船の墓場で安らかに3

 あっという間にオゾを包み込むように体内に取り込んでしまった。

 食べようとしているのかと思ったがフィオスがオゾを食べる理由がない。


 それにオゾも溶けたりしていない。

 オゾは最初は出ようともがいていたのなら突然腹を押さえ始めた。


 苦痛に歪んだ顔をしていてフィオスが何かをしているのだとジは思った。

 そして次に苦しそうに喉に手をやった。


 息が持たなくて苦しんでいる。

 そう見えたジはフィオスを無理矢理逆召喚して消そうとした。


 ただ息が苦しいのとは少し様子が違った。

 大きく喉が動いている。


「な、なんだ……」


 フィオスが意味もなくこんなことをするはずはない。

 止めるべきという思いとフィオスが何かをしてくれるという期待がぶつかりあう。


「あれは!」


 少しずつ喉の大きくなっている位置が動いてオゾの口から石が出てきた。

 途端にオゾの体にも変化が見え始めた。


 生えていたウロコがバラバラと抜け落ちて体が萎んでいく。

 フィオスがオゾから離れた時にはもうオゾは普通の人に戻っていた。


「フィオス……どうやって……


 それにしても石……気持ちが悪いな」


 オゾの口から出てきた石は異様だった。

 多分魔石だったのであろう石に黒い石が触手を伸ばすように絡みついていた。


 魔石の方もどす黒く変色していて、なぜか見た目に強い抵抗感や嫌悪感を感じた。


「フィオス……その石を吐き出すんだ!」


 未だにフィオスの中にあった石。

 突然魔石に絡みつく黒い石の一部が動き出した。


 ニュルンと触手の動かすようにフィオスの核に向かって石が伸びていく。

 フィオスも慌てたように石を吐き出す。


「この!」


 まだ少しニョロニョロと動く石を剣で切り付ける。

 魔石ごと黒い石が真っ二つになる。


 すると黒い石は一瞬ビクンと震えて、その後は動かなくなった。


「なんだよこれ!」


 ジは距離を取って剣の先で石を突く。

 特に動きはないけれど得体がしれなさすぎて恐怖すら感じる。


 魔石と黒い石が一つになって結構なサイズがある。

 よくこんなもの喉を通って出てきたなと思うがフィオスが持ってくるような形で喉をプルプルとした体で保護しながら無理やり通したみたいであった。


 なぜフィオスがこんなことをしたのか分からない。

 けれどフィオスがオゾを助けたことは確かで、喉を通らなさそうなサイズの石はフィオスでなければ取り出せはしなかった。


 思っていたよりも物理的な手段による救出だったがフィオスはこの奇妙な石を感じ取って、取り出すことを思いついたのだろう。

 オゾの容態を確かめてみるとちゃんと呼吸をしている。


 生きたまま助け出すことが出来たかもしれない。

 見てみるとオゾは普通のおじさんだった。


 あの石がおじさんを魔物にしたのだと思うと背筋が凍るような思いがする。


「しかしどうすっかなー……」


 オゾも黒い石もこのままにしておいていくこともできない。

 けれどこのまま何もしないのも手持ち無沙汰である。


 何もすることないジはチラリと船を見た。

 難破船なのだろうか、非常に古そうに見える大きな船。


 オゾがいたということは他に何もいないことになる。

 船の中が安全であることは確保されている。


 男の子であるジの冒険心がむくりと頭をもたげた。

 ジは黒い石を蹴り飛ばしてオゾからさらに遠いところに離して船を見てみることにした。


「なんかお宝でもないかな?」


 くだらない話や英雄譚も酒場では聞く話であるがそれと同じくらいによく聞く話としてお宝話がある。

 多いのはダンジョンに関する話であるが貴族の隠されたお宝とか大泥棒が盗み出した秘宝なんて話もある。


 あとはお宝を積んだ船が行方不明になった話も時折聞かれる。

 なんとも夢のある話である。


 まずは船の上に上がってみる。

 ギシギシと床板が音を立てるが抜けることはなさそう。


 まだ形が残っている木箱などがある。

 中身を覗いてみるがどれも空であった。


 マストはポッキリと折れているが折れた先は見当たらない。

 それが難破した原因なのかもしれない。


「骨が残ってるな……」


 船の舵の近くに横たわるガイコツが落ちている。

 動かないところを見るとスケルトンにはなっていない。


 船上には何もない。

 なので中に入ってみる。


「あー」


 と思ったのだけど階段が崩れていた。

 飛び降りられないこともないけどその衝撃で床でも抜けると危険だ。


「そうだ、横から入るか」


 ジは一度船から降りる。

 船の横には大きな穴が空いている。


 そこらに木片が転がっているのでここに座礁してから空いた穴である。


「お邪魔しまーす」


 いくつか穴も空いている都合で光が少しだけ入り込んでいて船内も真っ暗ではない。

 穴が空いていたのは倉庫のようだ。


 荷物らしきものはあるけどどれも蓋が開いている。

 つまらないなと思うけど基本はこんなものなのだろう。


 いくつか部屋を見てみる。

 中には骨が転がっているところもあったけれど残っている物は少ない。


 古ぼけた万年筆とかはあったけれど個人の愛着がありそうな物は持っていく気にはならなかった。

 剣やなんかは錆び付いていて使えなさそう。


 お金もあった。

 こちらも錆び付いていたけれど商人ギルドに持っていけば引き取ってはもらえるので持っていくことにした。

 

 持ち主のいないお金ならいいだろう。

 そう、お金に罪はないのだ。


 使えるお金は助けてあげねば。

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