異端審問官と師匠と泥棒10
「願わくば2度と会いたくはないが会うことがあったなら次は貴様を私の眷属にしてやろう」
リッチは指先に力を込めて水晶を割る。
するとリッチの足元に紫の光を放つ魔法陣が広がった。
「待て!」
「偉大なる闇の光に栄光あれ!」
隊長が剣を横薙ぎに振るうがリッチに当たることなく空を切った。
今度は魔法の幻影ではなく本当にリッチがその場から姿を消してしまった。
「クッ……!」
目の前で逃してしまったことに隊長は悔しそうに拳を握った。
「隊長!
ボサってしてないでこっち手伝ってください!」
「う……わかった!」
リッチがいなくなればスケルトンの集団など烏合の衆。
騒ぎを聞きつけて他にも冒険者や兵士が駆けつけてきて住宅街に漏れる前にスケルトンを倒していく。
「やれ」
「はーい」
ジとグルゼイは戦い方を変えていた。
スケルトンは多少手足を切られたぐらいじゃ倒されない。
確実に倒すなら頭を破壊してしまうのがいいのだけど頭を切り裂くのは意外と骨が折れるのでグルゼイも手が疲れてきていた。
なのでグルゼイはスケルトンの細い足を切り裂き地面に倒す。
そこをジがフィオスメイスで殴りつけて頭を砕いて倒す。
リッチがいなくなってから少しスケルトンも脆くなった。
「次だ」
「ほい」
「次」
「えいっ!」
倒れてくるスケルトンの頭をスイングして壊したり、倒れたスケルトンの頭をフィオスメイスで突くようにして砕いたりと連携を取って戦う。
(いや……これ、俺の方が大変じゃね?)
負担を分担することで効率良く戦っている、ように見えて案外グルゼイが切って倒したスケルトンにトドメを刺して回るのは重労働だった。
しかしグルゼイの背中から伝わってくる。
俺の後ろにいて安全なんだからそれぐらいやれ。
というメッセージが。
まあ危険はグルゼイが引き受けてくれるのだから若い弟子が奮闘して頑張るしかない。
グルゼイの方もスケルトンの動きを見てジの方にあまり行かないように配慮して戦ってくれている。
甘いんだか厳しいんだか分からない師匠である。
メイスになってくれているフィオスは大丈夫かなと思ったがなんかフィオスの感情としては楽しそうである。
自分で魔物を倒すことがないので相手を倒しているのが楽しいのかもしれない。
フィオスの期待にも応えてスケルトンを倒す。
「あの人すごいな……」
グルゼイは無駄が少なくスマートにスケルトンを倒している。
それに比べるわけではないが対照的に暴れ回っている人がいる。
異端審問官の隊長である。
一度剣を振ればまとめて数体のスケルトンがバラバラに砕け散る。
まだ若そうなのに実力の高さが見て取れる。
あのウィリアという女性も手練れである。
周りを見て上手くフォローするように動き回っていて視野の広さと戦いの器用さはジも参考にしなきゃならないと思わせられた。
比較的雑にスケルトンに突っ込んでいく隊長をフォローするのは大変そうだったけれど。
見ていてフォローなんていらない感じはあったが安全に戦えるようにしていたので意外とウィリアは苦労を背負っちゃうタイプだった。
「周辺を捜索して撃ち漏らしたスケルトンがいないか探すんだ!」
見える範囲でのスケルトンをみんなの協力で倒した。
万が一倒し損ねたスケルトンがいれば大問題なので異端審問官が中心となって周辺を捜索する。
「私はヘーデンスと申します。
ご協力、感謝します。
つきましてはいきなり切りかかったこと謝罪いたします」
出会い頭に戦いになったけれど結果的には共闘することになった。
グルゼイはリッチの仲間ではなく、自分の敵でもないことが分かった。
異端審問官の隊長ヘーデンスはグルゼイとジに感謝と謝罪のために頭を下げた。
1人でリッチを退け獅子奮迅の働きを見せたヘーデンスは一応ちゃんと過ちは認められた。
ジとグルゼイは倉庫を借りている関係者で調べたいことがあって夜だけど訪れたということで説明した。
「そうでしたか……
こうした大きな事件の犯人は現場に戻ってくることがあると先輩から教えられたことがありまして、こんな夜中に来る人ならきっと犯人だろうと思い込んでしまいました」
ひどい思い込みだけど夜遅くに人気のない倉庫に忍び込む人がいたら怪しいのは否定できない。
ただまあそれはヘーデンスも同じだけど。
ヘーデンスは倉庫の中身を盗んだ泥棒が戻ってくるかもしれないと倉庫の中で張り込みしていた。
そこにたまたまジとグルゼイがやってきてしまったのである。
「なぜ倉庫街に人を張り込ませていたのか聞いてもいいか?」
リッチと思わしき魔物が泥棒である可能性があることはジがグルゼイに伝えたのみであとはソコしか知らない。
倉庫の商品が盗まれた件については今のところただの泥棒であること以上の情報もなく、異端審問官が目を付ける事件じゃない。
倉庫街に人を配置しておくことも泥棒を見つけることもやる必要もない。
どうしてここに異端審問官がいたのかグルゼイは気になった。
「それはお教えできません」
予想はしていた杓子定規な答え。
好き勝手やるのに秘密主義であまり組織外の人を信じない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます