旧友1
せっかく異端審問官の協力者となって情報共有をなされることにもなったのだけど進展はなかった。
倉庫の警備も増えたためなのか襲撃も起こらず、食料の輸送も始まった。
倉庫2つ分奪われたことは痛いがまだまだ食料はある。
異端審問官が出張ってきたので調査はそちらに任せてフェッツたちは自分のできることを優先した。
輸送にはジは関わらない。
商会で雇った冒険者やルシウスを始めとした騎士や兵士たちが食料を守ってくれる。
「救助信号が届いた?」
「そうです」
1日1回情報はないかとウィリアのところに聞きにいく。
そこで新しい情報ではないが異端審問官の出動するということがウィリアから伝えられた。
「どうやら救助要請だけを魔獣で飛ばしてきた船があるようで助けに行くことになったのです。
最近海の方でも不可解な事件があるので異端審問官も同行するのです」
ソコの父親の話に聞いたような不審な海の事件もある。
海で起こったことなので調べようもないが不審な事件であることには目をつけていた。
状況を示す内容の手紙もなくただ救援を求める合図だけを船が送ってきた。
魔神崇拝者と関わりがあると断言もできないがここ最近の出来事を見るに少しでも不審なことがあれば調べるべきである。
なので救助に向かう船に異端審問官も同行することになった。
敵に回すとヤバイ奴らであるが味方としては心強いので救助に向かう漁業ギルドも異端審問官を受け入れた。
「どうですか、ご同行なさいますか?」
「ほう、いいのか?」
「ええ、急なことで明日の出発となるのですが」
「俺は行こう。
どうする?」
グルゼイは隣に座るジの方を見る。
「俺も行っていいんですか?」
どうせすることはない。
だから行ってもいいし行かなくてもいいのだけどソコから聞いた話もあって海でのことには興味がある。
「ただユディットも連れて行っていいですか?」
「ユディットか……」
ジ以外のみんなが何をしているかというと遊んでいるわけではない。
アカデミーに行かなくても勉強はしなくてはならないしマナーや礼儀作法、魔法の練習なんかもしている。
タとケも向こうのご好意で先生をつけてもらってお勉強と踊りの練習をしている。
ジの護衛であるユディットはといえばユディットは異端審問官の関係者であるグルゼイの弟子であるジの護衛という異端審問官から少し遠い関係性となる。
そのために異端審問官のところに行く時にはユディットは同行していなかった。
ゼレンティガムの騎士が訓練をつけてくれているらしく、実は充実した毎日を送っているらしいが毎日私も行きますか!と聞いてくるので少し心苦しくはあった。
ユディットの魔剣ならリッチやスケルトン相手にも有効なので敵として出てきても役に立つ。
「1人増えても構わないか?」
少し悩むような素振りを見せたがグルゼイはウィリアに聞いてくれた。
「もう1人……ですか?」
「ええ、実力は保証しますよ。
勝手なことをやるやつでもないですし」
「まあみなさん細かいこと気にする人でもないので大丈夫だと思います」
ということで意外と緩くユディットの動向も許可されたのであった。
ーーーーー
話によると航行予定ではあと5日ほどの距離の時点で魔獣を飛ばし、魔獣がついた時点で何事もなければあと3日。
さらに状況を整理して緊急事態だからすぐに人を送ることに決めて、想定では残り1日もあれば着くぐらいのところにはいる予定だった。
他の船の話では波や天候も悪くない。
仮に問題があっても潮の流れからすると港の方には近づいているらしい。
最大で往復10日前後。
早ければ2、3日で帰って来られる。
異端審問官の仕事だと言わずにちょっとやらなきゃいけないことがあると言って出てきたのでリンデランたちも頑張ってねと送り出してくれた。
「私も連れて行ってくださりありがとうございます!」
そしてユディットは鼻息荒くやる気に満ちあふれている。
なんだかんだでユディットの出番がないのが1番いいのだけどね。
ユディットの出番があるということはジを守る必要があるということで、つまりは危険が迫っているということなのだから。
戦うことなんてなければいい。
「グルゼイじゃないか!」
「ンンッ?
バルダー!」
「ハッハッハッ!
古い友よ、歳をとったものだな!」
荷物を持って港に集まったジたち。
船乗りの他に海上に慣れた冒険者や黒い鎧を着た異端審問官がすでに港に来ていた。
その中の1人、ゴツい黒い鎧を身につけて大きな戦斧を背負った老年の男性がグルゼイを見つけて近づいてきた。
離れていてもデカいと思ったのに近づいてくると余計にデカい。
あと声もデカい。
バルダーと呼ばれた老騎士はグルゼイの体に手を回してハグをする。
バルダーの方がデカくて、しかも力が強い。
ハグに応じる余裕もなく浮き上がったグルゼイが苦しそうに脚をばたつかせる。
「ぐっ……降ろせ!
ハァッ……ハァッ、相変わらず力が強いな」
「体は鍛え続けているからな」
「だが、腕は……」
バルダーには左腕がなかった。
「これは悪魔との戦いでな」
腕のなくなった肩口をポンポンと叩くバルダーはなんでことはないようにニカリと笑う。
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