海に落ち5
「植物系の魔獣には空気を浄化する能力を持つものがいます。
ズランもある程度なら空気を浄化して持たせてくれるはずです」
「へぇ……そんな力が」
植物系の魔物とは関わったことがなかったのでジも知らなかった。
ズランは手からニョキニョキと植物を伸ばして葉を咲かせた。
効果は知らないから過度な期待は出来ないが長く空気が持つと考えられるだけ心に余裕ができる。
「奴ら迫ってきますよ!」
ジたちの姿が透けて見えるようになったせいか魔物たちが再び襲いかかってくる。
「フィオス、金属化だ。
ニノサンは力を温存していてくれ」
「了解です」
この先どうなるか分からない。
ニノサンの力が必要になるかもしれないので魔力は取っといてもらう。
再びフィオスには金属になってもらって対策を考える。
理想的なのは船の上での戦いが終わって魔物が引いていけばいいのだけどどの程度被害を受けたら相手が引くのだろう。
「ん?」
「な、なんだ?」
これまで波に揺れていたがそれとは違う揺れにみんな警戒する。
「……フィオス一部だけ戻して外を見せてくれ!」
嫌な予感がした。
何ヶ所か窓のようにスライムに戻してもらって外を確認する。
「ヤバいですよ!」
「これは……予想外だったな」
痺れを切らしたのか魔物はジたちを倒すことを諦めた。
代わりに別の手段を取ってきた。
何体かの魔物がフィオスにしがみつくような形をとって海中を泳ぎ、ジたちをどこかに連れて行こうと移動を始めていたのである。
みるみる船が遠ざかっていく。
かなりの危機。
しかし今フィオスを解除して出て行くこともできない。
「どうします会長!」
「ど、どうしたらいいのでしょうか、ジ君!」
「主人、いかがなさいましょうか!」
なんで3人してこちらを見る。
どう見たってこの場で1番年下で守られるべき存在なはずなのに困った時の指示を仰がれてもジだって困る。
「何もしない」
「えっ?」
「出来ることはない。
状況に任せるしかない」
時に必要な判断として何かをしないことも大切だ。
この状況を引っ返す手が思い浮かばない。
仮に打って出て周りの魔物を倒せても船との距離がもはや開きすぎている。
泳げない3人がいては船にたどり着くのも難しい。
これだけの規模の魔物がいるということはどこかしらに大規模な巣があるはずだ。
そしてその場で捕食せずに誘拐することを考えれば距離としても遠くはないはずだ。
海底に巣があれば終わりだがカエルっぽい奴もいたし陸上部分がある巣である可能性も大いにある。
巣に着いた後どうするのかは巣に着いてみないと分からない。
けれどこの海の中で戦う選択肢はない。
連れていかれる先に希望を持つしかないのである。
「いざとなれば下に魔法を放って一回海上に出て空気だけ取り込むことを繰り返して持久戦を行う」
息が苦しくなってきたらなりふり構わず空気を補充する。
「……会長って、よく誘拐されますよね」
「今それを言うんじゃない……」
ウィリアはとても不安そうだがユディットは意外と冷静だ。
ジが冷静だからユディットも冷静でいられる。
上に立つジが落ち着き払っているのだからユディットが焦ってもしょうがなく、ただただジについていくのみだと強く信じ込んでいる。
どれほど危機的状況であってもジは帰ってきた。
今ここでは焦るのではなく戦いに備えて体力を温存しておくことこそが大事。
「ウィリアさん、生きて帰りましょう。
まだ生きているうちは希望を捨てちゃいけません」
希望は薄いがそれなりに実力派のニノサンとユディットがいる。
落ち込んで悲観することは容易いがそんなことをしても精神的に弱ってしまうだけだ。
希望は捨てず、どんな時でも足掻く覚悟の目でジはウィリアを励ます。
「ジ君……」
「俺も怖いです。
不安です。
でも諦めたくないです」
ユディットとニノサンが従って頼りにしているものだからウィリアもいつの間にかジを頼りにしてしまっていた。
「生きて帰るんです」
「生きて帰る……」
「はい」
「そうですね、諦めちゃいけないですね!」
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