大乱戦1
手を拘束されてなお食ってかかりそうなヘーデンスを漁師たちでなんとか抑え込んでジは説得を試みた。
ウィリアも一緒になって説明を根気強く繰り返してようやくヘーデンスをなんとか納得させることができた。
後ろでケッサがボソッと殺してしまった方が早いのではと呟いていたのでもう必死の思いだった。
強いことは分かっている。
それが一時的にとはいえ味方になってくれる。
事情を聞く限りは敵対する相手ではなく、ここはプライドを捨てて協力することが合理的に考えて必要なことである。
理解のできる話なのだがヘーデンスにはなかなか受け入れ難かったようだ。
なのでヘーデンスとケッサは距離を空け、後ろから襲われることがないようにケッサが前を進むことで合意した。
他の異端審問官はヘーデンスほど強硬な態度でもなかったので助かった。
オゾが前でケッサと並んで歩いて道案内をして洞窟からの脱出を目指す。
ケッサの隣ということで滝のような汗をかいている。
せっかく命が助かったのにオゾなんて軽く殴るだけで倒せてしまいそうなケッサが隣にいるのだから落ち着かない。
申し訳ないけどそこはオゾしか道がわからないので我慢してもらうしかない。
ヘーデンスは警戒心マックスで剣を抜いた状態で後ろから歩いている。
「こちらですね」
同じような道が続いて分かりにくいがオゾは散々迷って何回も行ったり来たりしたので道を覚えていた。
気づいたら地面に傾斜がついてきて、上に登っていっていた。
後半意外とキツい傾斜を登って行くと松明の付けられた通路に出た。
「ここからはちょっとどっちに行くのかは……」
「あちらでしょう。
不穏な気配がしています」
登って来たところから左右に伸びているのでどちらに行けばいいのかオゾも知らなかった。
しかしケッサは迷いなく左に歩き始めた。
みんなもとりあえずケッサに付いていく。
「来ますね」
何がと聞く前にジも感じとった。
ジよりもはるかにケッサの方が洞窟の先を見通している。
松明がある通路に繋がる細い道の横でケッサが待つ。
魔物が出てくるよりも一瞬早い動いて魔物の首を鷲掴みにして壁に叩きつけるようにして引きずり出した。
「これはよろしくないですね」
魔物の様子がおかしい。
これまでに会った魔物はジたちを見ると敵意を剥き出しにしてきた。
なのにこの魔物はケッサを見て怯えたような顔をして震え出した。
抵抗する素振りすらない。
そのまま魔物の首を折る。
「魔物であり、魔物でない。
人であり、人でない。
悪魔であり、悪魔でない」
顔は見えないけれど体から魔力が漏れ出しているのを感じる。
怒りを抑えようとしてくれているみたいだった。
「残酷なことをしますね……
それにしたってどうやって」
「これはなんなんですか?」
おそらく元々人だったものが魔獣の魔石と悪魔の石を飲み込んだものであるというところは分かっている。
「もはや何ものでもないというしかありません。
私を見て怯えるということは意識のレベルでは悪魔が支配しているのでしょうが」
ジたちはさらに進んでいく。
「ここに出るんだ」
歩いていくとまたあの気味の悪い実験場に出た。
「何をしているんだ!
おい、やめろ!」
ケッサは何かの液体に漬けられた魔物に近づくとそのガラスの容器を手刀で切り裂いた。
分厚くて切るのも大変そうなガラスを素手で容易く切ってみせたケッサの行動にみんなが驚いた。
勝手なことをされると困るとヘーデンスが止めようとするがもう遅い。
派手な音がして地面に落ちたガラスが割れて液体が流れて広がる。
その液体に触れてもいいのか判断に迷ったヘーデンスはケッサに近づけず再び距離を取る。
魔物がどうするのかと見ていたら生きていたようでパチリと目を開けた。
ただ次の瞬間にはケッサによって首が一回転させられてそのまま力なく倒れてしまった。
他の魔物も同様に容器を破壊して魔物を倒していく。
「何をしておる!」
これだけ派手にやれば気づかれるのも当然の話。
ニグモと人に近い容姿をしたタイプの魔物が1体実験場に飛び込んできた。
「あなたが責任者ですか?」
また1体の魔物の首を折り、ケッサがニグモを見た。
「貴様、ここがどこだと思っている!
悪魔如きが神聖な……」
「危ない!」
ケッサが軽く腕を振った。
ニグモの横にいた魔物が危険を感じてニグモを突き飛ばした。
「な……う、腕がぁ!」
ニグモの左腕が肘上からなくなっていた。
何をしたのかはジにも分かったがアレに反応して回避できただろうかと考えると背中に冷たいものが走る。
「お話は聞かせていただかねばならないので殺しませんが逃げないように両手両足はいただきましょうか」
「逃げてください!
アイツはヤバいです!」
魔物が前に出てケッサに殴りかかる。
「あなた……下級悪魔ではありませんね?」
魔物が激しく拳を振り回し、ケッサはそれを悠々とかわす。
「ひ、ひぃ!」
これまで常に尊大な態度を取り続けていたニグモだが腕を切り飛ばされては大人しくならざるを得ない。
青い顔をしてはいずるように逃げ出す。
「く、くそ!
悪魔の分際で!」
ニグモが魔法を放ってガラスの容器を破壊し始めた。
「暴れろ!
あの悪魔を殺すんだ!」
そしてニグモは洞窟に消えていく。
「どうしますか?」
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