船の墓場で安らかに4

 いくつかの部屋を回ってみるが違和感もあった。

 船の大きさからすると見られる遺体の数が少ないのだ。


 そんなにそこらへんに骨が転がっていても嫌だけど転がっていてもおかしくない。

 なのにこの大きな船を運用するのにはどう見ても足りないぐらいしか骨がない。


「うわっ、アブね!」


 船の先の方から入って船尾の方まで来た。

 一際大きなドアに手をかけた瞬間倒れてきて潰されかけた。


「ここは……船長室ってかな?」


 船の構造なんて知らないけど奥の方にある良い部屋ならきっと船長の部屋だ。

 カーペットが敷いてあったり大きなデスクが置いてあるのがパッと見えた。


 デスクのところにある大きなイスに腰掛けたままのガイコツが1体。

 やや埃っぽい部屋に入る。


 他の部屋よりも密閉されていたのか物の保存状態はいい。

 いくつか貴金属はあるけどジには価値もわからない。


 それに今はあんまり荷物が多くても良くないので手をつけない。


「これは日誌かな?」


 ガイコツの前、デスクの上に閉じられた一冊の本が置いてあった。

 タイトルなんかは見えないので航海日誌なのではないかとジは思った。


 興味本位で日誌を開いてみた。

 大丈夫か心配だったけど慎重に開いてみると破れたりすることもなかった。


 適当に開いたページの中身を読んでみるとやっぱり航海の内容を書き記した日誌であった。

 パラパラとめくって軽く内容を読んでいく。


 どうやら商人ではなく旅をしている人たちのようだ。

 いくつかの国を巡って必要なものを探しているみたいな内容であった。


「警告を受けていたのに風向きが悪く飛竜種の巣の領域に入ってしまった……」


 ここまで順調な旅だったのが一回の失敗で大きく流れが変わってしまった。

 天候が悪くて現在地を見失い、風に任せて進んでみたら近づいてはいけないと言われていた魔物の巣の周辺に入ってしまったのだ。


 領域を守ろうとした魔物に襲われてどうにか乗り切ったが代わりにマストがへし折られてしまった。

 そこからこの船の漂流が始まった。


 段々と食料が無くなり、みんなが精神的に追い込まれていく様子が日誌に書かれていた。

 もはや限界を迎えた時、ここに座礁してしまったらしい。


 まだ比較的元気のある船員を洞窟の探索に出したけれど結局出口も見つけられず、そのまま全滅してしまった。


「もしこれを見つけたものがいるのならお願いしたいことがある。


 返すことのできなかった王家の証をイェルガルに返してほしい……王家!?」


 この船は王太子が王位を引き継ぐのにふさわしい能力があると見せるためにいくつかの国をめぐる旅をしていた船であった。

 安全なルートで進んでいるはずが偶然その中でも危険なところで天候が荒れて失敗してしまった。


 荷物が空なのは全て食べ尽くしてしまったから。

 人が少ないのは洞窟の中を探索していて帰ってこられなかったからだ。


「机の引き出しの奥……」


 デスクの大きな引き出しを開けて奥に手を入れる。

 すると引き出しの奥が外れてさらに向こうの空間に何かがあった。

 

 掴んでこのまま取り出す。


「指輪?


 大きいな」


 かなり大きめの指輪が王家の証らしい。

 大きな青い宝石がはめられていて、ジでは親指につけても余るほどのサイズであった。


 ただ王家の証というだけではない。

 ほんのりと魔力を感じるのでおそらくこれは魔道具でもある。


「ゾーディッグ・イェルガル……まあ俺もここから出られるかは分からないけど出られたらこれお返ししてあげるよ。


 約束はできないけどね」


 この船の船長であり、イェルガルという国の王太子だったゾーディッグの願いはジが受け取った。

 気にしないで指輪を持っていくような人もいるだろうけど不安に押しつぶされそうになりながら最後まで仲間を鼓舞して帰ることに希望を持っていた日誌を読んではやらないわけにはいかない。


 証拠として日誌も持っていくことにしてジは船を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る