異端審問官と師匠と泥棒6
イカイによる消える能力と魔力を隠す不思議なクロークの相乗効果でソコは一流の暗殺者さながら非常に見つけにくくなれたのであった。
盗みの時はソコが盗みに慣れておらずに最初から最後までバレないような接触なく盗むことが出来ず、テントに忍び込んだ時には異端審問官の騒ぎで驚いて能力が解けてヘレンゼールに見つかった。
「まあこんなことどうでもよくて!
聞いてほしいことがあんだよ!
……他の人は話せないし、ジも関わることだから」
ソコは話したいことがあってどうするべきか迷っていた。
けれど話していいのか、あるいは外で話していいものかと悩んで思い切ってジの後をつけて部屋に忍び込んだのであった。
「それで何を聞いてほしいんだ?」
ソコの性格上大体のことはさらりと言えてしまえそうなものなのに外では言えないこととは何だろうか。
表情も暗くてジ自身も関わることは何なのか気になる。
「俺……昨日見ちまったんだ」
「見た?
何をだ?」
「倉庫に泥棒が入っただろ?
その犯人……見ちゃったんだよ!」
「なんだって!」
とんでもない話がソコから飛び出した。
暗い顔をしているからどんな話が飛び出してきても驚かないつもりだったのに予想外の話に驚かずにはいられない。
泥棒をソコが見たという。
もしそれで泥棒を支えまられるなら大きな助けになる。
「どんな奴だった!」
興奮を抑えきれずソコの肩を掴む。
イカイが驚いてソコの腕から逃げてフィオスの隣に移動する。
じーっとフィオスを見ていたイカイはクルリと頭と尻尾をくっ付けるように丸くなり、フィオスがイカイの丸の中に収まった。
まるでイカイがフィオスを乗せる台座みたいになっている。
何してるんだ、君たち。
「それが……」
「顔は見なかったのか?」
言いにくそうにモゴつく。
夜で暗かったら顔が見えないことなどままあることで泥棒は見たけどその特徴までは覚えていないのかもしれない。
「じ、実は……」
「実は?」
「そいつ、魔物だったんだ!」
「………………はぁっ?」
「いや、ウソじゃないんだって!」
「とりあえず全部話を聞いてから決めるから、何があったか話してくれ」
何が何だか分からない。
町中に魔物の泥棒が出たなんて話なんて酔っててもしない。
普通の人にそんなことを言ったなら鼻で笑われるか、ウソをつくなと怒られるところだろうけどジはソコの話を聞いてみることにした。
真剣な目をしているし、忍び込んでソコの秘密まで話してくれたのにくだらないウソをつきに来るわけがない。
ジはソコをベッドに座らせて部屋の鍵を閉める。
ソコの話が本当ならあまり他人に聞かれていい話ではない。
ジが隣に腰掛けるとソコは昨日何があったのかを話し出した。
昨夜ソコは倉庫にいた。
ソコの雇い主である商会長のお願いのためであった。
倉庫の掃除はソコが任されていたが商会長も手伝ったり最終的なチェックをしに来ることもあった。
どうやらその時に倉庫に忘れ物をしていたらしく後日気がついた。
急遽それが必要になってたまたま近くにいたソコにこっそりと倉庫に忍び込んで探してくれないかと頼んだのであった。
ソコはイカイの能力を使い、魔力を隠すクロークを使って警備兵にバレないように倉庫に忍び込んだ。
ちょっと時間はかかったけどそれは見つけられた。
娘さんからもらったペンで窓枠のところに置いてあった。
日も暮れてしまったしペンだけ届けてさっさと帰ろうとソコが倉庫を出た時に事件は起きた。
大きな声が聞こえてきてバレたのかとソコはゆっくりと声の方を見た。
すると警備兵が怒鳴っているのだが対象はソコではなかった。
黒いローブに身を包んでフードを深く被った怪しい格好の相手に警備兵は何者だと問いただしていた。
他の警備兵も集まってきているし今のうちだとソコは倉庫を離れ始めた。
次の瞬間だった。
大きな音がして警備兵が1人飛んできた。
近くに落ちてソコは慌てて身を隠した。
びっくりしてしまってイカイの能力が解けてしまっていたが警備兵がソコに気づくことはなかった。
なぜなら警備兵の胸には大きな穴が空いていて、すでに死んで動かなかったからだ。
ソコは見た。
黒いフードを着た怪しい奴の顔を。
「骨だった……スケルトンとかそんな感じの」
皮膚も肉もなく剥き出しの頭蓋骨がフードの下に見えたのだ。
警備兵と魔物が戦い始めたが一方的だった。
警備兵が子供でも相手にしているかのようにやられていき、ソコは逃げ出した。
「だからオヤジさんに言ったんだ」
オヤジさんとはソコの雇い主である商会長のことである。
倉庫が襲われていることを伝えるとオヤジさんはソコに帰るように伝えて自分は通報しに行った。
どうなったのかと心配であったが次の日倉庫の中身は盗まれて、警備兵や通報で駆けつけた兵士も皆やられてしまったのだと聞いた。
オヤジさんはソコに昨日のことは誰にも言わずに忘れるんだと言った。
もしかしたらソコに危険が及ぶかもしれないからと強く念押ししてソコも危険なことが起こっていることは分かるのでそれに素直にうなずいた。
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