暗き洞窟の実験場1
「速い……」
数体の魔物に運ばれてジたちは海中を高速で移動していた。
海中なので周りの景色に乏しくて分かりにくいがかなりの速度で移動しているようだった。
曇天のために空は暗くて時間も分からない。
「うおっ!」
「きゃっ!」
「ご、ごめんなさい」
「大丈夫です……」
いきなりフィオスがガクンと揺れてみんなが倒れる。
ジもバランスを保てずウィリアの上に倒れてしまった。
「いきなりどうしたんだ?」
フィオスも金属化していて固いから打ち付けたところが痛い。
立ちあがろうにもフィオスが不規則に揺れ続けてるバランを取ることができない。
ウィリアはジを守るように抱きかかえてくれている。
しばらく揺れてジたちはフィオスの中でもみくちゃになった。
「だ、大丈夫……ですか?」
「あ、はい……」
最初はジの方が上だったのにいつの間にかウィリアがジの上になって抱きつくようになっていた。
「ユディットとニノサンは大丈夫か」
「くぅ……ニノサンと思い切り頭をぶつけました」
「石頭……」
「それはお互い様でしょう」
途中ひどく鈍い音がしたけどそれはユディットとニノサンが頭をぶつけた音だった。
まともに頭をぶつけるとかなり痛い。
「雰囲気が変わったな」
揺れる前と揺れた後で変化があった。
波に揺れるような感覚も運ばれているような感覚もない。
どこか安定した場所に置かれたように動きがなくなった。
みんなが顔を見合わせた。
「フィオス」
バレないように下の方を小さくスライムに戻す。
ジがはいつくばるようにして外を確認する。
青く透けてフィオスの向こう側が見える。
壁がうっすらと光っていてぼんやりと周りが見えている。
薄暗いので分かりにくいが周りは洞窟の中のようなゴツゴツとした石の壁に見える。
水の中ではない。
周りに魔物の姿もある。
「海の中じゃないみたいだ。
……よし、打って出るぞ」
さらに周りを確認して魔物の位置を調べる。
ちょうど魔物は4体。
フィオスを囲むようにして布陣している。
一斉に飛び出して1人1体倒す。
「行くぞ……3……2……1」
ジはフィオスを逆召喚して一度消す。
同時に4人が飛び出して魔物に襲いかかる。
ジ、ユディット、ニノサンに問題はなかった。
油断している魔物を一撃で倒したのだがやや攻撃力で劣るウィリアは魔物を倒しきれなかった。
「私にお任せを!」
「いや、私に!」
それを予想していたユディットとニノサンが我先にとウィリアが仕留め損ねた魔物に切りかかった。
「くっ、速い!」
「主人、終わらせました」
速度で勝るニノサンが一足早く魔物の首を刎ねた。
「ご苦労様……さて、ここはどこなのか……」
キョロキョロと周りを見て回る。
やはり洞窟の中のようである。
ジたちがいるのは少し広めの空間になっていて部屋の半分くらいには水が溜まっているところがある。
覗いてみてもそこは見えないのでもしかしたらここから入ってきたのかもしれないと思った。
「ヒカリゴケですね。
ということはここは完全に密閉されたところではなくどこか外に繋がってると思います」
ウィリアが壁の光るところに触れた。
するとその光が一部指先に移る。
よく近づいてみてみるとそれは苔であった。
薄ぼんやりと苔が発光しているのであった。
ウィリアによるとこれはヒカリゴケというもので外の空気が届かない完全に密閉された空間では育たないらしい。
ということは外に繋がるところがあると予想される。
ひび割れのような隙間でも外と繋がっていることになるのでどんな形かは分からないらしいが。
「ともかく先に行ってみるしかないな」
この部屋から道が繋がっている。
水の中に入るのは先が分からないし魔物がいるかもしれないのでいけない。
この洞窟の奥に進むしか方法はないのである。
「ウヒャア!」
「ウィリアさん?」
「ご、ごめんなさい!
今背中で何か……ヒャイ!
く、くすぐった……」
いきなり変な声をあげて体をモゾモゾとさせ始めたウィリア。
なんだろうと思っていると服の隙間から何かがぼとりと落ちてきた。
「あれは……スティーカー!?」
ジは慌ててその落ちてきたものを拾い上げた。
それは師匠であるグルゼイの魔獣であるスティーカーであった。
蛇の魔獣であるスティーカーは普段はグルゼイの服の袖に隠れているはずなのにどうしてこんなところにいるのか。
スティーカーは周りを見渡すと最後にジの顔を見つめていた。
ジには分かった。
師匠が見ていると。
ジの腕に巻き付いているスティーカーに手を振る。
言葉による疎通はできなくても無事であることぐらいは伝えられる。
するとスティーカーが分かったと伝えるかのようにうなずいた。
グルゼイが無事なようでジはホッとする。
ジを助けようとしたウィリアを助けようと掴んだ時にグルゼイはスティーカーをウィリアの方に移動させていた。
我が弟子ながら厄介なことに巻き込まれる体質なので念には念を入れたグルゼイの思いつきだったが上手いことこれが成功した。
グルゼイはスティーカーとの結びつきが強くて絆が深い。
距離があってもスティーカーはグルゼイの意思を汲み取って動けるしグルゼイはスティーカーのいるところが何となく感じられる。
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