふっ、それでいいのですよ」
ジの思惑を察してケッサも笑う。
「それではまずアレから片付けましょう」
ケッサは2体いる人に近い魔物に殴りかかっていった。
「お前らはあの人間をやるんだ!」
そして入れ替わりに魚に近い魔物たちがジたちに殺到する。
「耐えればいい……と思ったけどこれはキツそうかな?」
「下がるんだ!
道を背にして交代で戦って消耗を減らせ!」
ジの意図をヘーデンスも汲み取った。
ちょうど今来た松明のある道はそれなりの広さがある。
ジたちはその道まで下がる。
戦いにくくはなるけれど相手の数や戦う方向を限定することができる。
流石の判断だと思う。
みんなで交代で前に出て戦いながら後ろに下がって人はわずかな間息を整える。
漁師の人たちも必死で戦ってなんとか戦いを維持する。
しかし死も恐れない魔物の突撃にジたちはジリジリと押されていた。
さらには自覚をしていなかったが慣れない環境下にあっては体力もいつものようにあるわけではなかった。
最初にやられたのは漁師の人だった。
素早くフォローを入れて大事には至らなかったが雲行きが怪しくなってきた。
相手の勢いが衰えない。
魔物は倒されたら新しいやつが前にくるだけだけどこちらはそんな戦い方できない。
一方的な消耗を強いられる。
「やれ!
魔物を倒すんだ!」
「なんだ?」
突如として人の声が聞こえてきた。
それも大勢のもの。
魔物に阻まれて状況の確認もできないが魔物に動揺が広がっている。
「弟子よ、預けたスティーカーを返してもらいにきたぞ」
「師匠!」
魔物を切り裂いてグルゼイが現れた。
聞こえてきた声は魔物と戦う冒険者や異端審問官たちの声なのであった。
「ウィリア!」
「お父さん!」
グルゼイに続いてバルダーも現れた。
「海に飛び込んだアホどもも元気なようだな」
「会長をお守りするのに簡単には死ねませんからね」
「そう思うなら泳げないのに海に飛び込むものじゃない」
知っている顔が助けに来てくれてみんなも元気を取り戻す。
「よく頑張ったな」
グルゼイはニヤリと笑ってジの頭を撫でる。
そのついでにスティーカーはシュルシュルとグルゼイの腕に戻っていく。
「話は後にして、まずはここを片付けよう」
「少し休みたいです……」
「全部終わってからだ」
万全の準備を整えてきた。
さらには荒れた海の船の上でもない。
魔物たちはあっという間に切り倒されていく。
「魔物と悪魔が逃げたぞ!」
「あっ……師匠!」
「なんだ?」
人に近い魔物が状況の不利を悟って逃げ出した。
それをケッサが追いかけていった。
ケッサが今のところ味方であることはジたちしか知らない。
このままでは異端審問官たちとケッサとの衝突が起きてしまうことに気がついた。
「たぶん入ってきた時に悪魔がいたと思うんですけどその人……悪魔は敵じゃないんです!」
「はぁ?」
「ええと説明している暇も……」
納得して状況を分かってもらうためには説明する必要があるけれどそうしている余裕がない。
「ジ君、私がそれについて引き受けよう。
ただしバルダー卿はこちらに引きとどめておいてほしい」
「分かりました。
お願いします、ヘーデンスさん!」
豹変して襲い掛かってくるわけでもなかったし必要な仁義は通す。
隊長の地位にあるヘーデンスの言うことなら異端審問官を止められるのでヘーデンスがケッサと戦うことを止めてくれることになった。
しかしバルダーはヘーデンスよりも格上だし本気で暴れられたら止められない。
だからバルダーだけはケッサに接触させてはいけない。
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