異端審問官と師匠と泥棒11
グルゼイも答えてもらえるだなんて思っていないが悩む素振りなく断られては不快感も覚える。
「貴様の部下が危険なところを助けてやったのだぞ?
事情ぐらい聞かせてもらってもいいだろう」
「手助けいただいたことは感謝しておりますし勘違いして切りかかったことは反省しております。
ですが話せないものは話せません」
悪い意味でもまっすぐな人である。
グルゼイに睨みつけられてもヘーデンスは全く怯むこともなく態度を変えない。
「後のことは我々に任せて……」
「いいから全てを教えろ」
「これは?」
そう簡単にいかないことは分かっている。
グルゼイは懐から何かを取り出してヘーデンスに投げた。
攻撃ではない。
ヘーデンスは投げられたものを容易くキャッチした。
手のひらほどの長さがある四角い黒い木片で短い編み紐が繋いである。
それを見てヘーデンスは目を見開いた。
「古い紋章……」
表面には繊細な模様が刻んである。
木片を裏返してみると裏返してみると名前が刻んである。
「これを一体どこで」
「古い友人から直接貰い受けたものだ」
首を伸びしてヘーデンスの手にある木片を覗き込んでみるけれどジにはそれがなんだか分からない。
「これは失礼いたしました。
志を同じくし共に戦う同士を歓迎いたします。
ウィリア」
「はい!」
「こちらの方に現在の状況を説明してあげてほしい」
「えっ、いいんですか?」
「構わない。
こちらお返しします」
「わ、分かりました!」
木片一個で異端審問官の態度が変わってしまった。
基本的に他者を受け入れない人たちなのにいきなり手放して説明してやれだなんてジもウィリアも驚いた。
ヘーデンスは木片を返すとグルゼイに頭を下げてスケルトンの捜索に向かった。
「えーと、まだ処理せねならないことがあるので少しお待ちいただいてもよろしいでしょうか?」
「ああ、行ってくるといい」
「ありがとうございます!」
話の通じなさそうな人たちの中でウィリアはかなりまともそうだ。
「アレなんですか?」
アレとはヘーデンスの態度を変えさせた木片のことである。
「昔悪魔を追いかけていたことは話しただろう。
当然悪魔を追いかければ異端審問官と道が交わることになる。
その時に1人の異端審問官に出会ってな。
……あいつも偏屈な男だったが実力はあるし熱心に悪魔を追っていた。
この木の細工品は異端審問官が認めた者に渡される証で、異端審問官ではないが異端審問官と同じ目的を持つ者で協力者であることを証明してくれるものだ」
「へぇ」
グルゼイに偏屈と言われるなんてどんな人なんだ。
「当時もそれなりに地位の高い奴だったが今も変わらないようだな」
ヘーデンスの態度の変わりようを見ればその古い友人が少なくともヘーデンスより立場が上であることはわかる。
他人の権力を振りかざすのは好まないが使えるものは使う。
この異端審問官の証をくれた相手もこうした時に使えばいいと言っていたのを思い出す。
「あれ!
ジ君じゃない!」
「あら、リアイさん、よく会いますね」
「なにー?
私の追っかけでもしてるのかな?」
ウィリアの仕事が落ち着くのを待っているとリアイに声をかけられた。
寝ていたようで髪はボサボサとして服装もお店にいる時とは違っている。
元気そうに振る舞っているがなんだか眠そうだ。
「なんで先にいた俺の方が追っかけなんですか。
それならむしろリアイさんが俺の追っかけじゃないですか」
「ふふっ、確かにそうかもね。
ふわぁ……それにしてもなんでこんなところに、こんな時間に?」
「まあ色々あって。
リアイさんこそどうして?」
大きなあくびをするリアイはここに来る予定がなかったように見える。
「そりゃ倉庫襲われたって聞いたらね」
「ここってリアイさんの倉庫なんですか?」
「うん、そう。
ここらの倉庫はナーズバイン商会で保有している倉庫なんだ。
倉庫が襲われたって聞いてあわてて駆けつけたんだよ」
「借りてた倉庫が襲われたと思ったら次はナーズバインの……」
「どうやら適当に襲っているのでもなさそうだな」
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