良い悪魔3
「ウィリアさん、まさか……」
「ええっ!?
違いますよ!」
悪魔に悪魔の気配がすると言われてみんなに懐疑的な目を向けられるウィリアは慌てる。
ケッサも圧倒的な強さがあるので変な嘘をついて仲間割れさせる必要がないというところがある。
「ウィリアさん、落ち着いて。
ウィリアさんが悪魔じゃないことはわかってますよ」
「ジ……ジくぅん!」
ウィリアが悪魔のはずはない。
そんな中でもジはブレずにちゃんとウィリアを信じていた。
みんな異様な空気に飲まれてしまっているが修羅場を経験してきたジはこれぐらいじゃあ動じない。
むしろ悪魔の言葉だから疑ってかかってすらいる。
ウィリアは優しく心強いジの視線に感動していた。
「もちろんその女性が悪魔だなんて言ってません。
ただ悪魔の気配がするというのです」
ケッサも冷静に勘違いを正す。
悪魔であるなら悪魔の気配なんて言わずに悪魔であると断言する。
ただウィリアから悪魔のような気配がしているに過ぎない。
「何か持ってない?
悪魔に関わるものとか」
ウィリアが異端審問官な以上は悪魔的な気配がしている持ち物があってもおかしくはない。
「持ち物ですか?
特に……何も。
装備と魚と……あとは少し前に拾ったあの変な石ぐらい……」
「変な石?」
「ヒェッ!」
気づいたら目の前にケッサがいてウィリアはビックリする。
いつの間に移動したのかジにも分からなかった。
「それ、見せてもらえますか?」
落ち着いた口調なのに有無を言わせぬ威圧感がある。
「は、はい!」
ウィリアはポケットに手を突っ込んで小袋を取り出した。
「失礼いたします」
ケッサは小袋を受け取ると中身を確認した。
「これは……!」
中身を見た瞬間ケッサから魔力が溢れ出した。
あまりに重たく、強い魔力に耳鳴りがする。
漁師の人たちはケッサの魔力によって気を失い、ジたちも地面に膝をついて顔を大きく歪ませていた。
呼吸が苦しく上から押さえつけられるような圧力を感じる。
ケッサは袋から黒い石を取り出した。
顔が見えず感情も分からないが石を持つ手が震えていた。
「何ということを……」
ふっとウィリアが気を失った。
ケッサは全ての石を手のひらの上に出すと一息に握りつぶした。
「これはどこで……どこで入手したのですか?」
ウィリアは気絶している。
ケッサはまだ意識のあるジの方に振り向いた。
目が真っ黒になっていた。
その感情が怒りであることが分かった。
「す、少し魔力を、抑えてくれませんか……」
話したくとも魔力が強すぎて話すこともままならない。
「……申し訳ありません。
つい、感情が表に出てしまったようです」
苦しそうなジの様子を見てケッサはようやく魔力を抑えてくれた。
ドッと汗が吹き出してきて肩で息をする。
ニノサンとユディットもどうにか耐えたけれど2人も似たような状態であった。
「それは敵から奪ったものです」
逆立ちしても勝てる相手ではない。
だが、味方につけられるならこれほど心強いことはない。
幸いにして状況は悪くないとジは思った。
正直に話せばいい。
黒い石に対して怒りを抱いているなら最初に黒い石を持っていたのはジたちではないと堂々と言えばいいのだ。
「たまたまこれを持っていた相手を倒して、不思議なものだったので後で調査しようと持ってきていたんです」
ケッサは感情の読めない目でジを見下ろしている。
きっとケッサが本気で殴ればジなんて1発でやられてしまうだろう。
だけどジはあえてケッサの目を見返す。
語るのは真実。
嘘偽りなどないと態度で示す。
ケッサが手を伸ばしてニノサンとユディットが動こうとしたがジは後ろ手に2人を止める。
「ふふふふふふ……あのように私の力に晒されてなおそのような目ができるのは素晴らしい」
ケッサはポンとジの頭に手を乗せた。
「君のことは信じてあげましょう、人の子よ。
状況が状況でなければ私が欲しいぐらいです」
「……光栄です」
「ふふ、態度もわきまえていて、いいですよ」
「あの」
「なんですか?」
「……石がなんなのか聞いてもいいですか?」
少し勇気を出して聞いてみる。
ケッサはジに好感を持っているし怒りが一転気分が良さそうだから。
「あの石は悪魔です。
……悪魔であったものです」
「悪魔で……あった…………石?」
「そうです。
あの黒い石は下級の悪魔を無理矢理石にしたもの。
どうやったのかは分かりませんが天使にも劣る卑劣な行いです」
ジの常識で考えた時に大体の人は天使には劣るのではないかと思うけど相手が悪魔なら天使は最低の存在になる。
悪魔流の言葉で天使にも劣るということはよっぽどのことなのだとすぐに理解した。
「目的も分かりません」
「どうやらですけど」
「何か知っているのですか?」
「その悪魔の石と人が契約している魔獣の石を同時に飲み込むと人が魔獣みたいになっちゃうみたいなんです」
オゾから聞いた話をケッサに伝える。
今は少しでも敵対心をニグモの方に向けてケッサの信頼を得ておきたい。
「なんですと?
……そのようなことが。
いや、まさか……
情報、ありがとうございます。
悪魔だからと切りかかってきたり恐怖する者も多い中あなたは賢いですね」
生きたくて必死なだけだけどもケッサにはジの態度は良く映っていた。
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