フィオスの特殊な形態変化2
「みんな気をつけろよ」
ジが歩いて海に向かう。
「うわああ!」
「きゃあ〜」
「ああははっ!」
するとフィオスがゴロリと転がってジ以外のみんながバランスを崩して中で倒れる。
慌ててジは止まるけど急には止まりきれずに転がるフィオスに巻き込まれてみんな揉みくちゃになって、ジも倒れてしまう。
柔らかいフィオスの中なのでダメージは少ない。
これまで多人数でこれをやったことがないのでこんなことになるとは思いもよらなかった。
「いてて……ごめん。
みんなで合わせて歩かなきゃダメだな」
今度は失敗しない。
みんなで慎重にちょっとずつ歩いて海に入っていく。
フィオスが海に浸かり、そのまま海の底を歩くようにして沈んでいく。
「わぁ……すごーい」
「きれー!」
「俺もこんなの初めて見る……」
「魚が泳いでるな」
「可愛いですね」
あっという間にフィオスは海の中に入ってジたちはフィオスに包まれて海の中を見ることができた。
上から光が差し込み、揺れる海にキラキラと輝く。
水の中じゃ目を開けていられないので表面から見る以外に観察する方法はない。
それがフィオスによって海の中から海の中を見ることが可能となった。
浅いところには安全な魚たちが泳いでいる。
カラフルな魚もいれば、まとまって泳いでいる魚もいる。
「うーん、ちょっと安定しないな」
波に揺られてフィオスが浮き上がってバランスを保つのが難しい。
「フィオス、少しだけ金属化出来ないか?」
過去では岩でも持って水に入ってバランスを保っていた。
今なら人が多いし大丈夫かと思ったが重たい人がいるのとでは勝手が違うようだ。
物は試しとフィオスの一部を金属にしてもらう。
金属化すると金属ほどの重さでなくても質量が変化する。
フィオスは視界の妨げにならないように足元付近の体を金属化してくれる。
するとフィオスが重たくなったおかげで安定する。
あまり深いところに行ったら危ないのでフィオスが浸かるぐらいのところでぼんやりと海を眺める。
これはきっとフィオスにしか出来ないことだろう。
最初変なものが来たと魚も散っていたが眺めていると魚たちも戻ってきてみんな不思議な海の中の光景に見入っていた。
少し息苦しくなってきたら時間だ。
ジが腰に巻いたロープをくいくいと引っ張る。
するとそれがヘレンゼールに伝わり、ヘレンゼールがロープを引っ張ってくれる。
急速に海の中から引き上げられる。
水深が腰ぐらいの浅いところまで来たらフィオスを元の丸い形に戻す。
大きさを保っていてもらったけどもう大丈夫だと言うとフィオスはシュルシュルといつものサイズまで小さくなる。
「すごかったー!」
「フィオスもすごい!」
みんな興奮している。
海中遊覧なんて出来るものではない。
幻想的な光景を見せてくれたフィオスをタとケは撫で回す。
ゆっくりと振動するフィオスはなんだかちょっと誇らしげにしているようにも見えた。
「そのようなこともできるのですね」
見ていたからしていたことはヘレンゼールにもなんとなく分かる。
そうした商売をしているからだろうか魔獣を生かすということに関してジの思考には唸らされる。
まさかスライムであんなことができるなんて誰が思いつくものか。
感心すると同時に実は泳げないヘレンゼールも機会があれば海中遊覧してみたいものだと思った。
「ほら、今日はありがとう」
「えっ……こんなに」
日も暮れてきたので帰ることになった。
ジは約束通りソコにお金を渡す。
半日ほど遊んだだけにしては多い金額を渡されてソコが目を白黒させる。
「いいかソコ。
まだ母親も元気なんだろう?
今のうちにガムシャラになってできることを探してみるんだ」
子供だからと拒否する人は多いが子供でもと受け入れてくれるところだって探せばある。
一旦断られても何度か頭を下げにいけば雇ってくれたりすることもあるし諦めて悪いことに手出すのはまだ早い。
ソコに家族もないのならジが雇うことだってあり得るけどソコはここで生活がある。
ソコの生活はソコが守るしかない。
ほんのわずかな手助けだけどその手助けがあるうちに前を向いてほしい。
「……俺、やってみるよ」
ソコはジから貰ったお金を握りしめてジの目を真っ直ぐに見返す。
悪いことをするのは悪いというだけではない。
悪いことをして後ろめたくめたく思っていると正しく優しく生きてきた自分の父親から目を逸らし、そして忘れてしまいそうになることに気がついた。
久しく思い出していなかった父親の顔を、声を思い出した。
きっと悪いことをこのまま続けていたら思い出せなくなっていた。
「なんでもやってみようと思う。
そしてお金を貯めて……いつか父さんみたいな漁師になるんだ」
「良い夢だと思うよ。
忘れないでほしい。
そして俺はここからいなくなるけど、こうして誰かを助けようとする人もいて、世の中厳しいことばかりじゃないってことも覚えておいてほしい」
「うん、分かってる」
偶然の出会い。
何がジとソコを出会わせて、なぜソコを助けようと思ったのかジにも分からない。
「頑張れよ、ソコ」
「ありがとう、ジ」
「おっと……」
感極まったソコはジに抱きついた。
男に抱きつかれるのは好きじゃないが今はそんなに悪い気分でもなかった。
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