異端審問官と師匠と泥棒7

 自分が上手くやるからとオヤジさんが言ってくれたがあまりにも重たい事件を自分1人で抱えておくことは子供には難しい。

 それに倉庫には友達であるジも関わっていることをソコは知っている。


 色んな思いが渦巻いて我慢できなくてジに打ち明けてしまった。


「……ソコ、言ってくれてありがとう」


「ジ…………」


 ソコの肩に手を乗せて真っ直ぐに目を見つめる。

 それはスケルトンじゃない。


 おそらくリッチであるとジはすぐに思った。

 これまでもリッチに出会ってきたからジには分かる。


 ソコが助かったのはこの魔力を遮断するクロークのおかげだろう。

 スケルトンやリッチには目がないので魔力を感知して動いているがソコのクロークがリッチからソコを隠してくれたのだ。


「ただこのことは他に話さない方がいい」


 ジが想像する最悪の考えが的中しているなら異端審問官に伝えるのがいい。

 けれど異端審問官の過激なやり方を考えるにソコを巻き込むのはあまりに過酷である。


 悪いがジの信頼は異端審問官には全くないのである。

 それにまだ予想の域は出ない。


 ソコの身の安全を守るためにも関わらないことが1番である。


「ジ兄いるー?」


「おやつ食べるー?」


 ドアがノックされてタとケの声が聞こえてきた。


「ああ、いるよ。


 今行く!


 どうだ、一緒に食べてかないか?」


「いいのか?」


「もちろん。


 みんなも歓迎してくれるだろうさ」


「やった!」


 ジに話して肩の荷が降りたソコは晴れやかに笑っている。

 しかしジの方はこれは単純な泥棒ではなさそうだと少し頭を悩ませていたのであった。


 ーーーーー


「弟子よ」


「はい師匠」


「お前までついてくることはないのだぞ?」


「だって師匠場所も知らないじゃないですか」


「……言ってもらえば探すぐらいは出来る」


「でも案内した方が早いじゃないですか」


「そうだな。


 感謝するぞ」


 異端審問官には言わないが師匠であるグルゼイは伝えるべきだと思った。

 ジの予想通りなら魔神崇拝者も無関係ではない。


 グルゼイの話を聞いた今ではこの事を隠すのは裏切ることにもなるし帰ってきたグルゼイに事件とソコの話を打ち明けた。

 すると是非カラになった倉庫を見に行きたいと言うのでジが案内することにした。


 倉庫街では似たような倉庫が並んでいるのでどの倉庫なのかは知らなきゃ意外と探しにくい。

 夜に屋敷を出てグルゼイと2人倉庫街に向かった。


 昼夜が違うだけなのに倉庫街の様子は違うように見える。

 昼間はなんてことがなくても夜だと立ち並ぶ同じような倉庫たちは薄気味悪く見えるのがなんとも不思議だ。


 ジの案内で荷物を盗まれた倉庫の方に行く。

 盗まれた倉庫の前には規制するためにロープが張られているが特に守るものはもうないので警備兵もいない。


 しかし少し先に行けばまだ荷物の入っている倉庫はあるのでそちらの方には警備している人が見える。

 多少費用がかかってももう盗まれてはならないので冒険者も雇って警備を強化していた。


 ロープを軽く乗り越えて倉庫の中に入る。

 倉庫には鍵もかかっていない。


 徹底的に調べられた後なのだから何も出ないとは思うがそれでも調べずにはいられないのだろうとジは思った。


「……誰だ!」


 倉庫に足を踏み入れたグルゼイがハッとして倉庫の隅を睨みつけた。

 暗い倉庫の中でもさらに影になっていて真っ暗になっているところで全く見えない。


 ジもソコに意識を集中させると魔力を感じる。

 意図して抑えているのかぼんやりとわずかにしか感じられない魔力をグルゼイは倉庫に入ってすぐに感知したのだ。


 ジも魔力感知に慣れてきたと思ったのにグルゼイに比べればまだまだである。


「犯人は現場に戻るとよく言う。


 やはり戻ってきたか……」


 深い影の中から出てきたのは黒い鎧の男だった。

 胸に刻まれた紋章を見れば簡単に何者なのか分かる。


 異端審問官だ。

 暗い茶色の髪をした異端審問官はジにはどこか見覚えがある。


 薄暗くて顔も見えにくいので目を細めるように見つめていると砂浜で遊んでいる時に船乗りを捕まえていた異端審問官だと思い出した。


「貴様らの目的がなんなのか聞かせてもらおうか!」


 異端審問官は剣を抜くと一気にグルゼイとの距離を詰めた。


「ジ、下がっていろ!」


 グルゼイも剣を抜いて応戦する。

 異端審問官の幅広の剣を華麗に受け流す。


「チッ……待て、俺たちは敵じゃ……」


「聞く耳など持たないわ!」


 異端審問官と戦う理由はジたちにはない。

 事情を説明しようとしたが異端審問官は一切グルゼイの言葉を聞くつもりがないようで激しく攻め立てる。


「そっちがその気なら多少のケガは覚悟してもらうぞ」


 グルゼイだって気が長い人ではない。

 話を聞くつもりがないのなら何度も説得を試みるつもりはなかった。


 異端審問官の剣を防ぎながらグルゼイの服の袖からスティーカーが顔を出す。

 手に巻きつくように体を伸ばしてグルゼイの剣の根元に噛みついた。


 剣に毒が行き渡るまでグルゼイは巧みに異端審問官の剣をさばいてかわす。


「強い!」


 異端審問官の剣を受け流して体が流れたところにグルゼイは突きを繰り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る