過去には知らぬ闇2
過去では国は大きく荒れた。
国民も王様も努力はしたが抗いようのない波のように不幸が押し寄せてジのような何も持たざる者は必死に波に流されながら生きていくことしかできなかった。
けれどそれが魔神崇拝者のせいだったら。
国が荒れていたから生きてこれた側面あるし、荒れていなかったとてジ本人が荒れていたことに違いはないが本当ならもっと平和で生まれる悲しみが少なかったのなら。
魔神崇拝者を止めねばならないと奮戦する異端審問官を少しは応援する気持ちにもなれた。
「この国に魔神崇拝者がいることは分かった。
なぜここにいる。
倉庫街にいたことも併せて聞かせろ」
「ボージェナルに目をつけたのは王城での襲撃事件からです。
スタッフや劇団員として魔神崇拝者が紛れ込んでいたのですが王城に来る前にボージェナルで公演を行っていたのです。
その時に事故があってスタッフや演者がケガをししてしまったために何人か補充したらしいのです」
「その補充した人が襲撃したのか?」
「その通りです。
大きな劇団なので全く調べもせず人を雇いません。
つまりこちらで長く活動している魔神崇拝者がいると我々は睨みました」
経歴的には問題がないから王城で公演を行うスタッフにも選ばれた。
普段は何でことはない顔をして日常的な生活を営んでいた人たちであった。
それだけの信頼を得られるほど長く住み着いて生活しているなら魔神崇拝者のコミュニティなどがあってもおかしくない。
王城に行って襲撃するように指示する拠点がある可能性もある。
港町は特に人の出入りが多い。
隠れるのも勧誘するのにもちょうどいい場所である。
演劇関係を調べていたのだがボージェナルで劇団に加わった人たちがいた劇団は無くなっていて足取りも追えないなどという不審なこともあった。
「それでも信頼を得られるほど根付いていた人たちがいきなり全員消えるはずもありませんからね」
根気強く調べると一部の人が船に関わる仕事に転職していたことが判明した。
「まあ……不正な取引とか、密輸品とか私たちの仕事じゃないものもいくつか見つかりましたけど……」
ちなみにヘーデンスが浜辺で追いかけていたのもそうした調査の最中に逃げ出した船乗りで禁制品となっている薬草をこっそり持ち込もうとして逃げ出したのであった。
結局ヘーデンスに捕まって逮捕されたけど魔神崇拝者ではなくただ欲に目が眩んだだけの人だ。
逃げなきゃ禁制品は気にしなかったかもしれないのに逃げちゃったので調べられた。
ちょっと残念な船乗りである。
そして異端審問官は転職した船乗りを見つけた。
何人かは自ら命を絶って話を聞ける状態じゃなくなってしまったが命あるままに捕まえられた人もいた。
下っ端なので計画の全容までは知らなかったがこの国に混乱をもたらす目的があることは分かった。
「倉庫の襲撃も関わるつもりがなかったのですが国が関わっていると聞いて魔神崇拝者がやったのではないかと思い、もう一ヶ所ある倉庫の方を見張っていたのです」
「なるほどな……」
よくよく考えると結構魔神崇拝者と関わってるなとジは思う。
「今後の計画はあるのか?」
「いえ……逃してしまったことは大きいです。
こちらに動きを掴まれていることが分かった以上は相手も動きを変えてくるでしょう。
倉庫街の巡回はこちらでもやるつもりですが新しい情報でもないと調査を続けるしかありません」
ウィリアは深いため息をつく。
異端審問官の仕事もこうした調査が大きな割合を占める。
戦いなんて起きない方がいいのはもちろんのことだけれどただ書類仕事に邁進するだけなのもツマラナイと思ってしまう。
「ただ相手がリッチなことはわかりましたので警戒レベルを上げてより上級の異端審問官もお呼びすることになると思います」
「ここまで来てまた振り出しか……」
「魔神崇拝者は執念深いです。
簡単に計画を諦めるとも思えませんのでまだ希望はあります」
酒場の飲みの席には上がってこない闇があった。
人知れず異端審問官が魔神崇拝者と戦っていたのだとしたら若干異端審問官への考えも変わる。
相変わらずあまり関わりたくない人たちでやられたことも忘れはしないが地道で過酷な戦いがあった。
「ウィリアさんはどうして異端審問官に?」
グルゼイとジは正式に協力者として情報共有させてもらえることになった。
機密保持のための書類にサインをする。
聞いていいのか気になったけどボーッとしてたらふと口に出してしまった。
「私ですか?」
「あっ、すいません」
「いえ、いいんですよ」
あまりウィリアは異端審問官っぽくない。
どんな人が異端審問官っぽいんだと聞かれると困るけれどウィリアは明るい普通の女性に見えるのだ。
ジの失礼な質問にもウィリアは優しく微笑む。
「私の両親は魔神崇拝者でした」
言わなくてもいいし、子供の失言だと叱りつけてもいいのにウィリアは遠い目をして異端審問官になった理由を答えてくれた。
「まだ物心もつかない赤ん坊だった私は魔神に捧げられる貢物となるところだったんです。
その時に異端審問官の人たちが助けてくれて……私を育ててくれたんです。
変な人たちばかりですけど根は優しい人なんですよ。
だから魔神崇拝者に恨みがあるというよりは私みたいな子を減らしたいと思ったんです」
「……ウィリアさんを見れば異端審問官の人たちの優しさは分かりますよ」
「ふふっ、君も優しいこと言ってくれるのね」
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