暗き洞窟の実験場2

 つまり助けが来る可能性が高い。

 スティーカーの居場所を追ってグルゼイが助けに来てくれるとジは確信を持って言える。


「助けはくる。


 どれぐらい時間がかかるか分からないけど生きのびて、最後まで耐え抜けばきっと師匠が来てくれる」


 一応視覚だけじゃなく聴覚を共有する魔法もある。

 それを使う場面が限定的なので扱う人があまりいない。


 おそらくグルゼイも使えないだろう。

 だからスティーカーを通してジの言葉を伝える手段はないし、逆にグルゼイの側からジに言葉を伝える方法はない。


 でもこの師弟は諦めない。

 グルゼイはジが足掻いて生き残ろうとすると信じているし、ジはグルゼイがジのことを見捨てないと信じている。


「とりあえず奥に進んでみよう。


 このままここにいたらまた魔物が上がってくるかもしれない」


 留まるのも進むも変わらぬリスクがある。

 どちらに行こうと厳しいことに変わりはないのなら進んでみよう。


 ジはフィオスを呼び戻して盾になってもらう。

 どうしても先頭を行くと言って聞かないユディットとニノサンを前に行かせることにしてこの2人のどちらかを前にしてその後ろにジ、ウィリア、1番後ろを2人の前にしなかった方とする。


 ヒカリゴケがあって壁にぶつかりはしなさそうであるがスイスイ進めるほどの光量はない。

 ジは魔力感知で進めるけど他の3人はそうもいかないので慎重に進んでいく。


「光が……見えます」


 ニノサンと交代で1番戦闘はユディットが務めていた。

 洞窟の先が曲がり角になっていて覗き込んで確認したら明るくなっているのが見えた。


 変化があるなら魔物がいるかもしれない。

 さらに気を引き締めて進んでいく。


「なんだここは?


 通路……になっているのかな?」


 進んでみると相変わらず洞窟の中ではあったのだが様子が違っていた。

 壁に松明が取り付けられていてそれが灯りとなっていた。


 注目してみると洞窟の様子そのものも違う。

 これまで通ってきたところは天然の洞窟で人の手をが加えられていなかったのに対してこの松明が取り付けられているところは一部道を広げるように人の手が入っている。


 松明といい、明らかに魔物の仕業ではない気配を感じる。


「……なんだか気味が悪いですね」


 ウィリアのつぶやきにはジも同意する。

 そこはかとなく嫌な感じがする。


 この人工的な気配の主は見たこともない魔物とどういった関係にあるものなのだろう。

 そもそもなぜ魔物はジたちをここに連れてきたのか目的も分かっていない。


 ビグマ商会の人が船員で誘拐されてしまった人もいると言っていたことを思い出す。

 もしかしたら他の人たちもここに連れてこられた可能性がある。


「シッ!


 誰かが来る……」


 松明がつけられた通路にはジたちが通ってきたような自然の洞窟がいくつも繋がっている。

 その中の一つに気配を感じた。


 魔力感知を最大限その道に向ける。


「魔物だ」


 人に近い形をしているので一瞬迷うが近づくにつれて形がはっきりと分かってくる。

 これまで戦ってきた魚の魔物である。


 ユディットに出てきた瞬間倒すように伝えてジたちは息を潜める。

 ペタペタと足音が聞こえ始めてユディットが出てくる瞬間に気を張る。


 魔物が角から姿を現した。

 次の瞬間にユディットは飛び出して剣を振る。


 おそらく魔物は何をされたのかも分からなかったはずだ。

 一撃で首を切り落とされて魔物の体がドサリと倒れた。


「なんだこれ?」


 魔物は手に箱を持っていて倒れた時にそれが地面に落ちて中身が出てきた。


「黒い石ですかね?」


 小さくて丸い黒い石で箱いっぱいに入っていたようでコロコロとそこらを転がっている。


「……なんだか、それ嫌だな」


 ジは黒い石を見て顔をしかめた。

 黒い石から嫌な魔力を感じる。


「それになんだか悲しい感じがする……」


 自分でも意味が分からないのだけど石の魔力から悲しみを感じる気がするのだ。


「これはまさか……」


 ウィリアが石を拾い上げてまじまじと観察する。


「最近調べた魔神崇拝者が持っていた石によく似ています。


 こんな感じの黒い石でなぜ持っていたのか尋ねても一切口を分からなくて用途は不明ですが。


 そういえば……王都の襲撃の時も……」


「ウィリアさん、とりあえずそれは後にしましょう」


 黒い石に関する記述をどこかで見た気がしたウィリアはそれを思い出そうとしていたが今はそんなことをしている暇ではない。

 とりあえず黒い石をいくつか持っていくことにしてジたちはさらに松明の付けられた通路を進む。


「な、なんなんだここは……」


 進んでいくと広い空間に出た。


「実験場……でしょうか」


 そこにあったのは様々な道具。

 ガラスで作られた小型の容器が並び、その中に見たこともない色をした液体が入っている。


 いわゆる実験に使う道具のようだけどロクに教育も受けてこなかったジにはほとんど初めて見るようなものばかりであった。


「アレはなんなのでしょうか……」


 こうした道具の数々でも目を引くのが巨大なガラスの容器である。


「気持ち悪い……」


 緑色の液体が満ちており、液体の中には魔物が浮かんでいた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る