異端審問官と師匠と泥棒5
泥棒を追いかけて商品を取り戻す必要もあるが残っている商品を守ったり輸送したりすることの方が今は優先となる。
調査捜査もするが割り振りとしては警備に力を入れて輸送を前倒しにすることにすることになった。
「量が多く単価当たりでは高価でもないのに何が目的で……」
事件が起きる前の警備だってしっかりしていたものだった。
フェッツの商会に雇われている手練れを中心に人を揃えていた。
安い泥棒なんかには負けない人たちであったのに。
盗まれたものの補填、それと死んだ警備兵の補償や家族への報告などいきなり増えた重たい仕事にフェッツは深いため息をつかずにはいられなかった。
ーーーーー
元々取引の現場を体験するのが目的だった。
なのでそこから先のことはジは関わらない。
倉庫の状況を確認するのがジの関わる最後なので事件の現場まで行くことにはなったが子供に見せるべきではなかったとフェッツに外されることになった。
不可解な事件であるが自分が関わるには手が余る。
どうなったのか結末ぐらいは教えてもらえるだろうからそれで我慢しよう。
「んん?
あれ……?」
ウルシュナの別荘に帰ってきたジは精神的に疲れたので少しベッドに横になろうと思った。
どうしても頭を離れない事件を忘れようとフィオスを枕にベッドに飛び込んだ。
入ってくる時に確かに閉めたはずのドアが開いて、そして閉じた。
ちゃんと閉めていなくて風で開いたり閉じたりしたのだろうかと首を傾げる。
「ジ!」
「誰だ!」
あんな事件があったからドアが少し動いたぐらいで気になるのだとジは思ったが次の瞬間声が聞こえた。
とっさにフィオスを掴んで声の方に振る。
ジの意思に応じてフィオスも出来る限り早く剣の形を取ろうとするが間に合わずアダマンタイトの剣風の棒になる。
それでもジが魔力を込めれば人を切るぐらいはできる。
ところどころスライムのままのフィオスソードが突きつけられて大きく手を上げたのはソコであった。
「お、俺だよ!
忍び込んだのは悪かったよ!」
一歩間違ったら首を切るところだった。
「……なんで、どうやって?」
「ぜ、全部話すからこれ、下ろしてくれよぅ」
「悪かったな」
悪いのはこんなところに入り込んでいるソコだけど。
ジはフィオスをスライムに戻してベッドに置く。
「それでなんでここにいる?
そしてどうやってここに入った?」
ここはウルシュナの別荘。
当然ながら貴族のお屋敷であるので警備がいて知らない人は通さない。
ソコぐらいの子供が知り合いを名乗っても通してもらえない可能性がある。
その上正当に通してもらったとしたら帰ってきたジにそのことが伝わるはずだし、ジの部屋で待っていることもない。
「その……忍び込んだんだよ……」
「忍び込んだって……」
しっかりと塀に囲まれたお屋敷は簡単には忍び込めるはずがない。
砂浜に張られたテントとは訳が違う。
「イカイ」
ソコが名を呼ぶとソコの肩にスーッと魔獣が姿を現した。
爬虫類系の魔獣でやや円錐に近いような目の形をしていて体も両側から挟まれたような平たさがある。
呼び出したというより最初からそこにいて姿を現したかのように出てきたように見えた。
「この子は俺の魔獣のイカイってんだ。
あんまし強くない魔物なんだけど特技があって……イカイ」
頭の先から尻尾の先まで含めるとソコの手からヒジぐらいまであるイカイを腕に乗せてジに見せつける。
イカイを見ていると色が変わっていって消えていく。
正確に言えば周りと同化して非常に視覚しにくくなっているのだ。
「こうやって見えなくなるのがイカイの能力なんだ。
これはピッタリくっついてれば俺も見えなくてなることが出来て、これで隠れて入ってきたんだ」
「ふーん……でもそれだけじゃないだろ?」
「うっ……ジは鋭いな」
使い所は難しいが中々面白い能力だ。
しかしそれだけでは説明が付かない。
「これのおかげもあるのさ」
そう言ってソコは羽織っていたクロークをバーンと広げた。
なんの変哲もないクロークでジの目には特別なものには見えない。
「これがなんだよ?」
「これは俺の叔父さんがくれたものなんだ。
このイカイの能力を秘密にしとけって教えてくれた人で、見えなくなるだけじゃ分かる人には分かるからこれを被ってれば大体の人は分かんなくなるだろうって」
何のことか理解できなかったジだったがソコがクロークの前を閉じて体を覆ってようやく理由が分かった。
ソコの魔力が感知できない。
目の前にいるのに魔力が読めなくなっているのだ。
よく感じてみれば魔力の流れがおかしいことは分かる。
魔力があることを感知する訓練をしてきたが魔力がないことを感知することは考えたこともない。
ジがソコの能力として消えるだけじゃないと思ったのはジだけでなく護衛として周りに気を張っているヘレンゼールすらもソコに2回も気づかなかったからである。
見えないだけならジやヘレンゼールも気づく。
なのにお金を盗まれ、テントに忍び込まれたのはおかしいと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます