異端審問官と師匠と泥棒8
ジならかわせなかったであろう一撃だった。
けれど異端審問官は流れた体をさらに無理矢理倒して剣をかわすとグルゼイの腹を殴りつけた。
とんでもない体幹と足の力である。
「くっ……」
「大人しく降参すれば命までは取らない。
投降するんだ」
「何もしてないのに捕まるわけないだろうが……」
「ならばこちらも手加減は出来ないかもしれないぞ」
殴られたこともあってグルゼイは怒っている。
話し合うなら出会った瞬間にすべきだった。
もうどちらかが力尽くで相手を押さえつけて勝たないと終わらない。
「隊長!
襲撃です!」
再び切り合いになりそうになって、どう止めたものかと悩んでいると倉庫に人が飛び込んできた。
金髪の女性で異端審問官の紋章が刻まれた黒い鎧を身につけていた。
「なに?」
「目をつけていた別の倉庫の方に襲撃があって先輩たちが戦っています!
早く来てください」
「なっ……しかし」
男の異端審問官はグルゼイをチラリと見る。
「言っただろう。
俺たちは敵じゃない」
殴られて怒ったことによる殺気はあったが出会い頭に殺してくるような気配はなかった。
どうしてこんな夜更けに倉庫に足を踏み入れたのか疑問はあるが敵対すべき相手ではない。
何者で目的は何なのか尋問したいが今は時間がないと異端審問官は剣を収める。
「ウィリア、襲撃はどこだ!」
「第三倉庫街の方です!」
「分かった!」
「あっ、そっちは……逆…………です」
勢いよく倉庫を飛び出していった男の異端審問官だったが向かっていった先は襲撃があった倉庫とは真逆の方だった。
速度が速く間違っていると伝える暇も追いかけることもできない。
「襲撃があったのはどっちだ?」
「えっ?
あっち、ですけど」
「そうか」
「ええっ?
ちょ、部外者が勝手に……」
このタイミングでの襲撃はきっと何かがあるとグルゼイは思った。
混乱している女の異端審問官に場所を聞くとそのままサラッと答えてしまった。
ジとグルゼイは襲撃があった倉庫の方に向かった。
戦う音が聞こえ始めてスピードを上げるグルゼイに遅れないように必死についていく。
「なんだこれは!」
町中が戦場になっている。
黒い鎧の騎士数人が大量のスケルトンと戦っている。
道を埋め尽くすほどのスケルトンなどどこから湧いて出てきたのか。
疑問を脇に追いやりグルゼイも剣を抜く。
この数のスケルトンが町に流れ込めば大騒ぎになる。
「加勢する!」
「むっ……助かります!」
魔物を倒すことが今は最優先されるべき。
グルゼイとジが加わり、異端審問官たちも受け入れる。
「フィオス、メイスモード!」
ジは剣を抜かないでフィオスを呼び出す。
そして武器の形を取ってもらう。
剣ではなく打撃武器であるメイスの形になってもらう。
ジはいくつか別々の形の武器もフィオスと練習していた。
尖った刃は難しくても尖らなくてもいいメイスなどの武器も役に立つのではないかとフィオスは変形出来るようになっていた。
スケルトンに対しては斬撃武器よりも打撃武器の方が有効である。
単純なメイスだと重たいけれどフィオスが形を変えたメイスなら頑丈さもありながらジでも振り回せる軽量さも兼ね備えている。
無理はしないようにグルゼイの後ろにつきながらスケルトンを攻撃していく。
戦い始めてようやく異端審問官も子供のジがいることに気がついたが戦っているし今更逃げろとも言えないので自己責任で戦ってもらうことにした。
「バッツ!」
異端審問官の1人がいきなり大きく吹き飛ばされた。
「グッ……クソ」
鎧の胸の部分が大きくヘコんでいるが命には別状ないようで痛みに顔を歪めて起き上がる。
魔法で攻撃されたようで放たれた出どころを探すとすぐに見つけられた。
宙に浮くローブをまとったスケルトンがいた。
「リッチだと!」
いや、スケルトンではない。
他のスケルトンとは一線を画す強い魔力を持ったその魔物はリッチであった。
「よくも邪魔をしてくれましたね」
リッチが手を大きく上げると巨大な火の玉がいくつも空中に燃え上がる。
「避けろ!」
リッチが手を振り下ろし火の玉が飛んでくる。
スケルトンに当たるのも構わず放たれた火の玉を異端審問官たちは下がってかわし、ジはサッとグルゼイの真後ろに隠れる。
グルゼイは剣に魔力を込めて火の玉を切り裂いて戦いを継続する。
「分かっているからな」
「何をですか?」
「今師匠を盾にしたことだ」
後ろに目があるわけでもないが戦闘中はより感覚を広げて周りを警戒している。
ジが後ろに隠れてグルゼイを盾にしたことなどお見通しである。
「あははー……何のことでしょう」
「あれぐらい自分で切れるようにならないとな」
「ほ、ほら、今持ってるの剣じゃないですし?」
「最近忙しそうだから鍛錬も少し優しくしてやっていたが……必要なさそうだな」
「し、師匠!?」
「戦いに集中しろ!」
「そ、そんなぁ!」
集中できなさそうなことを言ったのはそっちじゃないかと反論したくなるが反論してしまうとさらに重たいことになりそうなので泣く泣く黙って戦う。
グルゼイとしては親玉であるリッチを叩きたいがスケルトンが多くて突破も容易くない。
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